隣の隣の社会人(全14話)
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朝から推しが尊い!なんて思ってしまったのは今朝のこと。
最近お見知りおきとなった推し、七海さんはほぼ毎日会社に出勤する私に付き合って(?)くれているのだが、今朝は休日ということもあってとりあえずやることもないのだが買い物に行かなければなあと思う。
基本、休日は昼まで寝るタイプなので仕事に行く時間に行動する私は珍しい。
ベッドを抜け出てからカーテンを開け放ち「うーん」と言いながら伸びをする。
そのまま朝の習慣をなぞり寝癖を直してから服も着替え食事を済ませる。
先日、会社にえた呪いは、金曜日に出勤したら確かに姿も気配も臭いも無くなっていたし同じフロアの人達もどことなく元気に見えたのだが。
サイフォンで淹れたコーヒーを楽しみテレビを見ていれば今日の運勢は最下位らしい。占いの類いはあまり気にしないタイプであったが今日だけは違ったようだ。
今日、というより、夜だ。また夜だ。
買い物は一通り終えたので夜、友人に飲みに誘われてから喜んでそれに頷き飲みに行き、帰宅する私の背後から“何か”の気配に眉を寄せてしまう。
お酒にはやたらと強いので酔いもせず歩き続け夜道に私のはいているパンプスの音が響いていく。そして、いつの間にか私の背後に迫る気配。
立ち止まって後ろを確認したいがもし“何か”がものすごく近くにいて、振り返った瞬間に襲われでもしたら。
嫌な想像だけをグルグルグルグルと考えながら私の歩く速度は速くなっていき背後の気配も同じ速度でついてきて「ああ、」人間じゃないんだなと心臓の音がバクバクと騒がしく鳴っていく。だって、足音は私の分だけだもん。
何に誰に何をどう頼ればいいのかも分からず、軽い駆け足でチラと背後を見た私の不注意がいけなかった。
酔ってはいないが足がもつれてしまい躓いてしまえば背後の気配がブワッと迫ってきて、私はパンプスを脱ぎ捨てると半ばやけくそに素早く立ち上がると背後の何かに向かって足を振り下ろした。
果たしてそんなものが呪いだと思しきそれに効くのかも分からないし、ワンチャン、人間だとしても多少なりの対処にはなるだろう。知らんけど。
振り向き様に蹴り飛ばしたその感触に私は目を見開き、私の蹴りを食らった呪いは悲鳴を上げながら夜の街頭の下に行ったそれは真っ黒い、大量の目玉が付いた化け物で。
「ヒッ……!」
と息を吸い込んだ私はパンプスを拾い上げ裸足で駆け出した。付き合ってられません。何より怖い。
足に当たった感触が怖かった。
最悪マンションまで行けば七海さんがいるかもしれない。だってそういうお仕事でしたものね?!
他人任せになる圧倒的弱者の私であるがとにかくアレと距離をとりたくて走っていたのだが道に転がっていた小石を踏みつけてしまい足首が曲がる。
「いっ……!」
た、い、と続かぬ言葉は、そういうことだ。つい先程蹴り飛ばした呪いが間近まで迫ってきて人生の終わりを覚悟し眼を強く閉ざせば
「響さん!」
という推しの幻聴が鼓膜を揺らし一陣の風が頬を撫でる。そしてドシュッという音と同時に断末魔が響き顔を上げ眼を開けば七海さんが、私の推しが、私が蹴り飛ばした呪いにトドメをさしており、ポカンとした私の前に七海さんが屈んで膝を付き顔を覗きこまれた。
「怪我は?」
その強く低く静かでいて心の底から絞り出したような声に首をブンブンと振り無傷だと主張した。だが私の足を見た七海さんは眉をしかめると私のパンプスと鞄を拾い上げ私も抱き上げてきた。
推しによる2度目のプリンセスホールドと香水の香りにクラクラしてしまった。
この香水、私が案をだし作ったやつじゃん、と。
嘘だろおい