この関係に名前をつけるのならば(全20話)
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「飲み、ですか?」
「地元の友達が帰ってきてるんで、シノさんもよければ」
シノさんが海辺にいたので思わず声をかけてしまうと、シノさんは特に驚いた様子もなく「こんにちは」と笑みを浮かべてくれたのでそのまま“つい”誘ってしまった。
友人らと話した時、俺の片耳にピアスが開いていることに驚かれシノさんについて話してしまうと「誘ってこい!」とお願いされた。シノさんの上品さを見習えというのは難しい話だろうか。
「ごめんなさい……私、お酒強くなくて……」
「いや、じゃあ、別にジュースでも、」
「おい、なにしとるん自分ら」
申し訳なさそうなシノさんにノンアルコールを勧めると突然低い声が会話を遮り、シノさんの恋人(?)がいつの間にか近くにいた。
「直哉くん。何でもないよ。飲みに行かないかって」
「直哉くん」に怯みそうになるがシノさんはそうではないらしく、端的に説明し男は眉をひそめるも少し悩む素振りを見せた。
俺的にはすぐ切り捨てられるかと思ったが男は「ええよ」と言った。
「俺も行くわ」
「あっ、じゃあ、今日の夜、迎えに行くんで、また」
情けないがそそくさと退散しつつ背後の会話に耳を傾けると「直哉くん飲めるの?」とだけ聞こえ、そのまま2人の会話は波の音に消されてしまった。
夜の7時少し前に軽トラではなく母の軽自動車を借りシノさんを迎えに行くとタイミングを計ったように2人が出てきて驚いた。
シノさんはミニ丈のタンクトップにロングカーディガンでローライズとかいうへその出ている短パンジーンズ。
細い腰と豊かな胸に目が行く前に右足のつま先までがっつりと掘られている刺青を見てしまい、お腹にも左側に向かって入っている。
男の方は灰色の薄手の浴衣で素足に草履。なのに金髪と6つのピアスがよく似合う。腹立つな。
シノさんを助手席に乗せたかったが、男同伴のため仕方無く後ろに乗ってもらいパーキングに停める。
「こっちです」と促すとシノさんが隣に並んでくれたが男の方がつまらなさそうに腕を組んで歩き、シノさんが振り返って男の横に戻ってしまった。くそぅ。
すぐ居酒屋の暖簾をくぐり座敷にいる幼馴染に声をかけていくと、シノさんと男を見て目を大きくしていたがシノさんが座敷席に膝をつき「お呼ばれ、ありがとうございます」失礼しますね、と言い柔らかく笑ったのでみんなは驚きから戻ってきた。
男も同じく「お邪魔になるわ」とだけ言ってニコリと笑うと女どもが色めきだった。結局顔なのかよ。シノさんは違うと思いたい。
席は男側と女側に分かれ男が何か言うかと思ったが何も言わず正座で座りガラが悪そうなのにその気品の良さってどうなんだよ、育ちの違いか?あぐらにしろよ。
男の粗を探しつつ、とりあえず飲み物を決めてからということでビールを頼もうとしたら男は「安い酒なん飲むか」と吐き捨てるように言ったためシノさんが慣れたように流し「日本酒とファジーネーブルを」と言ったので浮かれてビールを飲もうとしていた女どもが目をそらした。
ていうかシノさん可愛いの飲むな。そして男は初っ端から日本酒かよ。
店員がすぐジョッキと日本酒を持ってきて飲み始めたところで早速にと女子どもがシノさんと男を見て「早く紹介してよ!」とせっついてきた。
なのでシノさんを見るとシノさんは小さく笑って「初めまして、シノです」と涼やかな声を出し、男を見ると「直哉くんです」と紹介してくれた。
そこに「恋人です」とも「彼氏です」とも「夫です」とも入らなかったのでもしかしたらを期待してしまう。
全然似てないけど実は兄弟とか従兄弟とか……?そこは女子に任せようと思う。頼むシノさん、フリーでいてくれ。
「シノさんっておいくつですか?どこから越してきたの?超おしゃれ!」
名字は、直哉くんとはやっぱり恋人?ピアス専門店って一人で経営してるんですか?
怒涛の勢いで質問攻めをする 女子たちにシノさんはちょっと困った顔をして答えられるものだけを答えてくれた。
今年で直哉くんと同じく29歳。全然見えない。越してきた地元も理由も言えない、でも男のおかげで明らかに関西。苗字は秘密じゃないけど教えるほどのものではないとかわし、恋人については笑みで語り、店は1人だけ。男はヒモか。
男どもはシノさんにデレデレの表情を向け女どもは「直哉くん」に狙いを定め色々と騒ぐように話しかけている。
シノさんが全くもって不快そうにせずも綺麗な所作で冷奴を食べていた。
男の方も同じく綺麗な所作で冷奴を食べていた。
この男から欠点を抜いたら女作り放題じゃないだろうかと鳥串を食べる。
「えっ、本当にシノさんと直哉くんって付き合ってないの?結婚してる?」
ビール3杯を飲みながら女どもは男に問いかけ、男は薄く笑って「どうやろうなぁ」と返しているし、シノさんを見ると、……ん?シノさん?
「シノちゃん。どうしたん?酔うてもうた?」
「なおやくん……」
シノさんはファジーネーブルの一杯で頬を染め目をトロンとさせ、着ていたカーディガンをゆったりと脱いだ。その色気が半端ない。男どもも目を大きくしてシノさんを見つめている。
シノさんは四つん這いで這うようにして「直哉くん」に近づくと、そのまま首筋に腕を回しふにゃふにゃの笑顔を浮かべ
「ちゅうして」
と目を細め「直哉くん」に口付け、しかも舌まで入れてキスをし始めた。
酔うとキス魔になるのか。席を代わってくれ、切実に。
「シノちゃん、シノちゃん……っ、こぉら、アカンで、っ…て」
男にしなだれかかってキスをし続けてからようやく離れると、据わった目でこっちを見てチロリと赤い舌を見せた。
マジか。神様ありがとう!!シノさんが手を伸ばしてきた。が、しかし
「ちゅうしよ」
「アカンで、シノちゃん。怒るよ?」
「直哉くん」がシノさんを抱き寄せ人差し指でシノさんの唇をゆるりと滑らすとシノさんはその指を甘噛みし舐め上げた。男が怪しく笑う。
「すまんけど、先上がるわ」
シノさんを抱き上げカーディガンを持つと、眠ってしまったシノさんとともに居酒屋を出て行ってしまった。マジかよ。
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