この世界で迷子の僕を(全80話)
ジンとウォッカとリレがバーにいる時、いつも通りジンもウォッカもウィスキーを口にしそしてリレはカシスソーダを口に含む。
カシスの本の少しの酸っぱさと甘さ、そして口に広がっていくシュワシュワとしたソーダにリレの頬が緩んでしまう。 マスターもいつものようにカクテルやストレートなどの酒を作りチラホラと客に顔を合わせ話している。
今日も今日とて仕事がうまくいきジンの奢りだとジンに連れていかれ、中々に賑わっている店内の中でポロポロと話をしている。ジンもウォッカもなかなかのペースでグラスを空けているが二人は酔う要素もなく、ウォッカの携帯が鳴り
「失礼しやす」
とジンに断りを入れ店の外に出てしまう。 ジン、ではなくウォッカの携帯がジンとともにいる時に鳴るなんて珍しいなと思うがそれだけで、リレもストローをくわえ飲んでいく。
そうしていれば不意に人が近付いてくる気配にリレは顔を少しジンに向け、そしてジンの隣に露出した服をまとっている栗色のふわふわとした髪型の女性が腰を下ろした。
「ご一緒してもいいかしら?」
女はそう笑い、マスターに甘いカクテルを頼んでるがジンは気にする素振りも見せずさらに珍しいことにジンがチラリと女に視線を向けグラスを傾けた女はジンが気にしてくれたことだと信じたようで、カクテルを軽くジンのグラスにチンと当てた。
微笑んで「乾杯」なんて女の言葉を聞きながらジンは薄く笑いリレはチラリとジンの横の女を見つめることにした。
胸元が大きく開き、むき出しの腕にはストールをかけジンに色目を使っている。
「ねえ、あなたの名前を教えてくれない?」
女はそう笑いかけジンに体を寄せるとジンは少し黙り込み
「好きに呼べ」
と呟いていて、女はその言葉にクスリと笑った。そして女はカクテルをジンはウィスキーを傾けると女は一方的に色々話しかけているがジンはそれを聞いているようないないような態度のままであり、リレはそんな女を気にしながらもカシスソーダをすする。
ウォッカが戻ってこないなあと思いつつもリレはもう一度女に視線を向けそんな女とばっちり目が合ってしまった。
リレは自分から見たにしろ、驚きはっとすると視線を反らし女の腕がジンの右腕に絡みつく。
「ねえお兄さん、その子と知り合いなの?」
甘い声はリレにも届き、ジンはグラスを傾けた。そうしながらもジンは口端を吊り上げ 「そうだ」と返している。
ジンの機嫌はすこぶるいいらしい。マスターがジンのグラスにウィスキーのおかわりを注ぎより一層女はジンの耳元に唇を寄せると「この後どう?」なんて言っている。そこでようやくリレは理解した。理解するのが遅すぎるがそれは、逆ナン、というやつだろう。そんな光景初めて見たと思っていれば女はジンの耳元に口を寄せ小さく囁きかけがそれは聞こえず、ジンが笑ったということは「この後」が何を示しているかに気づきやはりジンはヘテロであるのだろうと確認しそうになる。
そういえばウォッカが戻ってこない。
女がジンに声をかけてきてからもう10分は経ってるが姿を現す事もなく、女はリレには見えなかったが胸を押し付け 2人で話している。
2人のことはものすごく気にはなるが気にしてはいけないだろうと比較的ゆっくりと飲んでいたがすぐリレのグラスは空になりそれに気づいたマスターが小さく
「新作のドリンクがあるのですがいかがですか?」
なんて微笑まれ、リレはチラリとジンを見つめつつも
「お願いします」
と小さく 頭を下げた。
マスターは、そうしてリレのグラスを回収すると新しいグラスに薄桃色の液体を注ぎリレ前で注ぐとリレはグラスを受け取り笑って
「ありがとうございます」
と口にしストローからその液体をすする。やはり桃だ。
甘い香りと優しい味にリレは笑い
「美味しいです」
と笑いマスター も同じように 笑って
「嬉しいです」
と言ってくれる。
お世辞でもなんでもない素直な感想であったがマスターにもきっと伝わっているのだろう。マスターと言葉を交わし そしてジンが女の耳に口を寄せ何事かを囁き、女は笑うと 立ち上がり行ってしまった。
「え……?」
思わずぽつりと呟き女の背中を見つめていればジンがリレを見つめよ「どうした」と問いかけてきたので
「今の人とこの後どこかに行くんじゃ……」
その躊躇いがちな言葉にジンは小さく笑うとリレの前に差し出したように置かれたのは USBメモリー。つまりそういうこと。
ジンは一気にグラスを空にすると立ち上がり
「帰るぞ」
と立ち上がり、そして歩き出す。どうやら取引だったらしい、とリレはようやく納得した。
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