隣の隣の社会人(全14話)
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私はわりと大きな会社の調香師をしているので一般人と比べると鼻は効く方だし敏感でもあるが、今私の鼻は腐臭にも似た臭いを捉えている。
会社の廊下の窓に張り付く“ソレ”から。
他の社員は気付いてないし昨晩のトリップと呪いというソレで線が繋がってしまい、その呪いとおぼしきソレは私の横にいる同僚を狙っている。
…ちょっと、ヤバイのでは…?
というか今日(いや、昨日か?)までこんなモノを見たことがなかったが見えるようになるとわりかしそこに“いる”ということで動き辛くなってしまう。
なるべく窓から離れて移動すれば呪いは特に某かのことはしてこず、とりあえずは朝の会議に出席した。
香水の新作とイメージ俳優、女優に名前やPOP。いたるところまで考えぬかなければいけないのでその裏で使われる金は軽く億に達することもあるしそれ以上の売り上げをほこることもある。
色々と話し合ってから会議は終わり、己のデスクというか部署まで戻る際、やはり呪いは窓ガラスに張り付いており酷い臭いがするため眉をしかめてしまう。
蹴ってどうにかなるのなら蹴飛ばしたい。
そんなことを考えながら反対の壁にピッタリとくっついてその呪いの横を通り抜ける。そんな私の不審な動きに同僚からはなんとも不思議そうな視線をもらったが知らない振りをしよう。
そのまま仕事を終え5時に打刻を済ませると会社のロビーで同じ調香師仲間と別れ歩き出そうとすれは会社の前の信号機の横に朝から見知った、金髪にベージュのスーツの七海さんをとらえてしまった。
「お疲れ様です響さん」
の言葉に思わず「ヒェッ…」と声が漏れてしまったがけたたましいトラックの音にかき消され合流を果たした七海さんと肩を並べて歩き出す。
七海さん暇なの?
なんかあんまり分からないけど、その呪術なんとかのお仕事あけ?
尋ねたいことは山のようにあるが推しがそこに立っていて私を視認し肩を並べて歩いているって、コレって、死ねってことかな?ありがとうございます!!推しに殺されるってなんたるご褒美でしょうか!ご褒美ですね!はい!!
頭の中で思い切り拍手をしていれば七海さんは私を見下ろし私の名を呼び私の肩は大きく跳ねる。
名前!呼ばれてるよ!死んじゃう!
それでもと七海さんに「はい?」と声を上げ見上げれば七海さんは私の肩を払った後、私のいた会社を見上げ息を吐き出した。
「あそこに“います”ね?」
何がって?呪いがだろうな。
本の少し思案したが隠し事をしなければいけない訳でもないので素直に頷けば七海さんはスルリとスマホを取り出して何処かへと電話をかけ始めた。
なのでと私は進行方向へと顔を向け歩き続け、なるべく話しは聞かないようにと次の香水の案を考えておく。
…七海さんイメージの香水って、作りたいかもしれない。
どこまでも腐ってしまって元には戻れない位置にいる私ってと頭を抱え込んでしまいそうになりながら夕暮れの中を歩き続ける。
本の1、2分の電話を終わらせた七海さんはもう一度、先程より離れた私の勤める会社を見上げ私へと視線を移しハッキリと言い放った。
「明日までには何とかなります」
と。それに「はあ」と気の抜けた声が出てしまうも、まあ、つまり、呪術師とか言うのが祓ってくれるということだろうか。七海さんが「何とかなります」と言ったのだから「何とか」なるのだろう。一安心だ。
今日が金曜日だったのなら「ああ良かった」来週から平和だなぁなんてできたが残念今日は木曜日。まだ明日出勤しなければいけない。
面倒だなあと思いつつ帰宅ラッシュの電車に乗り込み、朝と同じように扉の前で七海さんに守って(?)もらいマンションまで行けば、やはり七海さんも一緒にエレベーターに乗り込むと互いに帰宅した。
「また明日」
「あ、はい、お疲れ様です?」
そう私は首をかしげ自宅の鍵を開けた。
……また明日???
なんで?