この世界で迷子の僕を(全80話)
「久しぶりね、リレ」
そう笑ってくれた人に、リレもリレで同じように笑み
「お久しぶりです、明美さん」
と答えた。
宮野明美はシェリーこと宮野志保さんのお姉さん。
前にジンに許可をもらって組織の監視下の元シェリーさんと明美さんと共に顔を合わせた。
二度目ましてのそれにも関わらず明美さんは笑顔をこちらに送ってくれてリレも同じように笑ってしまう。
一度会った時はわずか30分だけでのお茶であったが近くにジンがいて僕のことを見てくれていると思ってるとリレは具合が悪くなかったので2度目に誘われてそれに悩むこともなく頷いてしまった。
けれどジンは少しだけ渋るような表情を浮かべたが、少し考える素振りを見せ小さく頷き
「好きにしろ」と。
なのでシェリーさんにメールで日時の確認をするとジンとウォッカに送ってもらいシェリーさんとともに明美さんと 顔を合わせ挨拶をした。
「よくジンが許してくれたわね」
と言ってきていた明美さんにリレは笑うと
「特に何も言われませんでした」
「割とあっさり許可してくれたわ」
とシェリーさんと明美さんにそう伝え
「まあ、監視はされてるけど、楽しみましょうね」
と言ってくれた。明美さんいい人。それにシェリーさんのことを心配してきてくれているのはちょっと嬉しいもの。いやとても、だがそれでも笑って会話を開始する。
シェリーさんの最近のことを知ろうとしてきているが薬の開発については話すことはできないので主に明美さんの近況を聞いていく。
大学時代の友人と久しぶりに会って旅行に行っていたのよ、とシェリーさんと僕にお土産のストラップを出してくれてリレもシェリー もそれを 携帯につけ
「ありがとうございます」
と声をかける。
そうして話しながら尋ねられたのは
「志保と仲良くしてくれて嬉しいけど、周囲の人に何も言われてない?大丈夫?」
なんて、まるで姉のような優しい問いかけに
「ジンが一緒にいてくれるから、」
何も言われないし何もされていませんよ、そう笑う。
そのリレの言葉に明美さんもシェリーさんも何とも言えないような表情を浮かべてしまう。
「どうかしたんですか?」
「いえ…ジンが、ねぇ……」
どういうことか分かる?志保。その明美さんの言葉にシェリーさんは渋いような表情を浮かべつつも
「信じられないことに、とても大切にしているのよね」
と、ため息と共に呟いて、リレはもう一度首を傾げてしまい
「ジン、優しいよ?」
の、その言葉に2人は黙り込んでしまった。
「…え?あ、いや、でも、ぼ、僕とウォッカだけにかな?」
なんてちょっと自意識過剰だろうかと思ってもすでに言ってしまった。今更である。
シェリーさんも明美さんも渋い表情であるがなんとなく頷いてくれた。そうだ明美さん。
「 明美さんって今好きな人いますか?」
言ってから少し失敗してしまったと気づくがそれでも言ってしまったのは今更だ。
明美さんはちょっとだけ困ったように笑うが
「ちょっとね」
なんて濁されてしまい、それ以上は追及しないようにと思い、ついで明美さんに問いかけられたのは
「リレは特別な人いないの?」
「特別な人」
それは明美さんに問いかけた言葉と同じ意味合いになるだろうか。ほんの少しで黙りこんでしまえば明美さんはニコリと笑い
「志保なんてどう?」
と。
「お姉ちゃん何言ってるのよ!」
シェリーさんは何とも言えない口振りでそう声を出し、リレは眉を落としたままごまかすように笑い明美さんと同じように言葉を濁す。
僕の大切な人……特別な人……そんなの、今のところジンしか思い浮かばないが、それを言ったらまた2人は黙りこんでしまうだろう。
「シェリーさんのことは好きですよ?」
リレのその言葉に2人は見つめ
「同じように明美さんのことも好きですし、幸せになってほしいと願っています」
まあ、明美さん、殺されてしまうけれど。
一瞬で意識が低下させていれば明美さんはリレの言葉に嬉しそうに笑うと
「私もリレのこと好きよ、可愛い弟ができたみたいで嬉しいわ」
「じゃあ僕もシェリーさんみたいにお姉ちゃんって呼ぼうかな」
なんとなくポロリともれた言葉に明美さんは更に笑うと
「じゃあ、弟になる?」
「そしたらリレは私と双子になるのね」
何やら2人は乗り気であり僕も僕でそれはすごく嬉しいな、 言って良かったな、と笑ってしまい
「明美お姉さん」
「何、リレ?」
「エヘヘ」
嬉しくて笑ってしまえば明美さんの手が伸び、リレの頭をポンポンと撫でてきてリレもリレでさらに笑ってしまい、不意にリレの携帯が鳴り響くとリレは
「ちょっと失礼します」
そう謝り携帯を見つめ立ち上がり2人に向かって
「またお茶に呼んでください」
と頭を下げてジンと合流した。
「(ジンって過保護なのね)」
なんて明美さんとシェリーさんが囁きあっていたのには気付くこともなく。
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