この関係に名前をつけるのならば(全20話)
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「なんや、ただの砂浜やん。期待して損したわ」
小舟で連れて行った先を見て男は心底呆れたように言い放った。人の親切を何だと思ってやがる。こっちはシノさんに下心ありまくってるのを隠してるというのに。
砂浜まで寄せると男は砂浜を歩きさっさと行ってしまうが途中で足を止め「おい」と低い声を出した。
「ここ、よぉ人死にあるやろ」
「そんなの、聞いたことないすけど……」
しかし男はまたザクザクと歩いて行き崖の上を見て、トントンといとも簡単に崖を上がって行き仰天する。人間技じゃねえ。サスケ全クリできんじゃねえのか?
「……アカンわ」
男が崖から周りを見渡してからひょいと飛び降り難なく着地してから小舟に戻り「戻んで」と口にした。
どこか苛立っているし、何かを考えているため声をかけられない。
「シノちゃんが仲良うしとるから特別に忠告したる。もうここに近寄んなや。死ぬで、君」
ゾッとするほどに冷たい声音であり、直哉は舌打ちをすると「ほんまに時間の無駄やったわ」と先の冷たい声はどこへやら、いつもの飄々とした声音に戻っておりホッとした。
しかしここは別に自殺の名所でもないし人が死んだとか打ち上げられたとかそういうのは目にしたこともないが、先程の冷たい声がぶり返る。
いつもの砂浜に戻るまで男は何も言わなかったし俺も何も言わなかったから、小舟を降りると男が笑って「ありがとうな」と言って振り返ることもなく家に戻ってしまった。
ただ一つ、あそこにはもう行かないようにしようとは思った。
素直に恐怖を覚えたからだ。
「直哉くん、どこ行ってたの?」
「ただぁいま。少し散歩に行ってきただけやで」
シノはぼんやりしながら直哉を見上げており直哉はそんなシノの横に腰を下ろし額にキスをするとシノは顔を染めた。
「シノちゃん、かぃらしいなぁ」
直哉くんはケラケラ笑い枕元の水差しから冷や水をコップに注ぎ渡してくれたので視線をそらして水を飲むと意識がはっきりとしてきた。
「今何時?」
「3時半くらい」
「……寝た……」
「ぐっすりやったね」
そう優しく笑う直哉くんに目を伏せちょっと笑ってから顔を上げると直哉くんが私のことをジッと見つめてきていたのでドキドキする。
「ど、どうしたの?」
「うん?可愛らしいなぁって思て、寝顔と寝起きの顔」
「みっ…!見ないで……!」
「今更やん」
なんか直哉くんの様子がいつもと違う気がする。落ち着いてるというかそわそわしているというか考え事をしているような、何かを決めたかのような。それなのにはぐらかして笑う。
「な、直哉くん……何かあったの?」
「あった」
ケロリと言って頷いた直哉くんに「悪いこと?」と尋ねると「どうやろうなぁ」とまたはぐらしてきて、私は直哉くんを見て小声になってしまう。
「私に、関係あること……?」
「うん」
やはり直哉くんは隠すことなく頷いて、私は必死で今日までのことを振り返るが直哉くんが甘い声で私の名を呼び頬を撫でてきたので顔を向けると指先が唇をそっと撫でてきた。
「悪いことやない」
「それなら、いいんだけど……」
悪いことじゃないのか、とほっとすると直哉くんは私を見つめてきて優しく笑いかけてきた。びっくりするぐらい優しい笑みだ。こんな顔、初めて見る。
「安心してな?ホンマに悪いことやないから」
そう言って直哉くんは立ち上がり「お腹すいたやろ」といつものように台所に立ち、その背中を追いかけてしまう。
何だろう、私に関わる悪いことじゃない、優しい笑みと、指先。
「直哉くん」
「まだ秘密や。でも夜にでも教えたるから、そないな顔せんで?いじめたなるやん」
「ええ…でも、うん……わかった」
「シノちゃんはええ子やね」
そのまま直哉くんはご機嫌に遅いお昼ご飯を作り、夕飯のために軽くつまむ程度に抑え散歩に出ると穏やかな海が目に入り防波堤に寄りかかり座ってしまう。
「シノさん」
と後ろから声をかけられ振り向くと、昨日飲みに誘ってくれた漁師さん。申し訳ないが記憶はない。
「こんにちは」
「えっと……直哉くんと、何かありました?」
「え?何も……」
首をかしげると「それなら、いいです」と言い淀みペコリと頭を下げて行ってしまった。
やはり直哉くんは何かあったんだ。本当に、何だろう。少し寂しい。
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