この世界で迷子の僕を(全80話)


本当なら家に帰りたかったが ジンにはやることがある。

元々あった仕事に加え、リレを拐い陵辱しようとしてあいつらの全てを破壊するためジンは動かざるを得ない。
だからと言ってホテルで一人にしておくことも憚られてしまうためジンとウォッカが向かうのは1箇所しかない。

闇の中走り続ける車の中でジンは苛立たしげな雰囲気を消すこともなくアクセルを踏み ウォッカもパソコンを起動し、内容を確認していく。
こいつら……そう中西に関連していたらしいあいつらとその身近にいる人物たちを洗い出していき1人残らず消すためにとウォッカがパソコンをカタカタと操作し考えていく。

そうして30分経っただろうか、 車は1つの会社、いやラボに到着するとジンはリレを抱き上げ何の躊躇いもなく歩いて行き、リレを連れていった先はそうシェリーのところ。

建物に入るためパスを通すと、こんな時間でも働いてる職人たちはジンとウォッカを見ると頭を下げ作業に戻ろうとする。しかしそれ以上にジンの腕の中で眠りについているようなリレが気になってしまい、ジンの恐ろしく不機嫌の様子に気づくと顔をそらし 何も見ていませんを装う。
そしてジンが口にしたのは


「シェリーはどこだ」


というもの。
話しかけられた職員は

「は、はい?」

と 一瞬声をひっくり返したが咳払いをもう一度「はい」と呟いて


「シェリーは今仮眠室にいます」
「いつ行った」


職員は壁の時計を見上げると

「1時間前だったと思いますが、」

そこで言葉を濁してチラリと ジンの腕の中にいるリレを見つめると、ジンは少し眉を寄せカーテンで仕切られているところに入り込む。

3つあるベッドの1つは埋まっており赤茶けた髪がちらりと見えウォッカは棚から1枚のズボンを取り出し


「アニキ」


と差し出してきた。リレのズボンは血にまみれており持ってくる気などなかったし、この部屋には仮として置いてある服もあるのでジンはリレをベッドに横たえるとコートを脱がしズボンを履かせていき ジッとリレを見やりウォッカに「行くぞ」と呟いた。


「リレが目を覚ましたらそのまま寝ていろと言っておけ」


そう職員の1人に声をかけそいつが頷くとジンとウォッカはラボを後にした。
一応としてメモを置いてきたがまあ大丈夫だろうと携帯を操作し

「全員片付けていけ」

と電話しているがジンの機嫌は治らない。そりゃそうだろう。2度も拐われたリレを今後どのようにしてそれを防ぐべきだろうかと考えつつジンはタバコに咥えた。
そして火をつけ煙を吐き出せばそこでようやく少しは落ち着いたのだろうか眉間のシワは消えたが苛立ったままでいるのはよくわかる。

ウォッカはジンとはとても長い間一緒にいたためそれを察することができたため特に声をかけることなく車を走らせた。中西達の生き残りたちは全員消すしかもう道はないので2人の行き先は互いに問いかけることな進んで行き1つの建物に向かい車を止めた。

ジンとウォッカが訪れたら中にいた人物たちは頭を下げ迎え要件のみを伝えるために足を動かし行く先は爆薬を扱っている部屋である。

ジンとウォッカはそこに入ると足を止め誰かを探すかのように視線を巡らした。そうしてピタリと止まった視線の先にいたのは組織の末端の1人。

一々そいつの名を呼ぶ必要もないのでジンは歩きながら

「おい」

と声をかけた。


「ジン、ウォッカ、用意はできています」


末端はそう笑いジンはソレを確認すると

「やれ」

と呟いて歩き出す。
男はジンの背中を見つめながらもしたり顔で「分かりました」と頷き別の人物たちに声をかけて行きそしてまたその男の指示で他の人物たちも動き出した。

全員が全員爆薬をケースにしまいどんどん部屋を後にする。ジンもウォッカもここにはもう用は無いというように車に乗り込みエンジンをかけた。
走り出した車の向かう先はシェリーのいるラボ。ジンの携帯には一つのメール。


『ちょっと、リレを置いてどこへ行ったの?リレが泣いているのよ』


そんな内容にジンは舌打ち一つ。


「ウォッカ」
「へい」
「とばせ」


その一言でウォッカは大体のことを察すると車のない夜の道を通して戻ってきた。
ラボのパスを通し入ればリレの泣き声が聞こえてきて、ジンは早足で仮眠室に向かいシェリーに抱きしめられているリレを見た。そして泣きじゃくるリレに声をかければリレは顔を上げジンに駆け寄ると先ほどよりも大きな声でわんわんと泣き出してしまいシェリーは混乱するばかり。


「じん!じん!じん!うぅっ、ふっ……じんーー……」


とリレはボロボロと涙を流していく。


「落ち着け、落ち着け、リレ」


ジンはそう言いながら片手でリレの頭をぐしゃりと撫で片腕で背中を擦っているとリレの声はだんだんと治まっていきリレは鼻をすすりながらのジンを見上げ


「ジン」と呟いた。
「ごめんなさい……」
「何がだ?」


リレは涙を流しながらもジンを見上げしゃくりながら


「また迷惑かけちゃった…僕、もう、いらな、」


そこまで紡ごうとしたリレの唇をジンの唇が塞ぎシェリーとウォッカの前でリレに口付けを与えていく。
と言っもただ 重ねただけの行為だがシェリーもウォッカも驚き動揺したように瞳を揺るがしたが、ほんの数秒で唇を離したジンはリレを見下ろし 涙を左手で拭っていく。


「余計なことを言うんじゃねえ」


暗に、それ以上言ったしょうちしねえという雰囲気を感じとったリレはこくこくと頷き


「でも、ごめんなさい…」


と呟いた。


「油断した俺もいる。だからもう黙れ」


とジンは口にしリレの身体を引き寄せ腕の中へと閉じ込める。


「……私、何を見せられてるのかしら」


そんなシェリーの声にジンとウォッカはシェリーに視線を移し、リレも泣きながら同じように見つめた。


「シェリーさん……」
「謝らなくていいわよ、あなた何もしていないでしょ?」


シェリーのその言葉にリレは

「シェリーさん」
と嗚咽を漏らし再び泣き始め ジンがリレの頭を撫で落ち着かせようとしたが再びの涙も治まりもせず。
いつも以上に優しく抱きしめてくれるジンのさりげない優しさに声を漏らしてしまい、それから10分ほどリレは泣き尽くすばかり。


「私はお邪魔ね」


仕事に戻るわ、とシェリーはすっと行ってしまい


「アニキ」
「なんだ」
「アレは?」


ジンは時計を見つめると口端を吊り上げ笑うと


「ヤれと言っておけ」


そうしたら帰るぞとジンは呟きリレはジンの腰に回す手に力を込め、一旦出て行ったウォッカが戻ってくると、ようやく3人はラボを後にした。









次へ
77/81ページ
スキ