ピエロのワルツ(全33話)
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何でウタ君がここにいるのか、とか、グール捜査官を何のためらいもなく殺した、とか、またスーツ一着駄目になったな、とか、思うところは色々あるけれど、ウタ君の指が私の頬を撫で目尻をグイと拭われた。
「怪我は?アレに何かされた?大丈夫?」
の言葉たちに小さく何度も頷いて、携帯が着信を告げた。たぶん社長だ。
白いコートで身体を隠しながら無傷の鞄から携帯を取り出し血をコートで拭うと電話に出た。
『何かあった?向こうの支店から確認電話来てからもう30分以上経つけど』
「あ、えっと、ちょっと厄介事に巻き込まれまして……」
『遅くなる?』
「す、少し…」
ウタ君が白いコートで私の顔を拭ってくるのでそれを制止させつつ端的に「グールに襲われているところを助けてもらった」とは言えず、道が混んでましてと伝え(年下恋人のグールが私を助けてくれた CCG捜査官二人を殺した)とは言えず
「ちょっとした事故でスーツが破れたので着替えてからなるはやで戻ります」
まで言えば社長は分かったと納得してくれて、また二言、三言話すと通話を切った。
そんな私をウタ君が見つめてきていてヘラリと笑いかけるとぎゅうと抱きしめられてしまった。
「ウタ君汚れるよ」とか「ウタ君なんでいるの」とか、聞きたいことはいくつもあったけれど、ほっと息を吐くとポロリと涙が溢れてきた。そりゃ泣くよ。こんなの。
いつのまにか座り込んでいた私をウタ君が抱き上げてきて、私は慌ててウタ君に制止の声をかける。
「か、鞄と書類……!」
「大切なもの?」
「めちゃくちゃ!」
そうやり取りしても目からは涙が溢れ続けウタくんがペロリと唇を舐めてきた。
いきなり何、と驚いてウタ君の瞳を見つめるとウタ君はウッソリと笑い目を細めるとなぜか口付けられた。いよいよ謎だ。
そうしてから降ろしてもらいコートを取られウタ君の上着を肩にかけられつつ鞄と書類を持ってウタ君と共にアパートに戻ってシャワーと着替えをすることにした。
こんな血まみれのズタボロで会社に戻れるわけがない。
これでスーツが2着も無駄になった。
休みが来たらまとめて安いやつ買うか、私服で通うか。
ウタ君と肩を並べて歩いて行けばチラチラと顔を出してくる人たちはみんなグールであろう、だってウタ君に頭を下げて去っていくのだから間違った見解ではないはずだ。
あっという間にアパートに着くと私は自宅の鍵を開け、ウタ君のジャケットはクリーニングに、私が今着ている服は全て処分でスーツをゴミ箱に突っ込み、シャワーを浴びてから残りの一着のスーツに着替えパンプスも別のものに履き替えまた自宅を出る。
そうするとウタ君が待っていて
「会社まで送るよ」
とウタ君は私を見つめ、断ろうかと思いつつもさっきの今で危機感をもった私は小さく小さく頷いた。
そのまま会社に着き、ウタ君と別れるとデスクには行かず社長室に向かってノックした。
「入って」
と響いたので
「遅くなりました」
と答えながら入室すれば社長がソファーに座っており、その向かいには行かず書類とコーヒー豆を差し出し社長はそれを受け取りつつ私に視線を流し「大丈夫?」と。
なんだか全て見透かされているような気がしてなんとも言えない気持ちになりつつ書類わ、確認してもらうとそのまま社長室を後にした。
……いやに聞いてくるタイプの人間でなくてよかった……。
そう社長に感謝しつつデスクについてパソコンを立ち上げた。横の同僚が
「あれ?着替えたの?」と不思議そうにしていたので笑ってごまかし業務にあたる。
その後は一切のトラブルもなく淀みなく進みあっという間のお昼である。
お弁当はぐちゃぐちゃになっていたので自宅に置いてきた。なので、と、同僚と社食で済ませ定時で上がりヘロヘロと会社を出れば会社前の柵にウタ君とイトリちゃんと蓮示君が立っていて、思わず
「どうしたの?!」
と驚いてしまい、イトリちゃんが私の腕にひっつくと
「うーさんと蓮ちゃんといるところを見せれば牽制になるわよ」
の一言に疲れ切った私はもう何も言えることはなかった。
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