この世界で迷子の僕を(全80話)
リレが眠ってから二時間と少ししてジンとウォッカが姿を現した開口一番「リレはどこだ」。パソコンに向き合っていたシェリーは立ち上がり「仮眠室で眠っているわ」と伝え三人で仮眠室のカーテンの中に入る。
「何か分かったことはあるか」
「いいえ、どこのデータバンクにアクセスしても一件のヒットもなかったわ」
血液検査でも少しの異常もない、いたって健康体、と言いたい所だが全身を震わせ吐き出してしまっていたアレは健康とは言い難い。
そのシェリーの言葉にジンは何事かを考えてながら仮眠室で膨らんでいるベッドに近寄り、リレの真っ白い顔と顔にかかっている前髪を軽く払うとリレの目蓋がピクリと反応した。それは勿論リレのすぐ側にいたジンにしか気付けぬものであり、深く閉ざされていたリレの目蓋がゆっくりと開き金の瞳がジンを捉えた。そのまま大きく目を見開くとガバッと起き上がり
「ジン!ジン!!」
と叫ぶような声を上げジンのコートを掴むと額を押し付け何度もジンの名を呼んでいる。そんなリレの背をジンはポンと撫で一言「吐いたらしいな」と。リレは「うん」と小さく頷き「すぐ戻るって」言ったのにとジンを責めるようなその言い回しにシェリーもウォッカも息を飲む。しかしジンはどこか楽し気に口端を吊り上げると
「俺がいないとダメらしいな、リレ」
と呟いた。
「っ、ふっ、ジン…ごめ、ごめんなさい…ごめ、なさい……」
何度もごめんなさいと呟き泣き出すリレ。ジンに、あのジンにこんな態度をとれる人物なんて今までも、そしてこれからも存在しないだろうが今のリレにそんなことが分かるはずもない。
本の数分泣いていたリレは鼻を啜りながら顔を上げ、ジンはリレの目元を拭ってやる。
「落ち着いたか?」
「ん、うん」
本の一瞬息を飲むとジンを見上げリレはへにゃりと笑い「どこに行っていたの?」と。そんなリレにジンはポケットから携帯を取り出しリレの手の中にポトリと落とす。
「お前のだ」
その言葉にリレは目を見開くとジンを呆然と見つめ「ぼく、ジンと一緒にいられないの?」そう消えそうな声で囁き、ジンはクックッと笑うとリレの頭を撫で「念のためだ」と。何のための念のためなのか分からないのは僕のポンコツ脳がいけないのだろうか、ジンと離れる必要はないととってもいいのだろうか?
ジンは視線をシェリーに向け問いかけたのは
『本当に何も分からなかったんだな?』
というもの。
『言ったでしょう?一件のヒットもないって』
そうして始まった会話にリレは首をかしげ呟いた。
『何で日本語で話さないの?』
『英語が話せるのか?』
そのジンの呟きにリレは躊躇いながら頷いたが、リレが英語を解したそれに驚いたのは何もジン達だけではない。リレ本人も驚いている。
「…リレ、お前、他にどの言葉が話せる?」
「…分からない…」
分からない、というより知らない、というものが正しいが分からないでも正しいだろう。それでもすんなりと英語を解し話したということはもしかしたら英語以外も分かるかもしれない。それでも自分のポンコツ脳を信じることは少し難しい気もするがもし他の言語も解せればジンの役にたつかもしれないと心を踊らせる。
「リレ、もう動けるな?」
「うん、大丈夫」
そう頷きリレはベッドから下りると携帯を握りしめジンを見上げる。ウォッカ行くぞと歩き出したジンに二人は続きシェリーは眉間にシワを寄せると去ろうとするジンに「その子どうするの」と。しかしジンは少しも気にせず研究室を後にしリレは一瞬シェリーを振り向き頭を下げ三人は行ってしまった。
「全く……」
ウォッカといい今のリレといいどうしてああもジンに従えるのだろうか、全くもって理解できないがリレは拾ってくれたジンを慕っているようであり、シェリーは頭を押さえ大きく息を吐きだしてしまった。
「ジン、どこ行くの?」
そう問いかけたリレにジンはチラリと視線を向けると「少し」試したいことがある、と真っ直ぐ迷いなく歩きその言葉にリレとウォッカは首をかしげてしまうが恐らくとウォッカが考えたのは、つい先程
「他の言語が話せるのか」
という問いかけ。
アニキはリレに多言語を読んだり話させたり聞かせたりするつもりなのだろうと。しかしリレはすんなりと英語を話したし、もしかしたらとアニキはリレを連れて歩いているのだろう。
リレ、シェリーが調べても何も出てこなかったこの人物は果たしてどこまでアニキや組織の力になるのだろうか。俺にはアニキの考えが深くは分からない、とりあえず今はこのリレと共にアニキに従うことにしようと1人そっと頷いて。
「ウォッカ」
「ん?」
「ウォッカも英語話せるの?」
「あ、ああ、まあな」
リレの言葉に答えればリレは笑って「そっか」と口にした。
そうしてジンが向かったのは研究室近くにある資料室。ここには様々な言語で記されている書類などがありそれに伴ってそれを翻訳する人間達もいて、ジンはその資料室に入ると戸棚から冊子を一冊取り出しリレに差し出した。
それは恐らくロシア語だろうがウォッカには読めない。
リレはその冊子を受け取り視線を落とす。
「読め」
「…アポトーシスの基本配分とその分子による結合術…」
「ほう」
ウォッカはポカンとし、そしてジンは楽し気に笑いリレは続きも読むのだろうかとジンを見上げればジンはリレの手の中の冊子を取り戻すと別の冊子を差し出した。それは恐らくドイツ語。
それも同じように読み上げれば今度こそウォッカも信じられないようなものを見る目で見てしまい、ジンは
「中々に使えるじゃねえか」
と呟き低く笑うと携帯を取り出し操作する。そこから聞こえたのは七つの子のプッシュ音。
本の少しジンは携帯を操作すると口端を吊り上げたままリレを見下ろし「役に立ってもらうぞ、リレ」と。
次へ
「何か分かったことはあるか」
「いいえ、どこのデータバンクにアクセスしても一件のヒットもなかったわ」
血液検査でも少しの異常もない、いたって健康体、と言いたい所だが全身を震わせ吐き出してしまっていたアレは健康とは言い難い。
そのシェリーの言葉にジンは何事かを考えてながら仮眠室で膨らんでいるベッドに近寄り、リレの真っ白い顔と顔にかかっている前髪を軽く払うとリレの目蓋がピクリと反応した。それは勿論リレのすぐ側にいたジンにしか気付けぬものであり、深く閉ざされていたリレの目蓋がゆっくりと開き金の瞳がジンを捉えた。そのまま大きく目を見開くとガバッと起き上がり
「ジン!ジン!!」
と叫ぶような声を上げジンのコートを掴むと額を押し付け何度もジンの名を呼んでいる。そんなリレの背をジンはポンと撫で一言「吐いたらしいな」と。リレは「うん」と小さく頷き「すぐ戻るって」言ったのにとジンを責めるようなその言い回しにシェリーもウォッカも息を飲む。しかしジンはどこか楽し気に口端を吊り上げると
「俺がいないとダメらしいな、リレ」
と呟いた。
「っ、ふっ、ジン…ごめ、ごめんなさい…ごめ、なさい……」
何度もごめんなさいと呟き泣き出すリレ。ジンに、あのジンにこんな態度をとれる人物なんて今までも、そしてこれからも存在しないだろうが今のリレにそんなことが分かるはずもない。
本の数分泣いていたリレは鼻を啜りながら顔を上げ、ジンはリレの目元を拭ってやる。
「落ち着いたか?」
「ん、うん」
本の一瞬息を飲むとジンを見上げリレはへにゃりと笑い「どこに行っていたの?」と。そんなリレにジンはポケットから携帯を取り出しリレの手の中にポトリと落とす。
「お前のだ」
その言葉にリレは目を見開くとジンを呆然と見つめ「ぼく、ジンと一緒にいられないの?」そう消えそうな声で囁き、ジンはクックッと笑うとリレの頭を撫で「念のためだ」と。何のための念のためなのか分からないのは僕のポンコツ脳がいけないのだろうか、ジンと離れる必要はないととってもいいのだろうか?
ジンは視線をシェリーに向け問いかけたのは
『本当に何も分からなかったんだな?』
というもの。
『言ったでしょう?一件のヒットもないって』
そうして始まった会話にリレは首をかしげ呟いた。
『何で日本語で話さないの?』
『英語が話せるのか?』
そのジンの呟きにリレは躊躇いながら頷いたが、リレが英語を解したそれに驚いたのは何もジン達だけではない。リレ本人も驚いている。
「…リレ、お前、他にどの言葉が話せる?」
「…分からない…」
分からない、というより知らない、というものが正しいが分からないでも正しいだろう。それでもすんなりと英語を解し話したということはもしかしたら英語以外も分かるかもしれない。それでも自分のポンコツ脳を信じることは少し難しい気もするがもし他の言語も解せればジンの役にたつかもしれないと心を踊らせる。
「リレ、もう動けるな?」
「うん、大丈夫」
そう頷きリレはベッドから下りると携帯を握りしめジンを見上げる。ウォッカ行くぞと歩き出したジンに二人は続きシェリーは眉間にシワを寄せると去ろうとするジンに「その子どうするの」と。しかしジンは少しも気にせず研究室を後にしリレは一瞬シェリーを振り向き頭を下げ三人は行ってしまった。
「全く……」
ウォッカといい今のリレといいどうしてああもジンに従えるのだろうか、全くもって理解できないがリレは拾ってくれたジンを慕っているようであり、シェリーは頭を押さえ大きく息を吐きだしてしまった。
「ジン、どこ行くの?」
そう問いかけたリレにジンはチラリと視線を向けると「少し」試したいことがある、と真っ直ぐ迷いなく歩きその言葉にリレとウォッカは首をかしげてしまうが恐らくとウォッカが考えたのは、つい先程
「他の言語が話せるのか」
という問いかけ。
アニキはリレに多言語を読んだり話させたり聞かせたりするつもりなのだろうと。しかしリレはすんなりと英語を話したし、もしかしたらとアニキはリレを連れて歩いているのだろう。
リレ、シェリーが調べても何も出てこなかったこの人物は果たしてどこまでアニキや組織の力になるのだろうか。俺にはアニキの考えが深くは分からない、とりあえず今はこのリレと共にアニキに従うことにしようと1人そっと頷いて。
「ウォッカ」
「ん?」
「ウォッカも英語話せるの?」
「あ、ああ、まあな」
リレの言葉に答えればリレは笑って「そっか」と口にした。
そうしてジンが向かったのは研究室近くにある資料室。ここには様々な言語で記されている書類などがありそれに伴ってそれを翻訳する人間達もいて、ジンはその資料室に入ると戸棚から冊子を一冊取り出しリレに差し出した。
それは恐らくロシア語だろうがウォッカには読めない。
リレはその冊子を受け取り視線を落とす。
「読め」
「…アポトーシスの基本配分とその分子による結合術…」
「ほう」
ウォッカはポカンとし、そしてジンは楽し気に笑いリレは続きも読むのだろうかとジンを見上げればジンはリレの手の中の冊子を取り戻すと別の冊子を差し出した。それは恐らくドイツ語。
それも同じように読み上げれば今度こそウォッカも信じられないようなものを見る目で見てしまい、ジンは
「中々に使えるじゃねえか」
と呟き低く笑うと携帯を取り出し操作する。そこから聞こえたのは七つの子のプッシュ音。
本の少しジンは携帯を操作すると口端を吊り上げたままリレを見下ろし「役に立ってもらうぞ、リレ」と。
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