ピエロのワルツ(全33話)
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走り続けるタクシーと運転手に何度も「止めて下さい」と言ってもタクシーは止まることもなく、こんな時に限って信号は全て青で、扉を開けようとしてもロックがかかってしまっているため叶わない。
走行中にでも飛び降りるという案は不採用だ。どうしよう。
タクシーはどんどん4区に戻っていくが途中別の道にそれ、別の通りのクネクネとした裏道に入っていき、行ったことのないような、まだ太陽が出ているというに薄暗い細道でようやくタクシーが止まった。
ガコッという音とともに扉が開き慌てて降りると荷物を抱え走り出そうとするも
「おねえちゃん」
なんてネットリとした声が耳に入った。気持ち悪い……!
昨日ウタ君に抱き潰されたため腰から下が怠いけどそんなことに構ってはいられない。
駆け出そうとした一歩目を踏み出せなかったのは足首に細い触手のようなものが絡みつきその場に倒れ込んでしまったから。
書類やコーヒー豆の入った袋、鞄が散らばっていき痛みを覚えながら振り向けば、タクシーの運転手が楽し気に口端を上げ笑っていて、その目はウタ君と同じもの。
赤く、黒い、目。
グールだ。紛れもなくグールだ。ウタ君やイトリちゃん、蓮示君とは違う、私に悪意と欲しかないその雰囲気を、それを漂わせているグール。
「ひっ…!」
と声が出る前に足首に絡まっていた触手に、グッと力が入ると、そのまま引きずられストッキングとスカートが破れてしまう。パンプスが脱げる。身体は放り投げられてコンクリートの壁に叩きつけられた。
がっ、という鈍い音に、背中全体と後頭部に激痛が走り
「い゛っ、あ゛っっ!」
という声が漏れてしまい、ドンとその場に落ちてしまう。強かに顎を打ち付けた
「っつう……!」
と唸っても目の前のグールは楽し気に近寄ってきて私の顔を覗き込むとにやにやと笑い
「いいねおねえちゃん。俺のタイプなんだよ」
メスの人間のこの香り、たまらなく好きだとヨダレを垂らし生温かい息が吐きかけられた。
気持ち悪い!!!
ズキズキと痛む全身と果てしない不快感に眉を寄せると
「おねえちゃん怖くないの?」
と首を傾げられたため、なるべく気丈な声で
「少しもね」
と言ったが声が震えそうになる。しかしそれもタクシーの、いやグールには通用しておらず、さらに寄せられた顔が、舌が、私の頬を這う。
生理的な嫌悪感に片手でグールを押し退けようとしてもその手は払われ押し倒された。
「放して!どいて!触らないで!!」
「だぁいじょうぶ、痛いのは一瞬だから」
とグールの触手は首に回りスーツの前をシャツのボタンごと引き裂かれ、ウタ君によって付けられた鬱血痕にグールは指を滑らせてきて、身体全体で抵抗してみせてもグールには少しも通用しなかった。
首に回っていた触手に力が入り、いよいよダメかと思った瞬間
「そこまでだ」
という声が耳に入り、私が反応する前に私にまたがっていたグールの首は吹っ飛んでいった。グールの血が首から溢れ私や、私の周辺に飛び散り私は固まってしまう。
どちゃ、とグールが倒れ、咄嗟、そのグールを押しやり半身をを起こせば、そこには白いコートにアタッシュケースを持った2人組がいて、血だらけの私に一人の男のコートが肩にかけられた。
それを手繰り寄せ身体を隠しつつ顔を上げれば
「怪我は?」
と問われたため、壁にぶつかったけどそれ以外は特に、と答えれば手を差し出され立ち上がった。
「お姉さん会社員かな?」
「は、はい」
「会社に連絡できる?」
もう一度「はい」と頷けば、 CCGの本部にいって話を聞きたいから今日はもうおやすみにしてもらってくださいと言われたため
「書類を渡さなければ」
と淀めばちょっとした社畜根性だなと自分で突っ込みつつ、そしてグール捜査官のケース持ちが「それは」こちらから届けます、とりあえず、
まで言った瞬間、今度は捜査官二人の首が吹っ飛んでいき
「柚木さん」
と聞き馴染んだ声が聞こえてきた。ウタ君だ。
グール一体と人間2人の血にまみれた私のもとにウタ君が駆けよってきて、指で顔の血を拭われた。
あまりの展開の速さについていけず硬直していれば、ぎゅうと抱きしめられ私はハッとして周囲を見ると、書類やカバンは無事ということにほっとして、また「社畜根性極まれり」なんて思ってしまった。
社長お待ちください情報整理させてください。
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