この関係に理由をつけるのならば(全10話)
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「直哉くん、おかえりなさい」
夜までには戻ると言っていたがまだ3時を少し過ぎたくらいでこんなに早く帰ってくるとは思ってもいなかった。
だから自然と声が弾んでしまうし、ついでに頬も緩んでしまう。
うん。直哉くんに抱かれようが抱かれまいがこの際どうでもいいや。
小太郎さんに「ごゆっくり」と頭を下げカウンターからこちらを見ている直哉くんに近寄ると強い力で腕を掴まれそのままダン、とカウンターに押し付けられた。
直哉くんからいつもの香りがほんのりと漂ってくる。ではなく。
「直哉くん……?」
直哉くんの目は座っていた。この目は昔に何度か見たことのあるモノで、それは大抵苛ついてる時と何かを試すような時に向けられるもの。
今のはどちらかというと、いや、怒っている。だがその理由が私には思い当たらない。
直哉くんがぐっと顔を寄せ噛み付くようなキスを落としてきたが、今はお客さんがいるしそもそも人前でキスなんてできない。
「な、おや、くん…、やめて……」
キスの合間合間にそう告げると直哉くんがただ一言「黙っとれ」と恫喝し、また口を塞がれる。
わけがわからないがとにかく今は受け入れられないからと直哉くんの肩を押すがピクリともしない。むしろ更に押し付けられ絡め取られた舌を貪られた。
舌に2つ開けていたうちの先端のピアスはスプリットタンにした時に外している。
つまりかなり深い口づけをされている。でもダメ。見てる、人が、いるから。だから、
「っ、やめて!」
両手で力いっぱい直哉くんを押すと直哉くんはキスをやめてくれたか激しい怒りを湛えていた。
キスはやめたが依然距離はそのままだし、背後で小太郎さんの困惑したような気配がする。
呼吸を整えながら小太郎さんを振り返り「ごめんなさい」今日は、もうお店を閉めるから、と言おうとしたら直哉くん抱き上げられ、そのまま裏口から家に戻り寝室に転がされ直哉くんが見下ろしてくる。
「直哉くん……どうしたの……?何かあったの?」
「シノちゃん」
直哉くんの声は、そう、一度聞いたことのある、ゾッとするほどに冷たい声であり、ビクリと肩を震わせると直哉くんは眉を寄せ目を細め私の上に乗り上げてきた。ゆるゆると口角が上がっていく。
「シノちゃん。俺、言うたよね?シノちゃんは特別やって。特別やから、大切にしたるって」
「う、ん。覚えてるよ…?」
だって、さっきまでそれを考えていたし、聞きたかったし。
でも今の直哉くんには聞いてはいけない気がする。だから、それでも、直哉くんと話さなければいけないとも思う。
「直哉くん、お店閉めてくるから、そうしたら、」
「大切に、してるのになあ」
優しい声なのに、どこか残酷な笑みに心臓が早鐘を打ち背中に氷でも当てられたかのように冷えていくのがわかる。
怖い。直哉くんが怖い。
「や……だ……どいて……直哉くん、やめ、」
「シノちゃん、ほんま、かぃらしいわ」
「……やめて、直哉くん……怖いよ……」
そんな冷たい声で、私の名前を呼ばないで。カタカタと肩が震え動けないでいる私に直哉くんが優しく口付けてきたが私はまた直哉くんのことを押し顔を逸らす。
そうしたら、本の一瞬、直哉くんが泣きそうな表情を見せたが、前開きのタンクトップのファスナーを下ろし脱がされていく。
フロントホックの下着も優しくて外していき胸にちゅっ、とキスを落とされる。
その動作の全てが優しいのに、私はもう、恐怖で押し返すことができない。
はっ、と吐いた息とともに涙がこぼれ直哉くんの名前を呼べない。
「シノちゃん」
「っ、……」
「シノちゃん。俺の
「、あ……っ………」
「泣いててもかぃらしいね、シノちゃん」
「や……やだ……よばないで……わたしの、名前、よばないで……」
「――なんで?」
直哉くんの顔から笑みが消えて、首をかしげてみせる。怖い。
「っ、ふっ……ぅ……どい、て……」
「シノちゃん」
「、どいて……!」
「……シノちゃん」
ボロボロと流れる涙を隠したくて両手で顔とを覆うと、直哉くんはゆっくりと立ち上がり私は震えながら服の乱れを直してお店まで駆けていくが、直哉くんのことは一瞬さえも見れなかった。
お店にはまだ小太郎さんがいて、ボロボロと泣いている私に驚き、手を引かれお店の外へと駆け出した。
「シノちゃん!!」
走りながら背後から直哉くんの声が聞こえてきたけど、私はただとにかく、今の直哉くんとは一緒にはいれなかった。
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