この関係に理由をつけるのならば(全10話)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お店からも家からも……直哉くんからもだいぶ離れたところまで走った私はそのままその場にしゃがみ込み顔を覆ってしまう。
とにかく悲しかった。怖かった。一緒にいられないと思ってしまった。そう思ったことが、嫌だった。
直哉くんは私が嫌がることはしなかった。たまに悪戯に触れてくることはあったけれど、それは互いに笑い合えるから。
でも今の直哉くんは『私の知らない』直哉くんだった。
だから、それだけ『大切』にして『特別』に優しくしてくれていたということを、それを今になって理解した。
直哉くんはきっと優しい人ではない。恵くんという子を「殺す」と言い真希ちゃんに「早よ死やればいい」と言い、実の父親が死んだと報告をしてきた時も「それはどうでもええねん」とすぐ吐き捨てた。
そして真希ちゃんに殺されかかるほどのことをしていたのだ。
それを全て聞き流した私はもっと残酷で、ひどい人間で、優しくなんてない。醜い人間なのだ。
現に今も怒っていても優しかった直哉くんを置いて逃げ出した。なんて、最低な、女。
「ひっ、……くっ……うぅっ…、ふっ…っ…!」
そこに小太郎さんがいることも忘れ泣きじゃくっていると、優しく肩を抱かれ、戸惑いがちに身体を抱きしめられたが、これは直哉くんではない。直哉くんの香りがしない。直哉くんの温もりじゃない。
あんなに酷いことをしたのに、それでも私は直哉くんのことが好きで、今も心から求めている。
「直哉くん……!直哉くん……なおやくん……!!」
「シノさん!落ち着いて!!」
「いやっ!触らないで!いやっ、やめて…!やだ……直哉くん……!」
ペタリと座り込んでしまい、指の隙間から涙がこぼれ地面にシミを作っていく。それでも涙がとまらない。瞬間、
「シノさ、」
「シノちゃん!」
「っ、なおや、くん……!」
「シノちゃんに気安う触んなや!シノちゃんに触れていいのは俺だけや!その手ぇ離さんかい!!」
そんな荒々しい声は背中を刺された時に聞こえてきた以上に荒々しく、そして強い怒りと恐怖と悲しみと愛しさが混ざっていて、私を抱きしめていた温もりが消え鈍い打音と呻き声がした。
ぼやける視界に倒れ込んでしまっている小太郎さんが目に入り声がもれる。
「っ、小、太郎さん!」
「俺以外の男の名前を呼ぶんやない!」
小太郎さんは呻きつつ半身を起こしこちらを見たが、直哉くんが私の目の前に膝をつき両肩を強く掴まれた。なんで、
「なんで、そんなかお、してるの……?」
とても大切なモノを失くし、壊してしまったかのような、顔を。
そっと手を伸ばし、震えながら直哉くんの頬に触れようとして、ためらってしまう。
直哉くんの頬に触れる寸前にとまったっ手に、直哉くんは口をあけ、何かを言おうとし、直哉くんの背後で拳を振り上げた小太郎さんが見え、咄嗟に直哉くんのことを抱きしめ、その拳を庇った。
側頭部に鈍い痛みと鈍い音が響き、それでも直哉くんのことを抱きしめていると小太郎さんが慌てた声を出し、直哉くんが私を抱き上げ一瞬で小太郎さんと距離を取る。
「シノちゃん」
それは、何か溢れそうになるものを抑えるような声音であり。
「なんで、俺をいつも庇うん?」
「なおやくんが、っ!すき、だから……!」
「シノ、」
「傷ついて、ほしくない……!さっきは、ごめんなさい…許してなんて言えない……傷つけて…なおやくんをきずつけてごめんなさい……!!きらいにならないで……なおやくんのそばにさせて……」
お願い……。
「シノちゃん」
酷く優しい声だった。
「シノちゃん」
月が、綺麗と言った時と同じくらい優しくて、真剣な声で。
泣きながら直哉くんを見るとどこか困ったように笑っていた。迷子の子供を嗜めるような、そんな笑顔で、どうにも たまらなくなって直哉くんに抱きついてしまう。
直哉くんも優しく抱きかえしてくれた。涙がまた溢れでる。泣き声も漏らしてしまう。泣きじゃくってしまう。それはもう、みっともないくらいに。
「シノちゃんは、泣いててもかぃらしいね」
帰る?と問われ必死で頷くとそのまま抱き上げられ直哉くんも私も、小太郎さんのことを見ず家への道を直哉くんの腕の中で行く。
「シノちゃん」
「なっ、おや、くん……!」
「俺のこと、好き?」
「すき……だいすき……」
「俺も、シノちゃんのこと大好きやで」
「~~なおやくん……~~っ!」
そうして家に着くまでの間、私は直哉くんの腕の中で泣き続けてしまった。
→