ピエロのワルツ(全33話)
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夜、眠気を伴いながら帰路についていたら、ズチュ、グチャ、という水音が聞こえてきて、普段ならさせて気にもしないのだが今日は飲み会があったのでそれに参加してからの帰路である。
何かな~何だろうな~と裏道に入り
「誰かいるんですか~?」
と思わず声を出してしまい、 角を1つ回ったところで二つの黒い影が闇の中に入って、もう一度ズチュ、という音がしたところで、その影が上体を起こし振り返る。
月にかかっていた雲が晴れ、照らす。それは、
「う……」
グールと、
「わ……」
食べられている人の死。
口から漏れてしまった声はどうすることもできないし自分に被害が来なければOK!なんて言ってもいたが、これは、ちょっと、その、アカンやつですね。
緩い風によって血臭が鼻先をかすめ、月明かりの中で死体の有り様がよくわかり
グールの正体も照らされた。それは、
「ウタ、く、ん……?」
「柚木さん」
口元を血だらけにしたウタ君は顔をあげ私を見ると手に持っている腕をポイと放り捨てると立ち上がり、ピチャンと血だまりからウタ君が近寄ってくる。
あまりの衝撃的な惨状にそれ以上の言葉は出てこず、体が硬直してしまい、逃げなきゃいけない、という防衛本能が働きそうになるが相手がウタ君ということでその本能がわずかな理性で押し付けられている。
そんな私にウタ君はサングラスを押し上げながらしっかりと歩み寄ってきて、私の目の前まで来ると立ち止まり顔を覗き込まれてしまう。ウタ君から、むせ返るようか血臭が漂ってきて吐き気がする。
「柚木さんこんばんは」
しかしウタ君はいつもと変わらぬ様子でそう笑い、私の口からは「あ」とか「う」という言葉しか出てこない。酷く動揺しても仕方がないと思いたい。
そうして大層動揺して動けず声も出せずにいる私を見たウタ君は私の腕を掴みぐるりと体の向きをが変えられた。
ウタ君が触れてきたことにまた体が跳ねてしまい、今更になって心臓がバクバクと騒ぎはじめていく。
お願いだから静かにしてよ。
耳の奥で血流の音がダイレクトに響きウタ君が何事かを囁いてきたが全くもって届かない。
背中を押されまた歩き出し裏道から大通りまで来るとウタ君が宥めるように私の肩を撫で
「柚木さん」
と呟くと、今度は正面に向き直されウタ君は首をかしげた。
「一人で帰れる?」
「………」
条件反射で頷けばウタ君は小さく笑うと「じゃあね」と言って私の背中をポンと押した。
それに反応するように私の足はぎこちなくも歩き出し、一切振り返らずに歩いて行く。
頭の中ではウタ君とウタ君が食べていた人間と、ウタ君が人間を捕食していたという現実でいっぱいいっぱいであり、アパートに着き、階段を上り、部屋の鍵を開けて中に入り、鍵とチェーンをかけ、鞄を置き、ベッドに腰を下ろしたことで安心と同時にブワワッと冷や汗が溢れ出す。
ウタ君はのグールなのだから人を食べるのは当たり前だけれど、見たことのあることあるとないとじゃ受け止め方が変わってしまい、人だったものを思いだし肺に残っている血臭に吐き気がしてトイレに駆けこみ吐き出した。
数度嘔吐いてから深呼吸をして水を流し、口をゆすぐと冷蔵庫に入っていたスポーツドリンクを一気に飲み干した。そこでようやく一息つけたのだ。
月明かりで見えた血だらけの裏路地と口端から血を垂らしながらこちらを見たウタ君と、内臓が散らばった死体を思いだし大きく深呼吸をした。もう大丈夫。忘れよう。
そう己に言い聞かせてスーツを脱ぎハンガーにかけていれば気が付いたのは、私はスーツは背中にポンとついた赤黒い手の形をした跡。
「ウタ君の……」
手形とあの人の死体。
グラリとした目眩を覚えスーツをハンガーから外しゴミ袋に突っ込むと別のスーツを取り出しハンガーにかけ直す。
もう何も考えずシャワーを浴びて床についた。
ウタ君が訪れることはなかった。
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