この関係に名前をつけるのならば(全20話)
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初冬にどこかから若い男女が越してきたと一気に村中に広まった。それのどこがいけないのかとその時の俺は疑問に思ったが、その2人の装いに度肝を抜かれた。
男の方は切れ長で目つきの鋭い、金髪なのに着物の袴(書生みたいだと思った)に草履でわりと背が高いかなりの男前。
男の俺でも情けなく震えそうになるくらいに顔が整っているが顔の右側にはそこそこ新しい傷があったけれど、それを抜きにしても女どもが見惚れるくらいにイイ男。そしてピアスがかなり開いている。男たちの間ではプラマイぶっちぎりのマイナスの印象だ。
そして女の方はもっと驚いた。サラサラの長い黒髪に赤く染まった箇所のある髪を上にまとめ上げ簪で止めてあり、その両耳には男とは比較にならないほどのピアスが連なっていた。その上右の顔の目元には赤い蝶の刺青が入っていて仰天した。
初冬の頃は外見はそこしか見えなかったが男の方が女の方に無理矢理何かしてるのではないかと邪推した。
女の方も驚くほど顔立ちは整っているしこんな村では見かけない程に男も女も仕草や所作に品があったからどこか名家から来たのだろうか。こんな田舎に?
そして男は女といると絶対に近くを離れないし遠目で見る年寄りどもに睨みをきかせていた。やはり支配をしているのだろうか。
男は女と話す時と機嫌のよさそうな時は口元にゆるい笑みをたたえており、女どもはもれなく落ちた。
女の方もそんな見た目なのに涼やかな声で話しかけているので耳に心地いい。心底男のことを羨ましがる男どもがいた。やはり都会の女に違いない。
成人し都会に流れていった村の友人たちも帰ってきた時には「垢抜けたなあ」なんて言われていたがこの2人を見た時に出た感想は「全然イモじゃねえか」だった。
それほどにこの男女は飛び抜けて目立った。
そうしてしばらくしてから女たちが噂を始めた。
何でもピアス専門店ができたらしいと。そしてそこがあの2人の家だとも、オレの乗る漁船近くの道を1本挟んだところにある白い外装のオシャレなお店なのだとも。
バカみたいにデカデカと装飾をしたり「いかにも」な雰囲気でもない、本当に洗練されたような佇まい。それがより一層品を高く見せ、旅行客やすごい見た目の客も入っていたりでなかなかに繁盛しているらしく遠方ナンバーの車も見かけた。
仕事を終え一服していた時にその店の女が砂浜に立ち冬の波風の中と何処か遠くを見つめていた。
この寒いのに女は素足にサンダルで海水にくるぶしまで浸かっており、つい見かねて声をかけてしまった。それが俺と女、その人との出会い。
その人は「シノ」と名乗ってくれた。響きが綺麗だと思った。そしてよく似合うとも思った。
男の方は「直哉くん」らしい。少し悩む仕草を見せたが教えてくれた。
シノさんは他の女のようにおしゃべりではないらしくひどく静かな人だった。
だがそれで空気が悪くなったり気まずい雰囲気にもならないのが心地よかったけれども話すのが苦手なタチじゃないようで話しかければ柔らかく答えてくれる、本当にいい女だと思った。
何度か声をかけていたらシノさんからも話しかけてくるようになり漁師の仕事について興味深そうに聞いてくれる人。
もしピアスがすごくなければ、髪も染まっていなければ、そして左手の袖から覗く 手首から指先までの刺青がなければ、余計綺麗なのではないかと思ったが、なぜだかそれは想像できなかった。
そうして長い立ち話をしてると男、「直哉くん」が苛立たし気にシノさんの元へときて俺を見ることもなく「早よ戻りぃや」と関西弁で話していた。
しかし男も耳触りのいい声で腹立つな。
仕事を終わらせ家でゴロゴロしてから頃合いを見て「出てくるわ」と軽トラでシノさんのお店に行くとちょうどお客が出て行くところであり、ガラスの扉を開けると様々なピアスやアクセサリーが飾ってあったり並んだりであったりでまるで違う世界に来た感覚になる。
店内には名前はわからないがピアノの音楽が流されており シノさんは俺を見ると薄く笑って迎え入れてくれた。
黒いつなぎの作業着をまとっているが軽くまくられた袖からはびっしりと刺青が見え作業着の下の白いタンクトップの隙間から見えた肌にも刺青が見えてしまった。慌てて目をそらしてしまう。見てはいけないものを見てしまった気分だ。
それでもシノさんは気にした様子もなく店内を見る俺に対し「ご自由にお過ごしください」と耳に心地いい声で促してくれて、俺はほっとしてピアスを見ていく。
女の子向けだったり男向けだったりマニア向けだったり、多種多様なピアスは見ていてなぜか飽きが来ない。
というよりこんなものは間近で見たことがないから興味心が出た。
シノさんはカウンターのスツールに座ってデザイン帳を開き何かを書き込んでいるのでチラチラと視線を向けるとこっちを見て柔らかく笑ってきた。胸が高鳴るのを感じ焦る。
「ピアスは安定するまで1ヶ月から3ヶ月ほど必要ですから、その際にまた来ていただければ相談に乗れますよ」
シノさんはカウンターから出てきて俺の横に立つ。
こうして並んで立つのは初めてでシノさんも意外と背が高いことに気づく。
首には何語がわからない文字の刺青が入っていた。
それこそ痛くないのか。
そう考えつつシノさんが俺を見て耳を見て「目立たせたくなければ」透明なタイプもありますよ、と言い、「もう一つ」魚をかたどったピアスもありますよと見せてくれたのでポロッと「それで」と頷いてしまい、スツールに座らされ、シノさんのほんのり冷たくて柔らかい指先が耳たぶを消毒し、バチン、と響いた大きな音に驚いきはしたが痛みは少しもなかった。
「よく似合ってますよ」
その笑顔と言葉に、浮かれてしまった。
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