この関係を壊すモノがいるのならば(連載中)
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柔らかな波音がする。それはシノちゃんと一緒に暮らし始めた家からも聞こえる海の音であり心を落ち着かせてくれる。
『直哉くん』
シノちゃんの声がした。パチン、と意識がはじける。ザン、と音がした。
波は押し寄せ去っていく、その繰り返しを海岸沿いから眺めシノちゃんが砂浜で男と話している。
『直哉くん』
「――、」
名前を呼ぼうと開こうとした口からは音が出ず、けれどシノちゃんは嬉しそうに笑い近づいてくる。
パチン、と弾けた。
『直哉くん』
「シノちゃんっ!」
直哉はハッと目を覚まし立ち上がろうとしたが、その前に呪符の貼られた一面の壁と、手首を拘束されている感覚と、呪力が練れないことと──そしてこちらを向いた2人の男を見て思い出す。
「目が覚めましたか、禪院直哉さん」
「……東京高専か……」
男の1人、伏黒は直哉に声をかけ扉の横には虎杖──宿儺の器が立っており直哉の様子を伺っていた。しかし直哉はそんなことに構っておられず低い声を出す。
「シノちゃんは無事か?」
「……現在、家入さんが治療に当たっています」
「家入……反転術師か……」
直哉はすぐ目の前の結論を出し、伏黒と虎杖が瞠目するも直哉は先に口を開いた。シノのことである。
「シノちゃんが呪詛師って、どういうことや。非術師やぞ」
「禪院直哉さん。『その名前』を呼ばないでください」
「あ゛?なんでそないなことを――!!まさか……」
「“そういうこと”です。乙骨先輩と釘崎が“彼女”のご両親を捕縛し別室にて捕らえています。呪詛師である“彼女の両親”を」
直哉は歯を食いしばり椅子に座らされた状態でうつむき虎杖も伏黒も言葉をなくしかけるもすぐ口を開く。
「もうお分かりでしょうが『その名前』には呪詛が込められ不用意に口にすると何が起こるか分かりません。一種のトリガーとして『その名前』は秘匿ということで了承してください」
「……いつ気づいた」
直哉の低い声に伏黒は手にしていたタブレットを操作し説明を始める。
最初の異変は“彼女”が“直哉”との結婚届けを“彼女”の両親が出すと言った時。
そして禪院にあった呪具が全て売り払われたのち、買い取った相手が“何かの呪詛”により死亡し、それと同時期に“彼女”の行方が“直哉”と共に消えたところから。
その異変は“彼女”のお店のピアスから呪力が溢れ“彼女”が去った後“彼女”の店のピアスを身につけた非術師たちが呪詛により息絶えたと。
全国規模で呪術師が世間に知れ渡った直後からであったため対応が遅れてしまったが、『最強』と『呪いの王』が死滅した後、その死亡範囲はさらに広がった。
しかしそのピアス――呪物は“彼女”の手から作り上げたものではなく父親が手がけたモノから発しており日本中を駆け回った結果、『武内』を名乗るフリーの術師が今回の被害を受けた村や町、市の内外で呪霊祓徐を受け持っていることが判明。
そしてその呪霊の等級が少なくとも1級以上のものも多くあり『武内』はフリーとしつつ『特級』の扱いで接近する 命じられていた。
しかし『武内』は特筆した何かをしていない。そのため様子見として窓は何度か“彼女”の店を訪れるもそこには何の残穢もなく、けれど共有された情報と写真とで“彼女”が『竹内シノ』というものであり呪詛師と疑っていた“彼女”の両親の子供と探し当てるのに時間はかからなかった。
それでも今回動くのに時間がかかったのは“彼女”と共に暮らしている(ここでは伴侶として名乗る)男、『
「俺は『あの子』と結婚して届け出も出してもろうとったんやで」
「“それ”は受理されていませんでしたし、そもそも役所には何の報告も“訪れた形式”もありません」
「なんやて……?」
「直哉さんは『武内直哉』でなく『禪院直哉』のままでありかつ、“彼女”という呪詛師の娘として捕縛対象でした」
けれどその前に2人は京都から去って行きその行き先も不明で探し当てるのに一年を要したという。
「――1年……」
それが“彼女”とたった2人で過ごした年数。
多少の誤差はあるがたったそれだけであり、それ以上は今、なくなった。
そのことに直哉はまたうつむき“彼女”の名を呼びそうになり口を引き結んだ。
虎杖が悲痛な表情を浮かべるが伏黒は続けた。
“彼女”には2人の兄がいた“らしい”が、その両名とも 5つの時に、大抵の術師が術式を自覚する年齢で死亡している、と。直哉は何も言わない。
その2年後に彼女は生まれるも出生届は出されず、7歳の年に『外の世界』で警察に保護された。深夜1時のことである。
“彼女”は己の名だけを名乗り『パパ』と『ママ』以外の人間と会ったことがなく、そして非術師であったがために、親に殺されることがなかったと。
“彼女”の両親は術式を持たない非術師を求め“彼女”を作り出した。
“彼女”は7つになるまで『パパ』と『ママ』の世界の中だけで生かされるも、偶然窓が開いていたため『外の世界』へと踏み出した。
『パパ』と『ママ』以外で構成された世界へ。
直哉は何も言わない。
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