この関係に名前をつけるのならば(全20話)
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アパートを引き払い、職場に近いマンションに移ってから私はその店に勤めるようになり長期休憩やごくたまに直哉くんが新しい家に遊びに来てくれるようになった。
そのまま時は過ぎ自分のお店を持った。
規模は広くないが前のお店で働いていた時のお客さんが常連になってくれて中々に苦しい生活にはなっていない。そして刺青も全て入れ終わった。
でも誰かに見せるわけでもないため服装も大して気にもとめず好きなものを着て仕事をしていた。
オーダーメイドも受けるようになり商品の売れ行きはいいし直哉くんとの仲も相変わらずよくわからない関係であるが、唯一の親友だと思っている。
たまに来ては「あいつら弱すぎて生きてる価値は何もあらへん」と愚痴を吐き、でも私を見ると「シノちゃんは特別やからね」と笑って宥めるように言ってくる。
直哉くんの言う「弱すぎて」と私への「特別」の意味はやはりいつまでたってもわからない。
でも直哉くんが自分の兄たちを心底嫌っていることは理解したし、ひどくご機嫌な時に「家の次期当主は俺しかおらんみたいやな」と当然のように語ったのであの大きな家を持つのかと感心してしまった。
そういえば、真希ちゃん元気かな。
お父さんが倒れたとお母さんから電話が来た。
でもあまり悪い状態ではないのだが一応連絡しておいたと言い、1ヶ月考えてから東京のお店を実家に移転、及び合同営業の案を出し実家に戻ることを決めた。
自分のお店を持って4年目だった。
顧客、常連、お世話になった人たちへの挨拶回りをしている間に1ヶ月がたち、引っ越し作業を終えてから京都に戻った。
存外、お父さんは元気だったし、お母さんは私が家に戻ったことを喜んでくれて直哉くんもわざわざ出迎えてくれた。
いつの間に両親と仲良くなったのだろうか。直哉くんの耳にあるピアスは相変わらずそのまま変わらないで耳を飾っている。
「シノちゃん、おかえり」
実家のお店の商品に私の商品も並べホームページには移転先であるお店の情報を載せ、わざわざ足を運んでくれる人もいる。
お父さんが倒れた日、病院に行き精密検査をしてみてもどこにも問題はなく「過労でしょう」と診断されると、家に訪れた直哉くんが家の中を見てから眉を寄せ、私と両親に「外で待っとって」と言って5分。
直哉くんが「もうええよ」と笑ってくれていたので何かあったのかなと思ったが家には何かされた様子はないし「シノちゃんのお家やから特別やで」と笑った。
やはり何かしたらしいが教えてくれなかった。その代わりに両親に「連れて行きたいところがある」と言って許可をもらい外泊の用意をするよう言い付けられた。異存はない。
京都府外には出なかったが都市外から離れた郊外の一見様お断りという旅館に連れて行かれ松の間へと通された。
「シノちゃんはゆっくりしとって。庭に出てもええよ」
そう言って直哉くんは「2時間くらいで戻る」と告げ、旅館のオーナーであるっぽい人と行ってしまった。
暇を持て余してしまったが直哉くんの言った通り部屋を見て回り庭先に出てみると麻布の張られた椅子が置いてありそこから庭が眺められる仕組みになっていた。
椅子に座り特に考えごともせず目を閉じ、鳥の声や風の音だけを聞き、気づいたら眠ってしまっていた。私も少し疲れていたようだ。
パチリと目を開ければ隣の椅子に直哉くんが座って本を読んでいたが私に気づくとフワリと笑って「よう寝とったね」と茶化してくる。
「ほな、お夕飯頂こか」
ずいぶんと豪勢な夕食をいただき、部屋についている温泉に浸かり、浴衣を着て部屋に戻れば、私より先に入った直哉くんが並べられた布団に横になって私を見つめてきていたが
「シノちゃんは浴衣もよう似合うね」
と目を細め笑みをたたえ、特に何かをするわけでもなく眠りについた。
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