狗巻と同中先輩が呪術師になった
私は彼をわんちゃんと呼ぶ(全21話)
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こんな学校柄、入学式なんてものもなくただ新一年生が一人入ったと耳にしたが今日は山奥の祠までわんちゃんと一緒の任務に入った。
車の中では特に会話という会話もなかったがそれはただ単に伊地知さんがいておにぎりの具しか言えないため二人きりになるのを待っているようで、横に放り投げてある私の手をわんちゃんは握りしめてきた。なのでと、お返しに握り返しチラリと見ればわんちゃんは目を細めて笑っている。ご機嫌だな。そんな表情にドキリとしてしまえばなんとなく気まずくなったのは私だけだろうか。
そうして着いた場所は登山道の入り口で、私の口からは
「え~」
なんて声が漏れてしまった。
2年間で色んな任務が入ってきていたけど山を登る仕事はどうしても好きになれないのだ。
一人だったとしたら沢山の休憩を挟んで登っていただろうが今回はわんちゃんも一緒。なのでと仕方無しに黙々と登っていれば段々と嫌な空気になっていく。
そりゃ一級呪物があるんだからそうはなるだろうし今回の任務内容は祠の呪物を持ち帰ること、可能ならその場で呪物の破壊である。
一級呪物と言われたが私は準一級であり、「もしも」という訳で二級術師のわんちゃんと組まされたのだ。
まあ呪詛師がいたらいたでどうにかなるかと意識を飛ばし途中から私に合わせて手を引いて歩いてくれるわんちゃんは優しすぎる。私もその人欠片くらいは持っていなかった。無い物ねだりしないで努力しろ。
そうして辿り着いたのは中腹にある森の脇道であり、木々や雑草を掻き分けて進んでいけば目に見えて怪しいですよ~なんてオーラが見えてきて私はわんちゃんの手を離すとその祠に近付いた。
細心の注意を払って草臥れた箱を開き中を覗きこむと一つの小箱が置いてあり、それを手に取ろうとしたのとわんちゃんが私の腰を引き寄せたのはほぼ同時。
かろうじて小箱は手に取ったのだが私の腕は吹き出した呪いの爪が引き裂いてきて、血飛沫が上がる。
だが、小箱は離さない。
「っ~……!!」
そう息を詰まらせた私に、わんちゃんは口元を覆っている布を指でずらし口を開こうとしたが私はその口を血だらけの手で覆い小箱を押し付けるとわんちゃんの身体を押しやり無傷の手で私の術式を投げつけた。
呪いはそれをもろにくらい何とも言えない悲鳴を上げ消え去っていき私の腕は勢いよく裂けた。
手の平から肘の内側まで肉割れを起こしたように筋が入りまた血飛沫が上がる。そしてわんちゃんが私の手をそれはもう強い力で握りしめてきた。
「わんちゃんっ、痛い!!」
思わず呪いに負けず劣らずの声を上げてしまえばわんちゃんは己の着ていた上着を脱いで腕に巻き付けてこようとしたので荒く息を吐きながら必死に「大丈夫」と呟いた。
「大丈夫、大丈夫だから、治せるから」
そうして笑いかければわんちゃんの口元には赤い手の平の形が付着しており、それでもわんちゃんには傷一つ無いことに安堵した。
一応、私の方がわんちゃんより階級は上で、しかも今みたいに私は怪我をしたのだから二級のわんちゃんはもう少しダメージを負うだろうということは理解できるはずだ。まあ、相性次第だがもしもということがある。
「初音先輩!何考えてるんだ!」
なんて怒鳴る声に困ったように笑いながら反転術式で腕の再生をはかる。
ちょっとカサブタ、ということは呪いの等級が準一級、一級相当であったのだろうと一人頷きわんちゃんは呪物片手に私のことをそれはもう強い力で抱き締めてきた。
「わんちゃん、本当に大丈夫だって」
「俺がいなかったら、死んでたかもしれないんだ!!」
そんな一言を
「おかか!」
に込めて言ってきたわんちゃんに思わず肩を揺らして笑ってしまえばギッと見つめられ
「俺に、守らせて……」
とわんちゃんは弱々しく呟き裂けた服を見てあらわになった私の肩口に額を押し付けてきて
「ーー帰るか、棘」
「!」
わんちゃんは驚いたように私を見たが私はもう何も言わずわんちゃんと共に呪術高専へと互いに無言のまま帰宅することになった。
わんちゃん、怒ってる……?