7年ぶりの初めまして(全39話)
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「西澤さん?」
そんな声を信号機で立ち止まっている私の耳に入り声の方へと顔を向ければそこにいたのは梓さんで。
「お久し振りです」
そう頭を軽く下げれば、会いたかった!と言われ首をかしげれば
「西澤さん全然ポアロに来てくれないんですもん!寂しいですよ?」
来たら来たで安室さんとばっかり話していますしもっと私とお話ししてくださいよ!と熱烈に言われてしまえば苦笑いしか浮かばず
「二回も奢って下さったじゃないですか、それで十分ですよ、気にしないでください」
そう口にした。しかし梓さんはグイッと顔を寄せてきて
「紅茶しか飲んでないじゃないですか!もっと誠心誠意、私にお礼をさせてください!西澤さんは私だけじゃなくポアロも救って下さったんですもん!私が満足するまで帰しません!!」
ここまで言われてしまうともう断る方が失礼な気がしてきて、ギターケースを持ち直すと梓さんに腕を引かれポアロへと連行されてしまった。
「本当に大したことはしてないんですけどねぇ……」
「何言ってるんですか!もっと助けてくれた自覚を持ってください!」
「自覚って……」
そう呟き苦笑いを浮かべるも梓さんは本の少しも気にせず私をカウンターに座らせるとエプロンをかけ、今日は安室さんお休みなんですよ~なんて笑ってきて私はギターケースを足元に立て掛けた。
「紅茶ですか?」
「はい、ダージリンのアイスで」
「了解しました!」
梓さんは歌うように返事をくれてすぐ目の前にグラスを置いてくれた。
そうして一口啜ると香りと味がフワリと鼻先を抜け「美味しい」と呟きながら顔を上げ梓さんを見つめた。
梓さんは他のお客の接客に動くもすぐカウンターに戻ってきて私を見つめ笑顔を深めてきた。
さて、何を言われるのか。
「安室さんとはどんな仲なんですか?」
予想の斜め向こうの言葉にキョトンとしてしまったがそのキラキラとした瞳に笑うと
「初めましてこんにちは」
って関係ですよと紡げば梓さんは身を乗り出し更に追及してきたのは、
「だってお二人とも何だか初めましての様に見えません、本当に初めましてなんですか?」
「安室さんとは本当に初めましてですよ」
私の含みに気付かない梓さんは首をかしげるも悩み素振りを見せもう一度、初めましてですかぁ、と。そして安室さんのこと、どう思います?と。
その問いかけの意味がよく分からず眉を下げ梓さんを見れば
「安室さん、絶対西澤さんのこと好きですよ!」
と。思わず「は?」と声を上げれば
「前にビルから落下してきた女性を受け止めた時、安室さん西澤さんのこと呼び捨てで駆け寄ったってコナン君言ってましたよ?」
どうなんです?本当は仲良しさんでしょ?ね?ね?なんて言ってきたので、抜かったな零と思いつつ素敵な笑顔の梓さんは「脈ありなんですか?!」なんて。
なので私もチラリと笑うと
「そうだったとしても安室さん、タイプじゃありません」
「えー?お似合いだと思ったんですけど……」
雰囲気でも気があっているようにも思えますし見えますし。そう悩む梓さんはパッと顔を上げ胸の前で拳を握りしめると
「私も西澤さんのこと名前で呼んでも良いですか?」
というもの。話が飛ぶなと思うが追及がこないのであれば良しとしようとして「どうぞ」と笑いかけた。
それに梓さんはやったぁ!と笑い
「よろしくお願いしますね!奈々さん!」
と。
本の少しくすぐったくもあるがストローで紅茶を飲み干し梓さんが「おかわりいかがですか?」と言われたため「奢りでなければ」と言うも梓さんは腕でバッテンを作り
「今日も私の奢りです!」
なんてバッサリと言われてしまった。梓さんどれだけ奢れば気が済むのだろうかとしつつお代わりをくれた梓さんの笑顔に、もしかしたら降谷が梓さんに気持ちが移ることがあるのだろうかと考えてしまった。だって、彼女、とても可愛い。
そんな風に話していれば背後でカランカランと入店のベルが鳴り
「あ、西澤先生?」
なんて声が聞こえてきたので振り向けばそこには毛利蘭さんと茶髪にカチューシャの女の子。帝丹高校の制服を着ているし友達だろう。
「こんにちは、蘭ちゃん」
と返せば蘭ちゃんは嬉しそうに笑い蘭ちゃんの横にいた女の子は頭を下げ
「初めまして、鈴木園子です!」
と元気よく一言。なのでこちらも初めましてと頭を下げ蘭ちゃんが「今日はオフですか?」と私とギターケースを見やり、そんな所と返しておいた。
蘭ちゃんも園子ちゃんもまだ話したそうにしているが私は立ち上がり梓さんに、これで奢りは終わりですからねと笑いかけポアロを後にした。
私の背中に向かって「えー?」なんて声も聞こえたが気にするのはやめて駅まで歩きながらなんとなく車道に顔を向ければ白いスポーツカーが信号で止まっており、何とはなしに車内を見ればそこにいたのは金髪美人の女の人と降谷その人物。
誰だろうあの人。
ポツリと考えながら見つめていれば本の一瞬だけ降谷と目が合い、降谷は驚いたように私を見つめたが本当に一瞬だけですぐ車は動いて行ってしまった。
なんとなく、その余所余所しさに心臓をヒヤリとさせてしまったが何か理由があるのだろう。無駄な詮索はしないに限る。
そうして梓さんのことや蘭ちゃんのこと、それにライブについてを考えていれば米花駅に着いてしまい電車に乗り込んで少ししてからスマホが震えたのを感じた。そこには安室透の文字があり電話ではなくメールを開けば『少し話したいことがある』と書かれており、今からなら道場に来る?と返した。そうすればすぐ『走り込みの折り返しで待つ』とあり、やはり見られたり話したりしにくるのは問題があるようだ。
すぐ『了解』と返しスマホをしまうと電車に揺られながら立っていればチラリとした視線を感じそちらを見やれば女子大生くらいの女の子が私を見ており、目が合うとパッと視線をそらされた。
まあ、私の格好だろうなと推測しすぐ私も視線を電車の窓に向け景色を見ていればすぐ最寄り駅までたどり着いた。
ギターケースを背負い直しながら駅の構内を出て太陽の光を感じながら歩き、さて、道場に一旦戻るか、それともこのままいつもの場所へ行くかの天秤をかけたがすぐそのまま折り返し地点に行こうと足を動かしブーツの音を響かせる。
そうして一時間程歩いて着いたそこには先ほど見かけた白い車と降谷の姿があり、その隣には金髪美女はおらず本の少し駆け足で近寄った。
零と呼ぶか安室と呼ぶか一瞬迷ったが零が「奈々さん」と声をかけてきたので安室なのだろうと理解し「こんにちは」と声をかけた。
そうすれば安室も軽く手を上げ答えてくれたがその表情は厳しいもの。これは何かあるなと邪推するとすぐ近くまで足を動かし目の前で止まれば
「先ほど僕といた女性を見ましたね?」
やはりそれかと納得すると頷き答えていけば安室は眉間のシワを濃くし
「先ほどの女性と僕については黙秘して下さい。お願いですから関わらないように」
どことなく余所余所しく、そして冷たい声に少し驚くも言い含められ私は戸惑いながらも小さく頷いておいた。