テニスの王子様
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「好きです、大好きです!お友達からよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく」
それが私の一世一代の告白で、それを受けた幸村は笑って手を握りしめてくれた。
それから毎日顔を合わせる度に「好き」と伝えるのが日課となり幸村も受け止めてくれている。
今日もまた下駄箱で鉢合わせた時に「おはよう好きです」と挨拶をすると昼に屋上に来てくれないかという誘いを受け昼に屋上に行くと
「付き合ってください」
と頭を下げられた。それが嬉しくて泣いてしまったが幸村は困ったように笑い、多少焦り抱きしめて頭を撫でてくれた。
それから毎日下駄箱で幸村のことを待つようになり、休み時間も会いに行ったり来てくれたり、順調に過ごしていたと思う。ある一点を除けば。
キスはしたが、男女のあんなことやこんなことはまだであるが時間の問題だと推測している。私がガードを緩めれば多分一発。
あんなことはしていないがあんなことする寸前まではしたが運悪く月の障りがきてしまい未遂。幸村には悪いことをした。
そして互いの呼び方。私はずっと幸村で、幸村も私のことは重影で苗字で呼び合っている。下の名前を知らないなんてことはないよね、と疑ってしまったが彼の友人の柳君が「知っているぞ」と教えてくれたのでこれもクリア。
ただそれでも何が問題かというと、彼から一度として「好き」という言葉をもらったことがない。
可愛い、綺麗だね、なんて言葉はこれでもかっ!というくらいもらった。キスをする度に言われているので挨拶代わりみたいになっている。
ついさっきもキスを受け「今日も可愛いね」なんて言われ私も「嬉しい!大好き」と返したがそれだけ。
友人には「付き合ってんだから好きってことでしょ」幸村 くんがお情けで付き合ってくれないのはみんな知ってると言われたが本当にそうだろうか。
付き合って3ヶ月、私は、私から「好きだ」という言葉を 口にするのを止めることにした。
もし本当に好きでいてくれるなら少しでも気にしてくれるといいのに
「幸村、おはよう」
「おはよう重影、今日も可愛いね」
そう言って教室の前で別れること1ヶ月。私が好きと言わなくなっていることに何の疑念も抱いていない様子に私の精神はベコベコにへこんだ。
「……柳君どう思います……?」
「気にする必要はないと思うぞ」
幸村との共通の友人となった同じクラスの柳くんは読書をしつつサラリと答え
「気にする必要もないって…気になりすぎますってば~……本当は私のこと好きじゃないんだ……お情けなんだ……幸村優しいもん」
ベッコベコにへこんだ私に柳君の言葉も耳に入らず、溶けたアイスのように机に突っ伏しくだを巻いていたら
「碧井ちゃん」
なんて呼ばれ、顔を上げると友人が幸村の来訪を告げてくれたのだが、嬉しくも悲しいという心が二つある。
「……柳くん……」
「安心しろ、焦っているのは……いや、いいだろう、耳を貸せ」
幸村が見つめているなか、柳君に耳打ちされた内容に「嘘だぁ~」と言ってしまい、教室の出入り口にいる幸村がいつもより低い声で
「重影、きて」
と呼んできた。
お昼の約束はしているようで していないが、それでもまだお昼ではないし何だろうと思いつつ幸村の前まで行くと手を掴まれグイと歩かされた。
多少よろめきつつ黙ってついていけば連れられたのは屋上庭園。私が幸村に数ヶ月前に告白した場所。幸村が難しい表情を浮かべているのでいい話題ではないと分かる。私フラれるのかな。しくしく。
「……ずいぶん蓮二と仲良くなったね」
まるで責める物言いに「え」となり幸村はグッと距離をつめ無表情で見つめてくる。
さっき柳くんが「精市はお前のことを好きだぞ」と言っていたが本当だろうか。
「色々、相談に乗ってくれて」
「俺にはできない相談?何の?俺には言えないって、何?」
何で怒ってるんだろう。原因は私と幸村の気持ちの差なのに。
無性に悲しくなって視線を落とそうとしたが幸村の「俺を見て」という言葉に顔を上げ 突然 口を塞がれた。
優しさも何もないキスに驚いて身を引きそうになったが背中と後頭部に手がありそれを許さず、思わず身勝手な舌を噛み離れたところで荒く息をと整えると幸村はポツリと呟いた。
「もう俺は嫌い?」
何で今そんなこと言うの?という疑問でいっぱいになっていたら幸村はポツリと「俺に好きって」言わなくなって1ヶ月だよね、なんて言われポカンとした。
ずっと数えてくれていたの?1か月分も?
じわじわと視界がにじみポロリと涙が頬を伝ったところで 幸村がそれに気づき優しく強く抱きしめてきた。
「お願いだから俺を振らないで……重影に嫌われたら立ち直れない…」
幻聴でも聞いているのか、ポカンと固まってしまってると幸村は私の耳元で「好きだよ 碧井ちゃん」そう呟いた。
好きだよ碧井ちゃん
好きと言ってくれたし、名前を呼んでくれた。初めて言われた。
ポロポロと泣きながら私もぎゅうと抱きつき
「好きだよ、精市」
とつぶやくとさらに強く抱きしめられ大きく息を吐き出した。
「よかった……蓮二からメールが来たんだ。碧井ちゃんとの仲が拗れている。決断をしろ、って…」
俺から好きって言ったことってなかったね、と言われ、また涙がポロポロとこぼれていく。
その涙を拭われながら精市は困ったように微笑みかけてきた。
「まだ間に合う?」
私は力いっぱい頷いて
「大好き!」
そう叫んだ。
2025/10/23