この関係に名前をつけるのならば(全20話)
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「こんにちは」
「あ、こんにちは!」
「海はどうですか?」
「今日は調子が良かったですよ」
「そうなんですか。お疲れ様です」
直哉くんと移住して少しぐらいか。季節は春を迎え海と向き合う形の山には桜が咲き誇り始めていて、私はお店の休憩時間によく海沿いを散歩している。
そこでこの村に昔から住んでいる歳の近そうな漁師と知り合いになった。
最初こそ私の見た目に驚いていたが、よく話すうちに慣れてきてくれたらしい。お店の方もネットを開設し遠方オーダーも受け付けていたら昔からの馴染みのお客さんが匿名で口コミを入れてくれて旅行客や地元の女の子たちが覗きに来てくれるようになった。
買い物以外で直哉くんはあまり外出をしないけれど、時々数日空けて何かの仕事をしている。しかもついこの間は市長自らが赴き直哉くんと会話してから「出てくる」と行ってしまい夜中に帰宅し仕事をしていた私に「早よう寝んと肌に悪いで」とちょっと怒ってきて。
布団はシングルニ組からダブルの一組みに変わっており、直哉くんと一緒に寝るのかと目を瞬いてしまったが異存はないし直哉くんも満足そうだ。
そうして特に何の問題もなく生活をしているが若い漁師さんと知り合い「規格外だから売り物にならない」という魚介類をくれるようになった。新鮮な海の幸は嬉しい。
軽く頭を下げてから顔を上げ 耳にかかった髪をかきあげると漁師さんの視線が私の耳を捉えていたので薄く笑ってしまう。
「カッコいいですね……」
「ありがとうございます」
でもそれ以上に何か言いたそうなので視線で促すと「開ける時、痛くないんですか?」ともっとも多い疑問を投げかけられた。
中学の時にはもう開いていたし痛みに対しては強い方だからこれくらいは問題ないが痛いのが嫌なら専門店に行くといいとおすすめしておいた。ピアス仲間が増えるのは嬉しい。
「じゃあ都心に住んでたんですか?こっちは田舎すぎてそういう店はありませんから」
だから私のお店には村や町の若い女の子たちがこっそりと訪れる。
ピアス1つ開けるだけで田舎の老人たちはあまり良い目を向けてこない。私と直哉くんを遠巻きに見て何か言ってるらしいが実害などは一切なく平和である。
私と直哉くんがどこから移住してきたのか老人たちは知りたがるしお店に訪れる女の子たちも気にする素振りを見せるがちょっと笑ってはぐらかす。多分知られてはいけないから。
直哉くんが耳に入れた話では私たちは東京からの避難民ではないかと、それ以外の噂も立っていたらしいがその噂もいつの間にか下火になっているらしい。
「オレも開けてみようかなぁ、なんて……」
若い漁師さんは「あはは」と照れたように笑い、営業文句でもなくいつも新鮮な魚介類をくれるお礼として「片耳に」開けてみますか?と問いかけた。
「海潮にも強い素材もあるので、」
どうでしょう?と首を傾げると漁師さんは「えっ」と驚いた声を上げ、私の耳を見てから自分の耳に触れ、少し悩んでから
「よければ……」
そう頷いた。
「お店、15時から21時まで開いてますので、お手隙の際にいつでもどうぞ」
そう小さく笑ってから振り返ると直哉くんが海岸沿いにある壁によりかかり腕を組んでこちらを睨んでいたので、もう一度頭を下げてから直哉くんの元へと行く。
「散歩してたんと違うか?」
直哉くんは腕を組んだまま不機嫌そうに口にしたので、よく規格外の魚を分けてくれる漁師さんと説明すると小さく舌打ちをして歩き出してしまったので追いかける。
そうして直哉くんに追い付くと袋を取られ空いた片手で手を握りしめ指を絡めてきた。
「帰んで」
「うん」
不機嫌な直哉くんを見つつ少し歩いた先の家に戻れば直哉くんは魚介類を眺めながら「煮付けでも作るか」とつぶやいた。
直哉くんはあんな大きな家にいたが実は結構料理がうまいし家事全般をこなしてくれる。
というより、私がお店や仕事場以外での掃除が結構雑なことに呆れやってくれるようになった。それでも買い物は絶対2人で行くことにこだわっているし私も不満はないため従っている。
今日のお夕飯はお魚の煮付けかと考えながらシャッターを開け、扉にオープンのプレートと店の外には看板を設置する。
もう15時を過ぎてしまっているが店員兼店長は私だけなので何かを言う人はいない。
それでもちらほらとお客さんが来て、小さく話しながらピアスやイヤリングを見て楽しそうにしている。
それを眺めながらデザイン帳を開き新作を考えてるとお客さんは無難なデザインのピアスとオリジナルアクセサリーを購入して店は一時の静けさに戻り、直哉くんが顔を見せ店内を見てから軽く空気を切るように指を動かし戻って行った。
何だろう。でも、空気が少し軽くなった気がする。
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