この世界で迷子の僕を(全80話)
「リレ、行くぞ」
ジンのその言葉にリレは頷きコートを羽織るとジンと共に家を後にした。
あんな2度目の誘拐からしばらくするが、数ヶ月してようやくリレは外への恐怖を克服したように思えるがその瞳の色は変わってしまっている。
全てを明るくさせる優しい金の瞳はほの暗い鋭い目つきへと変わってしまっていて、そんなリレにシェリーもウォッカもそしてジンでさえもリレのその変わり様に何も言えないでいる。
だがリレは今までもそうだったかのようにしており小さく笑顔をみんなに向け動いているのだがその状態でリレがシェリーと共に宮野明美に会えば明美は言葉をなくしてしまった。
それほどまでにリレの雰囲気がガラリと変わってしまっており、けれども明美とシェリーに対しても暖かな雰囲気を見せてきたリレのことはシェリーも詳しく教えてもらっていなかったがこんな風になってしまうほどのショックがあったのだろうとシェリーは明美に話しており、久方ぶりの明美に冷たくも温かい表情で会ってくれた。
「久しぶり、リレ」
と笑ってくれた明美にリレは冷たく笑いながら
「お久しぶりです」
と言ったのだが明美はそれ以上は追及させず明美の私生活などの話しを聞いている。
そうしてシェリーと明美と会い話をしている3人だが、その店の駐車場でジンとウォッカは待機しており、ほんの1時間でのお茶を終えリレは立ち上がり2人を見下ろすと冷たくも暖かな表情で笑い
「また、」
会いましょうね、と背を向けて行ってしまった。
「ジン、ウォッカ、ただいま 」
そうしてリレはジンの車に乗り「お待たせしました」と言ってくれるその言葉はどこがよそよそしい。それでも一緒に過ごしていればジンは当然ながら、ウォッカ、そしてシェリーにも本の少しだけ心を開け始めている。
そうしてからの数ヶ月である。
リレはジンに従い車に乗ると既にそこにはウォッカもいて
「どこへ?」
そう問いかけたリレに2人が口にしたのは
「トロピカランドだ」
というもの。
トロピカルランド
テレビのCMでやっていた新しい遊園地であり、リレはその名を耳にして少しハッとした。もちろん2人はそんなリレの表情には気づいていなかったのだがリレははるか昔に感じるこの世界についてを思い出す。
工藤新一と毛利蘭がデートに向かうはずの遊園地。
とうとう原作に乗ってきたなと考えながらもリレは大きく息を吐き出し後部座席に深く座り込んだ。
2人は何事かを話しており、恐らく今日の取り引きについてだろう、聞く必要があるのかないのかわからないがリレは耳を澄まして2人の会話を聞きもせず携帯を取り出した。 連絡相手はベルモット。
特に意味は何もないがベルモットにメールを送りしばらくしてその返事が帰ってきた。
『遊園地なんて、ずいぶん楽しもうとしているじゃない。今度は私も誘ってちょうだい 』
そんな内容にリレはふっと笑い
『僕もベルモットさんと遊びたいです』
と返し携帯をしまい込むと窓越しに 外の景色を楽しむことにした。
と言っても別段何事かのイベントを行っているわけでもないし目ぼしいものがあるわけでもない。そう、ただ通り過ぎていく車や歩いている人間たちを観察することにしており、曜日も曜日で人の数は中々にある。
それにトロピカルランドという新しい遊園地ができたのであり同じ方向に向かって動いてる人も車もトロピカルランド行きにも思えるが気のせいではないだろうな。
リレはのんびりと欠伸をし、ウォッカと話しを終えたジンの髪に手を伸ばしてすいていく。
このまますぐトロピカルランドへ行くのだろうかとしていれば、まず先にたどり着いたのはシェリーのいるラボであり、ジン1人だけが車を降りて行ってしまった。
それにリレはついて行こうかと思ったが思い直して座り直しミラー越しにウォッカと目があった。
こうしてウォッカと2人きりになる回数は片手で足りるものでありウォッカは心配するようにリレを見つめてきた。
「ウォッカ」
「うん?」
リレはチラリと笑い
「大丈夫だよ」
と口にした、その声はどこかさめざめとしておりウォッカは何と答えるべきか悩んでしまったが結局出てきた言葉は
「俺がいるからか?」
というそれ。
リレは笑って頷いて
「そう、ウォッカがいるから大丈夫」
「……アニキは?」
「そんなの決まってるじゃん。ジンがいるのだって、安心できるよ?2人とも好き」
その言葉にウォッカは黙り込み、リレは機嫌よく鼻歌なんて歌っている。
それに気を向けながらもウォッカは懐からフィルムを取り出し確認しており、それからしばらくして建物内からジンが戻ってきた。その手には小さなケースを持っており車に乗り込むと一言。
「トロピカルランドだ」
「へい」
リレはほんのり笑った。
あと少し!