ピエロのワルツ(全33話)
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仕事上がりに会社を出ようとする直前に社長に呼ばれ、カバン片手に社長室に立ち寄れば20区にある支店の一つに行って書類を渡して欲しいと言われてしまった。しかもその書類を確認してもらったらまた戻ってきて書類整理。
何で今言うんだよと渋ぶっていれば社長は小さく手招きをしてコソコソとボーナスに色をつけるからと言われ、その誘惑に私は簡単に負けた。
書類の内容は私は分からないが渡せば向こうの人の人が分かるから確認してもらっている間暇になる。
そういえばウタ君のおすすめの喫茶店があるとか言っていた気がする。
「頼んだよ!」
と手を合わせ書類を出してきた社長に「タクシー代はちゃんと請求しますからね」と残し鞄にしまい込むと会社を後にしてタクシーを捕まえ20区の支店名を伝え向かってもらう。
タクシーは淀みなく進み、あまり見ない景色に4区って最悪な立地条件なんだな、すごいところに住んでるな私、と一人で己に感動してしまう。
そうこうして1時間ほどで目的地に着くと領収書をもらいタクシーを降り会社に入り受付で本社名と名を名乗り書類を持ってきたと伝えるとすんなりと通された。
やっぱり立地条件が良いと働いてるしても明るく見えるな。ほぼ半個室で互いに何の業務をしているのか分からないし方式はこちらでもかわらないようだけど、支店長の書類と名刺を渡せば終わったらまた呼ぶから外で時間を潰していて欲しいと言われた。
いや普通応接室とかどっかの部屋で待たせないか?
だがしかし外で待てと言うなら待とうじゃないか。
一応大体の時間を聞いて連絡が来たらすぐ戻れるようあまり遠くへはいけないなと思いつつ支店を出て適当に足を動かした。
そうして10分ほど歩いていればアンテイクと書かれた看板が置いてありコーヒーのいい香りがする。
喫茶店らしい。
なんとなく気になったので、そして場所も会社から近かったので迷うことなく扉を開け中に入れば落ち着いた雰囲気の店内に静かな音楽が流れており、もしやウタ君の言っていた場所では?という考えは当たっていた。それは後日わかることになる。
マスターと思しき老齢の男性にカウンターを進められたのでそのままカウンターに腰を下ろしカバンは足元のカゴの中へ。メニュー表を渡される前に
「おすすめのコーヒーを」
と注文すれば笑顔で受けてくれてコーヒーを淹れてくれている。
ミルで豆を挽きゆっくり丁寧にお湯を注ぎ作り上げていく過程を見て楽しんでいればマスターは笑って、今目の前で淹れてくれたコーヒーを出してくれた。
「まずはブラックで」
と私は味わうことにした。
肺いっぱいにコーヒーの香りが広がり口に含めばかすかにナッツの後味がする。すごく美味しい。
ブラックは苦手だがこのブラックはいける、すごく美味しい。
ニコニコと笑っているマスターに何のコーヒーかを問いかければ、先日ウタ君が美味しいと言っていたコーヒー豆であり、もしかしてマスターもグールだったりして、なんて邪推しながらもミルでの挽きかたと注ぎかたを尋ねる。
そうすれば私が今のコーヒーを気に入ったと気付いたマスターはそれはもう丁寧に教えてくれて、ふむふむと頷いていく。
コーヒー一つでも世界はあるんだなぁとつぶやいてしまえばマスターはくつくつと笑いケーキをオマケされてしまった。
イヤイヤと断ってみたが、ケーキ、美味しそう。
もう出してもらっちゃったし今日は軽い残業中なので多少は甘えてもいいだろう、そう思うことにした。小腹もすいていたしとケーキを崩していけばそのケーキもコーヒーによく合っていて少しはしゃいでしまう。それもマスターに笑われ恥ずかしくなりながらもコーヒーを飲みきったところで携帯が震え着信を告げる。
会計をしながら電話に出れば
「書類を確認し終わったので戻ってきてほしい」
と告げられ電話に返答して通話を切ってからマスターに「また来ます」と告げ支店に向かう。
返送書類を受け取り4区に戻ると随分と荒んでいるように思えるが住めば都だしと、己に言い聞かせて会社に入り社長に書類を渡し秘書にタクシーの領収書を渡していればまた社長に呼ばれ
「ちょっと残業しない?」と言われたがそれは断って帰宅することができた。
ちょっと残業って、今もそうだったよ!ボーナス楽しみだな!としつつアパートまで歩いていれば、ウタ君が遠くで女の子と歩いているのを見かけるも気にするのはやめて階段を上り自宅に入ると、ベッドに倒れこんで息を吐き出した。
あの喫茶店、今度ウタ君と行こうと思いつつ。
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