この世界で迷子の僕を(全80話)
ジンとウォッカがシェリーのいるラボにつきそしてリレが抱きついてきたリレの言葉に 疑問符が浮かんでしまう。
「ジン!お願いがあるんだ!」
リレからの頼みごとなんて早々にないので一体何なのだろうと思いつつも、血色もよく体調も悪いようではないようだが、ジンとウォッカはシェリー以外の研究員が小さく 頭を下げている中、リレの頭をグシャリと撫でた。
「何だ、言ってみろ」
ジンのその言葉にリレは笑顔を浮かべたまはまジンを見上げ
「シェリーさんのお姉さんとシェリーさんと一緒にお茶してきてもいい?」
それは、つまり、リレ自らジンから離れようとしているその言葉にジンはリレを見下ろし、そしてチラリとシェリーに視線を向けた。
その視線には、リレに何を吹き込んだ、と含まれておりシェリーは少し笑うと
「ただ誘ってみただけよ」と答えている。
さてどうするかと悩むジンだがその内容は至極単純なもの 。また再び拐われていってしまうのではという事。と言っても2人とも組織の監視の元でのティータイムである。つい先ほどのように拐われる事はないと思いたいがリレは期待のこもっているような、しかし不安げな表情でジンを見つめている。
ジンはもう一度どうするかと悩むがすぐリレを見下ろし見つめると
「好きにしろ」
そう口にした。リレは表情を明るくさせると「ジン、ありがとう!」と微笑を送り
「だが1時間だけだ」
と言われてしまった。別に時間はそれほどかけるつも無いし顔を合わせて話すとしても 僕から何事かを口にして教えることもないだろう。
2人のやり取りを見ていたシェリーはジンの許しに少し驚きながら笑みを浮かべ
「明後日の3時にいつものカフェ」
とシェリーが口にすればジンは「そうか」と頷き「その時間に連れてくるが」もう一度、 1時間だ、と伝えればシェリーは「分かったわよ」と息を吐き出しながらも呟き返しリレに視線を移す。
「また明後日に会いましょうね」
そう笑いかけるとリレも同じように笑いかけ
「はい!楽しみにしてますね!」
そうしてリレはジンの腰に回していた手を離しジンとウォッカは歩き出し、そして研究室を後にした。
リレはシェリーや他の研究員にペコリと頭を下げると他の研究員もリレに笑いかけ、同じように頭を少し下げてくれている。
そうしてラボを出るとジンが向かったのは自宅マンション。
「ジン、今日はもうどこにも行かないの?」
そうジンに問いかければジンは「ああ」と頷きラボを後にして車に乗り込む。
走る車の中リレは運転しているジンの髪に手を触れすいていれば運転しながらもジンはタバコに火をつけ吸っている。煙は風に流され消えていきウォッカがパソコンをいじっている。
普段ならそれを見るようなことはしないリレだが、この時は本当になんとなく覗き込むように見てしまった。そこに表示されていたのはどこかの建物の監視カメラの映像のようなもの。それを見たリレは首を傾げながら見つめ続けそして黒い服をまとった男たちがカメラに写っている。
男たちは素早く動き回りそしていたるところに何かを取り付ける作業を行っており、リレは首を傾げながら一体何をしているだろうという疑問を持った。
パソコンの画面は4つに分かれ数秒ごとに映像が切り替わっていき、男たちは何かを仕掛け動いておりそしてリレに気づいたウォッカはチラリとリレに視線を向けると
「お前が見るもんじゃねえよ」
と、パソコンを閉じ笑いかけてくるがそれでもリレは首を傾げた。
「今の、どこの会社?」
と、ど真ん中に突っ込んできてウォッカは笑ってしまう。
それも教える必要はないと言わんばかりに軽く振り返るとリレの頭をぽんと撫でそしてタバコをくわえた。
その車内には2人のタバコの香りが漂い、少し空いた窓から煙が逃げていく。
ウォッカが教えてくれないならジンに聞いても答えてくれないだろうが、それでも気になるものは気になる。
リレにしては珍しく食い下がるようにウォッカとジンに視線を向け
「知りたい、教えて」
と、口にした。
きっとリレは薄々感付いているだろうとウォッカは思い至り、そろりとジンを見ると、ジンはタバコの煙を吐き出しながら問うてきたのは
「何でそこまで気になるんだ」
というもの。その言葉に「え」とつぶやき、
「仕事、僕も必要になるのかな って思って」
それに、
「それに?」
「なんとなく気になる」
ただそれだけだと伝えればジンもウォッカも黙り込み考るとリレをミラー越しに見つめてきたジンの視線に視線を絡め
「中西の所属する組織の会社だ」
そう教えてくれた。その会社のカメラをハッキングして、そして何をするつもりなのだかと思ったがミラー越しのジンの視線が許してくれずリレはそれ以上追求するようなことはせず諦めると後部座席に腰を落ち着けた。
そうしたリレの行動をウォッカは見つめ、そしてパソコンを開き操作していきジンはインカムを装着すると誰かに指示を出している。
その内容を頭に、というさ耳に入れるべきかを悩むが教えてくれなかったということはつまり聞いてはいけないということだろう。
リレは携帯を開くとシェリーのメールを開いて文章を作成する。
ジンやウォッカが教えてくれなかったけれど本の一瞬だけ会社のロゴみたいなものと取り引きにあった中西という男を知ってるのか知りたくて、その旨を送り顔を上げればジンとウォッカは話しており、そしてすぐシェリーから返信が届いた。
内容は、中西が所属している組織が主に貿易に関することをしているというそれ。
つまり僕はその仲介、というか通訳に使うために拐われたのだろうとリレは「なる程」と思いつつ、『まあその中西も消されるでしょうね』そんな最後の文章にハッとしたリレは今のウォッカのパソコン画面を思いだし動き回る黒服の男たちとジンから少しだけ聞こえた言葉の内容を考え、この会社は潰されるのかと考えてしまう。
僕という存在はもしかしたら ジンの理性の着火剤にもなっているのだろうか。そうだとしても違うとしても中西ざまぁ、なんて言葉しか思い浮かばない。そう、本当にざまみろ。
本の一瞬で中西はジンに始末されてしまっていたがそいつのせいで中西の所属する組織は消されてしまうのか。
独断にせよ命令にせよ、ジンをおちょくる行動には償ってもらおう、ドンマイ!ざまぁ !と、思わずクスリと笑いそうになってしまうが何とか思いとどまりそっと息を飲む。
『ありがとうございます、納得できました』
と返せば、
『そう?よかった 、それじゃ 明後日、楽しみにしてるわね』
と返ってきたのでそれに目を通すと今度は耐えるようなこともせず、そっと微笑み座席に寄りかかった。
「リレ」
「何?」
「帰ったら」
「うん?」
「話すことがある」
話すことがある、とは確かそんなこと言っていたなと思い出すとリレはジンの背中を見つめ笑って頷き
「分かった」
と、そう返事を返した。
話す事って何だろうかとリレの頭から中西のことは早々に忘れ去ることになり、リレはジンの髪に手を伸ばし触れることにした。
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