この世界で迷子の僕を(全80話)
ジンはリレを落ち着かすように抱きしめながらリレの背を撫で
「もう大丈夫だ、もう誰もお前を見ていない」
そう声をかけてもリレは大きな声で泣き叫びジンの背中に指先を食い込ませて強く強く 抱きついておりウォッカはそんな2人を見つつも息を飲んでしまう。
変な方向に向かっている首や顔、そして頭から大量の血を流している男に引き千切れているのは恐らくリレに縛り付けられていたそれであろうが ウォッカはその場に膝をつき 部屋の中を見やると机の上にはカメラが置いてあるウォッカはそれを手に取った。
リレは変わらずわんわんと泣いており、ウォッカはジンを振り返りカメラのボタンを押した。
そこにはリレが目を覚ましてからの映像がありジンは眉間のシワを濃くして倒れている男たちを見つめた。
リレはジンに抱きついて泣いているためこちら側を見ておらず音量を消しひたすら動画をジンとウォッカが見て黙り込む。
その画面の中のリレの動きに視線も反らせずにいれば、小さく息をしながらリレはその泣き声をだんだんと落ち着かせていき、涙でぐしゃぐしゃの顔をジンに向け、それでも泣きながら引きつった声で
「ジン」
と呟きジンはリレと顔を合わせ極めて優しく語りかけたのは
「こいつらは全員、」
お前が殺ったんだな?
そう囁き、リレはもう一度金の瞳からボロリと大粒の涙を流し再び声を上げて泣き出してしまった。
その口から出てきたのは
「ごめんなさい」
というもの。リレは一体何に対して謝ってきているのかがわからず、けれどもジンはウォッカに目配せをしリレのズボンを拾い上げたがそれは男の血飛沫で濡れており、ジンもウォッカもそれをリレに着せる気にはならなかった。
こいつらは既に死んでいるし こんなことをしてきたこの組織を残す気にもならず潰すことをジンは決め、コートを脱ぐとリレに羽織らせる。
ジンの身長にあっているコートである。リレとは頭一つほど身長は違うのでリレが着れば引きずってしまうが別にいいだろう。
そうして少しリレの身体を離してコートを羽織らせればリレはその場にぺたりと座り込み、それはもう必死に息をしようとしているが上手くはいっていないようでリレの肩をそっと撫でる。
リレはそのジンのコートをギュウと掴みうつむいて泣いてしまう。
そうしながらもジンとウォッカの視線はカメラに向いておりリレを犯そうとしているその場面に舌打ちを一つ。だが次の瞬間リレは縄を引き千切り、本のわずかな時間で全員の命を奪っており、リレの潜在能力に驚かされてしまう。
そして全員殺してすぐ姿を現したジンとウォッカが扉を蹴破ったところで画像は終了しておりジンはギリと歯を食い縛った。
あともう少し遅かったら、リレはこいつらに陵辱されていたに違いない。
未だに涙を流すリレのコートの前を閉め抱き上げようとすればリレはそのジンの腕に
「ヒッ…!」
と小さく息を漏らし、しかしすぐに抱きついてきた。
「ジン、ジン……怖いよ…怖いよ……」
体を震わせるリレを今度はちゃんと抱きしめ上げ
「ウォッカ」
「へい」
「潰せ」
そんな小さなやりとりであったがウォッカは頷き設置してあるパソコンを立ち上げ何事かの作業をしジンはリレを抱き上げ、抱きしめたままその室内を後にした。
声を引き吊らせながらもジンの肩に額を押し付け、ただひたすらに「怖い、怖い」と繰り返しているリレ。
本当に、もう少し、遅くても、恐らくリレは全員を殺してしまっていたし、早く来たとしてもリレの切れ業に驚いてしまっていただろう、だが良かった。
それはもう怖い目にあったのだがブチ切れた動きは素人のそれではない。
もしかしたらどこかの組織にでもいたのだろうか?
あの画面の中にあるリレの動きを思い出し、金の瞳を持つ人間がいたかもしれない組織、それに気を向けていたが 不意にリレの泣き声が遠退きリレを見れば、リレはジン肩に頭を預け眠りについている。
その顔は涙でぐしゃぐしゃであり薄暗い廊下を歩きながらジンはリレを見つめ、そっと 頬をすり寄せた。
何でこんな行動したのかはよくわからないがリレは本の少しだけ目蓋を揺らし、けれど目覚める気配もなくその建物を後にし車の後部座席にリレを横たえた。
反射でリレがジンの手をギュッと握りしめたがその力は直ぐに抜け眠っている。
しばらくそんなリレを見つめていたがジンは携帯を取り出すと
「ウォッカ、情報を流してから戻ってこい」
始末の仕方は分かっているだろうと暗に込めれば電話の向こうでウォッカは頷き10分もせず戻ってくる、その手には パソコンとカメラ 。
何をするのかは分かっている。
二人は車に乗り込みアクセルを踏み込んだ。
続く