この世界で迷子の僕を(全80話)


とある日の夜の公園。しかもすごく広い公園の一角でブツの取引があるらしく、しばらく歩いた遊具のそばに立ちジンとウォッカの背中を見送った。

いつものようにリレはジンからジッポを受け取り歩き行く 背中を見つつすぐそばにあったブランコに腰を下ろす。
ブランコなんて一体何年ぶりだろうなんて思いながら漕いでいればキーキー、という音を立てブランコは揺れリレは座ったまま漕いで行く。

深夜、というほど遅い時間ではないが夕闇というほどに明るいわけでもない。
軋んだ音と頬を撫でる風を感じていれば不意に白い何かがフワリと 空から降りてきて、突然のそれに驚きブランコを止めていれば白い何かがリレの方を向き微笑まれた。


「こんばんは、お兄さん」
「こ……こんばんは」


ついつられるように言葉を返せば白い何か、いや怪盗キッドは微笑んだままブランコに座り続けるリレの元へと歩み寄ってくると


「今宵の パフォーマンスにあなたは来ては下らなかったのですね」

などと言われてしまいリレは目をキョトンとさせ

「パフォーマンス?」

と呟き返す。

静けさしかないその場にはしっかりと響き


「存じてはいないようですね?」


そう言われ

「では、あなたはなぜこんな時間にこんなところへ?」


その言葉に返す言葉も見つからず困っていればキッドは笑い、そしてポンという音とともに一輪の薔薇を手に出現させてきて、その薔薇を差し出された。
反射的に受け取ってしまえばキッドは笑ったまま片足を地面に着けつけリレを見上げると


「次のパフォーマンスをあなたに見ていただけるよう、考えましょう」


そう残し「では、また」そして手に口づけを落としポンと白い花びらとともに消え去ってしまいポカンとしてしまう。その右手には白い一輪の薔薇が。

そばにジンやウォッカがいなくてよかったな、怪盗キッド、 と思いながらも口づけを落とされた左手を見つめてしまう。

キッドといいジンといい、一体僕の何に意識を向けてしまっているのか全くもって少しもわからないがちょっとした興奮が今更に勝ってきたのはこの世界の主軸とまではいかないにしろ名を馳せているその人物に出会ってしまったというミーハー的な心。
そう、本当に、興奮してしまったが、僕って割とギリギリの位置にいるのではないかと考えてしまいこの分ではジンとウォッカがいない間に他の人物たちも会ってしまうではないのだろうかという疑問のようなそれ。
まあ、会っても会わなくてもどっちでもいいだろうジンとウォッカ、もしくはそちら側にいる人間と一緒にいる時に出会わなければそれでもいいだろうとリレはブランコを漕ぎ始めた。

キーキーという甲高い音と緩やかな風を感じつつ白い一輪の薔薇を手に持ったまま視線を腕時計に移した。

ジンとウォッカが行ってからもうすぐ20分になる。
初めて出会った時からしばらくは10分という壁があったけれど、あの日から僕もなかなかに耐えられるようになってきたなと思ってしまう。それでも意識してしまえば一気に気分が悪くなってしまい気を紛らわせるようにより一層強くブランコ 漕ぎ出していく 。

耳元でキーキーという音とヒューヒューとした風の音も耳に入れながらも手に持つ薔薇は落とさぬよう握り締め遠くに公園に設置されている明かりの下に黒ずくめの2人が目に入った。ジンとウォッカだ。

リレはブランコを揺らすのをやめると、しかし立ち上がり はせずで2人が近づいてくるのを目にする。遠くの影はゆったりと近寄ってきてある程度まで来た2人にリレは近寄りこそしないが立ち上がり、こちらに来るのを待つ。

やはり2人はジンとウォッカでありリレはそこでようやく2人にパタパタと駆け寄った。


「 うまくいった?」


今日の取引が何かは知らない 。いや今日も何の取引かは知らないがそう問いかければジンは「ああ」と頷き、ウォッカがリレに声をかけようとしそしてリレの右手にある一輪の白い薔薇を見た。


「その薔薇どうしたんだ?」


そんなウォッカの言葉にきょとんとしながらもジンにジッポを渡しつつ


「貰ったんだ」


と笑みを浮かべた。


「……誰にもらった?」


そんなジンの問いにリレは少し悩むがもう一度笑って、

「ちょっとした有名人」


と言葉をぼかして伝えた。
ジンはそんなリレの言葉に

「ほー」

と口端を吊り上げ笑うとリレの手にある薔薇を取り上げグシャリと握り潰しその場に捨てる。


キッド……ごめん……。

そう思いながらもなんだかジンの機嫌が悪いようなのでその後は何も言わないことにした。









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