ピエロのワルツ(全33話)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は今、大変なことになっている。
ことの始まりはなんてことない、というのもおかしいが、フラりと立ち寄ったビルの洋服コーナーに行こうとしていたら突然の爆音に地響き、そしてスピーカーでも使ったのではないかという程のメガボイスで
「この階にいるやつら!大人しくしてろ!でねえとぶっ殺す!!」
なんて物騒な言葉とものすごい破裂音。多分、銃声だ。
私も私の周りにいる人たちも驚き言葉を無くし、その言葉通り静かに立ちすくんでしまった。
「俺の声が聞こえるやつは今すぐエレベーター前に来い!聞こえねぇと抜かすやつはぶっ殺す!」
おいおいおいおい勘弁してくれよ……。
そうポツリと思いつつメガボイスの声に従って粛々とエレベーター前まで移動し、この階を占拠している男が1人だけではないことがわかった。
顔面フルマスクに銃を一丁ずつ持ったやつが3人ほどで、黙って集まった私たちの手をガムテープでぐるぐるに巻き付け座らされる。
携帯は鞄ごと奪われた。
誰一人 パニックになって逃げ出そうとはしないのが何だか怖いのだが死にたくはないので座って場を過ごす。それは周りの人たちも同じようで震えるものもいるがいたって静かで不気味だ。
占拠した人たちは男の人質だけを開放し女、子供だけを人質にしたようだ。
いくら無防備な人間でも数がいればどうにかしそうな気でもしたのだろうか。
こんなくだらないことはしないけれど、私がこの犯人の中の一人だとしたらまあ男から解放するだろうな。
銃、あるけど。
人質たちのせめてもの救いが、泣き出すほどに年齢の低い子供が一人もいないということでリーダー格の男の前で固まって座っているが男が私を見ると部下に顎でしゃくり 私の二の腕を掴むと立たせてきて誰かの携帯を私の耳に当て呟く。
「警察と話せ」と。
2コールもせず警察に繋がり 「こちら110番」と女性の声が聞こえ男は私に銃口を向けながら今の状況について話せと促してくる。
私は男に二の腕を捕まれたままだが今の状況を話しリーダーは頷き
「そういうことだ」
今から俺の言うことを聞かなければ一人ずつ消えていくと繋げ、私はその場に座らされる。
しかし割と存外に平然としていられるのはひとえに4区に住んでいたことが大きいだろう。今日まで経験してきたことを含めグールに襲われるより人間に襲われる方が全くもって怖くない。私は随分と神経が図太いようだ。
男は携帯越しに占拠理由を述べ、今務所にぶち込まれている“なにがし”を解放しなければ30分ごとに1人ずつ人質を殺していく、とまで口にし私は時計を探してしまう。
30分って結構早いぞ。
小さな悲鳴が上がるも男3人には何も言わず電話をしていて
『先ずは落ち着いて』
なんて聞こえてきたが、落ち着いてる場合でもないし男は警察に一方的に言うだけ言って私の膝に携帯を放り投げてきた。持っていろ、ということだろうか。
男と視線を合わせると男はフルマスク下の目だけで笑い
「サツが動くためにまず一人目だ」
と私に拳銃を向けてきた。
あ、そういうことね、察した。儚い人生だ。享年21って、まだやりたいことができる年齢だったが仕方ないな ぁ。
それが死に対する私の感想。
心臓に拳銃をつけてトリガーを引いたその瞬間、その階いっぱいに破裂音が響き渡りドンと強い衝撃と共に私の体は後ろに倒れ悲鳴が響き渡った。
あ、死んだ、と熱く重い衝撃にそんなことを考えていてもなんだか死んだ気にはならず 閉じていた瞳を開くと私の心臓をぶち抜いたはずの男は目を見開いて呟いた。
「グールだ」、と。
は?という声が己の口からこぼれ男は後ずさりしながら続けて三発私の体に発砲し、そのどれもが私の体に当たったというのに私は死にはせず、力の限り立ち上がりリーダー格の男に体当たりをかますと男は勢いよく吹っ飛んで行きエレベーター横の壁に頭を強かに打ち付けぐったりと倒れこんだ。
それに動揺した他の仲間は私を見て固まり階段付近に解放されていた人質であった男性たちが背後からタックルをかまし三人を捕らえた。
後ろ手に 縛られていたガムテープを外してもらうとカバンを持って階段付近にいた人混みを抜け自宅へと駆け戻り、洗面台の前に立ち鏡を見て愕然とした。
左目が、まるでグールのように黒く赤いのだ。
片目だけが、ウタ君のように、赤いのだ。
次へ