隣の隣の社会人(全14話)
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あの後さらに深く話し合った結果、私は窓となることとなった。
こりゃ仕事を辞めることになるのかなぁなんて考えつつ
「明日お時間をください」
と言った七海さんに頷いて自宅へと戻った。そうした翌日、目を覚ました私は身支度を整えてから七海さんとの約束の時間に部屋を出て廊下にて七海さんと合流する。
なんでも窓になるために高専に行ってその申請をしなければいけないとのことで電車を乗り継いで東京郊外まで来ると、下車した駅のロータリーに黒塗りの車が止まっていた。
いつぞやの眼鏡の人だ。お疲れ様です。
眼鏡の人は「伊地知です」と名乗ってくれたので私も名刺を渡し頭を下げて七海さんとともに車に乗り込んだ。
車内ではお通夜のごとく静かな空気になるのではと危惧していたのだがそうにはならず、伊地知さんと七海さんは会話をしどんどん森の中へと進んで行く道路を眺め小さく小さく息を吐き出してしまった。
狭い車内だ、いくら会話をしていても私の小さなため息に気付かぬはずもなく七海さんは私に顔を向けると静かでいて、いつも通りの声音で
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
と言ってくれた。
いや、まあ、緊張もあるけど私はこの世界のどこに身を置いて生きていかなければいけないのかという疑問と、窓って術師のサポートメンバーに報告するためにあちこち駆け回るのかとかその場合の収入で私は生きていけるのかとかそういった不安の方がめちゃくちゃ大きい。
とにかく詳しくは着いてからということなので私は七海さんの言葉に頷いて膝の上に手を揃えておく。
そんな私に気を使ってくれたのか、伊地知さんも小さく声をかけてきてくれて、いつから呪いを視認できていたのか、とか色々とそちら方面の話題を振ってくれて私の“窓”になるための知識の引き出しを増やしてくれる。
あ、待って、思い出した。呪術師最強の男(名前忘れた)にパシられて顔を青くしていた人じゃん。お疲れ~!!
なんてしながらめちゃくちゃ丁寧な運転に眠気を覚えながらチラと七海さんを見ればバッチリと眼があってしまい、サングラスの下でその眼は私のどこを捉えているのかは分からないがなんとなくとっても分かるので思わず顔を逸らしてしまったが、七海さんは私の手に触れてくるとフ、と息を吐き出し座り直し前を向く。
…今のは何という現象でしょうか支部先生!!!
んああああ!好きいいいい!!!と大暴走する中で車は舗装された坂道を登り大きな門をくぐり抜けると車は止まり、促されるように私は車をおりた。
画面と紙面でしか見れなかった全容があきらかに。
すっごい施設、と立ち止まる私の背に七海さんの手が触れてきて押されてしまい肩を並べて歩き出す。
辿り着いた先は職員室のような場所で、そこで私は年末の笑ったらケツをしばかれる番組のトリを飾る人にそっくりな人と顔を合わせることになる。見た目は怖いがきっと優しいんだろうな、でも「ガッデム」と言ってみてほしさある。
職員室にいた数名に私は小さく頭を下げて、下げ返してもらいここではアレだからと応接室に案内された。
うわ、面接みたい。面接か。
それでも七海さんはソファに腰を下ろし学長さんも腰を下ろし私もそれに倣う。
あーあ、主人公君みたいな対応されたら私の弱々な心臓は跡形もなく散っていくぞー!なんて考えながら学長を見つめていれば、学長はとりあえずと自己紹介を求め、昨日七海さんが話してくれた内容を繰り返し私も
「そのお話は伺いました」
と答えていく。
呪いを視認する程度しか呪力のない私が、それでも高専の他の窓などに見つからなかったのは少し気になるなという表情をされたが当然だ。だって私はこの世界の正規の人間じゃないし。なんてことを言える訳ではないので曖昧に笑って誤魔化し話しは進み
「窓になる気がある、ということでいいかな?」
「は、はい」
その場合、私は今の仕事を辞める必要はないと聞き一安心してから、正式に書類を書き、判を押し、契約は成立した。
補助監督の道は怖いので話の前に私から辞退しておいた。帳も下ろせないからね!
学長は応接室を出ていき次に入ってきたのは伊地知さんで、私と七海さんと伊地知さんで、更に詳しい事柄を決めてからようやく帰宅することとなった。
七海さんは報告書を提出するということで、そして家は同じ場所なのだからと私は七海さんを待つことにして、応接室で出されたお茶をすすっていた瞬間である。
「なーなみ!」
なんて軽快な声とともに扉が開かれ驚いて振り返ればそこには白髪目隠し2m級の巨人、呪術世界最強の男がそこにいた。
「あれ?君誰?」
なんて言葉と同時に。
出なすったよ!