この世界で迷子の僕を(全80話)



朝目を覚ますといつものぬくもりがなく、リレはすぐにガバッと起き上がった。


「ジン?」


ポツリと呟きながら立ち上がれば下半身がズクリと痛むがそれに気を向けることもなくリレはリビングへと足を動かした。

寝室のカーテンは開けっぱなしであり、リビングも暖かい日差しが差し込んでおり、しかしジンの姿がない。

トイレだろうかシャワーだろうかと音を聞こうとしてもどこからも音はせず、それでも探そうと動こうとすればソファーの前にあるテーブルには紙が置いてあり

『少し出てくる』

と書いてある。
どこへ行ったのだろうとしてもリレにわかるはずもなく、リレの心臓は高鳴りながらも体は冷えていく。リレは一旦服をまとうために寝室へと戻り服をまとうと再びリビングへと戻ってもジンが戻ってくることもなく、リレはその場にただただ立ち尽くしてしまう。

ジンのいない部屋。ジンを探したくともテーブルには置き手紙のそれ。少しって、一体いつからの少しなのだろうか としつつもだんだんと気分が悪くなってきて、リレはその場に座り込んでしまう。


「ジン……」


ポツリと呟けば不意に震動音が聞こえた気がして、リレはすぐその音の元向かいベッドの脇のテーブルで震動しているのはリレの携帯であり、リレはすぐ手に取った。
発信源はベルモットでありリレは通話ボタンを押すとすぐ耳に当てた。


「もしもし」
『こんばんは、リレ。ああ、違ったわね。そっちの時間では、おはよう、かしら?』


そんなベルモットの声を聞きながら「おはようございます」と返し「何かありましたか?」そう問いかけてしまった。


『何かなくちゃ電話しちゃだめなの?』


クスクスとした笑い声にハッとしつつ、ごめんなさい、そうじゃないんですと焦って声を出し言葉を紡げばベルモットは


『ジン、側にいる?繋がらないのよね』


リレは心臓を冷やりとさせると小さな声で


「今、ジンはいません…」


そう囁くように呟いてしまった。


『あら、もう取引とかそういうことかしら』


そんな言葉にリレは小さく否定し、

「僕も今起きたんですが」

いなくて、ジンの場所も知りません。


『外出先?』
「ジンの家ですけど…」
『何かないの?』


リレはリビングへと戻ると置き手紙を手に取り


「少し出てくるって、手紙が 1枚…」
『ジンが置き手紙って!』


ベルモットはおかしそうにクスクスと笑うが

『だったらすぐ戻ってくるわね』


その 甘い声に、そうでしょうかとポツリと返し玄関を見てもそこにジンの靴はなく鍵も開いている。出かけた先はどこがさえわかれば僕の気も少しは紛れるだろうか、そうではない。
今の現状にどうしようもなくなってしまう。ここはジンの家。
ジンが戻ってくるのは当然だろうが、せめてどこへ行ったのか教えて欲しい。そんなことを考えながらもリレは玄関のたたきの前にしゃがみ込みベルモットと通話をしながらもリレの声は震えてしまい、電話越しでベルモットが

『どうしたの?大丈夫?』


そう労りの声がかかってしまう。


「……ジン……」


ポツリとつぶやき、その声は ベルモットにも聞こえたようであり『リレ』そう名前を呼ばれてしまったが、リレはボロリと涙がこぼれ落ちてしまった。


「っ……」


リレはグッと息を飲むとすぐそれでもふらりとしながらトイレに向かい便座に向かい座り込む。

吐き出す体勢は完璧だ。

ただ、ベルモットに嘔吐する音を聞かせるわけにもいかず


「ベルモットさん…」
『なあに?』
「電話、切りますね」


ベルモットは少しだけ考えるが、しかしすぐ小さく笑い


『ジンが戻ってきたら連絡を入れるように言ってちょうだい。じゃあ、リレ、またね』


そして通話は終了し、リレは携帯をゴトリと落としてしまい、吐き出してしまった。
久しぶりだが、けれどもリレは何度も嘔吐き、何もないものを吐き出しつくし、そして 玄関の開く音がした。

リレはその音にハッとすると水を流し口をゆすぐも、すぐ玄関を見れば調度ジンが姿を見せてくれた。


「ジン!!」


と半ばジンの名を叫び気味に抱きつけば、ジンは本の一瞬 驚いたようだがすぐ低く笑いリレの頭をぐしゃりと撫できた。


「吐いたのか?」


断定的なその言葉だがリレは何度も頷きグスグス泣き出してしまった。さすがのジンもまさか泣かれるとは思わなかったようだご驚きながらもリレの背中をポンポンと撫でリレは顔を上げると、それでも泣きながら


「ベルモットさんが電話をくださいって言ってました」


と、ジンは低く笑い


「泣くのか報告するのかどっちかにしろ」


なんて言いつつももう一度リレのことを撫で携帯を取り出しベルモットへと電話をかけていた。









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