この世界で迷子の僕を(全80話)



ジンの口から『トロピカルランド』だなんて可愛らしい言葉にちょっと笑ってしまい、ジンは

「どうしたリレ」

なんて問いかけてきたがリレは笑って首を振りジンの髪に手を伸ばすと、けれどジンは何も言わずリレの好きにさせていて混み合う車道を走っていく。

それから1時間してたどり着いたのはやはりというか先程ジンが言ったようにトロピカルランドであり、入口ゲートから少し離れた場所に車は止まり3人は車を降りた。

ジンは車にロックをかけウォッカとともに切符を買い入園する。
なんというか、大柄の男2人と幼いとも言えなくもないリレの3人は中々目立つだろうが切符を購入する時も、入園する時も受付のスタッフさんは笑顔で

「お楽しみください」と送ってくれる。
ジンもウォッカも何も言わないがリレは笑いかけると

「はい」

と答えゲートをくぐった。
ギリギリで覚えている限り、確かジェットコースターに乗って 殺人事件に巻き込まれるんだよな?つまりは、かなりの至近距離で接触してしまうことになるが待て。ジェットコースターは何人乗りだ?僕は絶叫ものなんて乗りたくないけれど、と迷わず歩いていくその2人を追いかけジンの手を握りしめジンもそんなリレの手を握り返してくれた。

向かう先は、やはりジェットコースター。

周囲には新しくできたというこの遊園地を楽しんでいる恋人や友人そして家族などが笑い合って通り過ぎていく。

工藤新一は近距離で見てみたい気持ちもあるがなんとなく止めた方がいいだろうと遠くの誰かが語りかけてくる。
なのでそれに従うことにしようと思い、リレは


「ジン」


とジンの手を引っ張るとジンは視線をリレに向け、リレはこう口にした。


「僕、ジェットコースターじゃなくて観覧車に乗りたい」


頑張って思い出したそれは8人乗りだったような。
歩けば歩くだけ絶叫が響き渡り、その声が大きく聞こえてきて耳を揺るがしてくる。
ジンもそんなリレの言葉を吟味するように見下ろしてくるが小さく頷き


「それ以外に動き回るんじゃねぇ、俺からの連絡にはすぐに出ろ。いいな?」


リレはジンを見つめ、そのモスグリーンの瞳の中いる己の姿を見つめ笑って頷いた。


「観覧車、ループしてるね」


と。
そしてリレはジンの手を離しジェットコースターとは別方向にあるそちらに足を動かすが、すぐ横を工藤新一らしき人物と毛利蘭らしき人物が通り過ぎて行き思わず振り返って見てしまった。

らしき、ではなく確定かもしれない。

ちょっと工藤新一の推理ショーを見てみたい気持ちもあるのだがアレに関わって顔を見られ覚えられるのもちょっと今後に関わることもあるかもしれない。
だって何度かジンとウォッカに接触しそうな場面もあったのだから危ない種は蒔かないに限る。

そう一人納得しリレは観覧車を列に並ぶことにした。

いや、遊園地に来て1人で観覧車に乗るのは怪しさ満点であろうが気にするのはやめよう。

恋人たちが寄り添って乗車しているのを眺めながらもリレの番が来て、リレは促されるままに乗り込んだ。

1人観覧車は少し寂しいものではあろうが気にするのはやめよう。
ゆっくりと上昇していく小さな密室で椅子に座り、だんだんと上がっていく世界を見下ろしていく。

そういえばこんな風に1人なのはある意味久しぶりだがどうしてジンはあんなにリレ、つまり『僕』に優しくしてくれるのだろうかと考えながらも下を見るのはやめて上空を眺めることにした。

綺麗な青空に白くふわふわとした雲を見上げそっと息を吐き出せばジェットコースターが遠く、というほどではないが遠くに見えてリレはボンヤリとそちらを見つめた。

これほどまでに遠いのとジェットコースターの速度では、いつ、誰が、どうしたか、なんて伺い見ることはできないが別に見たいわけでもない。

嘘ですちょっと見たいです。

リレの乗る箱がほぼ頂上に向かったところでリレは景色を見るのやめて椅子に座り直した。
あともう何回乗れば2人と合流できるのだろうか、そんなことを考え携帯を見つめていれば不意に思ったのはベルモットさんとシェリーさんにこの景色を送ろうというそれ。

リレはカメラは機能を活かし 何度も何度も様々な角度で写真を撮り、それを厳選し2人に3枚ほど写真を送った。

そんなすぐ返事はこないだろうと思っていたがしかし、すぐ2人から返信が届き


『楽しんでる?』


なんて全くもって同じメールが届いた。
「シンクロ」思わずそう笑い携帯を閉じればもうすぐ地上に戻ってしまう。そして地上に足をつけてからすぐまた観覧車の列に選ぶ無限ループ。

ちょっと笑いそうになるがそっと息を飲み込みリレの前に並んでいる小さな男の子と目があった。
男の子はじっとリレを見上げてくると、おそらく母親であろう人物の手を引き


「ママ、あのお姉さん一人で並んでるよ」


そう声をかけている。
お姉さんと形容されたそれに突っ込めばいいのか、やはり一人で乗るのは怪しいのかどっちに何を考えればいいのかもわからず目を反らすとやはり母親だったらしい女性はリレをチラリと見ると

「いいのよ」
と小声で伝えている。
男の子はそれでもチラチラと リレを見上げ口にしたのは

「お姉さん 一緒に乗ろう」というもの。

それに驚き男の子を見下ろしてしまえば女性は「コラ!」なんていい
「ごめんなさい、気にしないでください」

そう 苦笑い。なのでリレもちょっとだけ笑うと

「いえ」

と答え、それでも見上げてくる男の子に


「僕、女の人じゃないんだよ」


と声をかけた。


「嘘だー!だってお姉さん 髪が長いよ?男の子なのに髪長いのおかしいよ」


と言われて思わずリレは苦笑い。そしてまた男の子は母親に「コラ!」と怒られ何度も何度も頭を下げられた。

3回目の観覧車を終えるのとほぼ同時にリレの携帯が鳴り響きリレは列から抜ける電話に応じ、ジンの声を聞く。

日は傾き始めており、辺りはオレンジ色の光が世界を染め上げジンがこちらに向かって歩いてきたのを視認すると携帯をおろしジンに駆け寄った。


「ジン、観覧車3回乗っちゃった」


そう笑いかければジンも軽く笑いリレの頭をポンと撫でると


「ウォッカがつけられてる」


そう呟き、ジンの視線の先には工藤新一の姿。


「ウォッカもまだまだ甘ぇな」


と笑いトイレの裏で取引をしているそれを写真収めている 工藤新一の頭部目掛けジンはいつの間にか持っていた鉄パイプで殴り倒した。

うわ、原作突入。

そう心の中で呟くとジンは懐から薬の入ったケースを取り出し意識が混濁していく工藤新一に薬を飲ませ


「サツに見つかる前に引き上げるぞ」


リレ、走れと言われ、リレはジンとウォッカその2人の背中を追いかけた。
まだかろうじて意識はあるのだろうが一瞬だけ 工藤新一を見下ろすとその場を後にした。

頑張れ探偵君。君の人生はこれからだとリレはそっと笑ってしまった。









次でラスト
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