この世界で迷子の僕を(全80話)


シェリーのところに置いて行った後2人は車に乗り込むとジンは携帯を取り出し掃除屋に連絡を入れ先ほどの漁港の死体の掃除を済ませるようにと指示を出す。

それにしても中西あの野郎、ずいぶんと舐めた真似をしたようだが報復について考えていなかったのだろうか。
中西か、中西の所属する中流組織の上からの命令だろうか とにかくジンのはらわたは煮えたぎっている。

兄貴をここまで怒らせるとは 中西たちはなんて使えないのだろうかと考えるウォッカは、先ほどからパソコンをいじっているジンにチラリと視線を向け


「中西について、何か分かりやしたか?」


そう問いかけた。ジンは少し 黙りパソコンの画面を見つめジンの携帯が鳴り響いた。
ジンは携帯を取り出しワンコールで途切れたということはメールだろうとウォッカはアクセルを踏み込む。メールに目を通したジン低く笑い


「“あの方”からの指示だ」


中西の所属組織潰すぞ、そう口にした。

そういえばずっと気になってたがリレはあの方にどう伝わっているだろうかと。
今更になり気になるが聞いてもいいのだろうか。

ウォッカはもう一度ジンに視線を向けるもジンは再び誰かへと携帯を操作しこれから向かう場所の地図を出すと


「ウォッカ、ブツを取りに行くぞ」


そう口端を吊り上げ笑いウォッカもしたり顔で頷く。
まあリレのことはいつでも聞けるのだから別にいいだろうと一旦横に避けておき、車を走らせる。

ブツ、そう、爆発物を用意するのは、あのラボであろうとわざわざ聞く必要もないだろう。
ウォッカは問いかけることもなくそしてジンも何事かを言ってくることもない。それは兄貴との間に“信頼”というものが存在しているからである。そうでなければ今ジンの兄貴の側にいることができるはずがない。

勢いよくアクセルを踏み込み道路を走り都心よりも少し離れた爆発物を取り扱うラボに 急ぎジンはパソコンを閉じるとタバコをくわえ火をつける。

中西たちがやろうとしたそれに兄貴の機嫌は恐ろしく悪かったけれど、幾分かは落ち着いてきたらしく窓から煙を吐き出した薄く開いた窓から煙は流れていき時間が経つ。

リレをシェリーのところに置いてからはもう少しで30分が経つのだが今の所シェリーからもリレからも連絡が来ないので大丈夫なのだろう。

景色が変わっていくことに気を向けることもなく、そして滞りなくラボへとたどり着き ジンとウォッカは車を降り躊躇うなことなく足を踏み入れた。

光る灰色の廊下を歩き続け奥にある扉を開け、そしてそこにいる人間たちに

「よお」

と声をかける。
そこにいたのは黒いつなぎを身につけタオルを頭に巻いたおよそ50代後半くらいの男であり近づいていく。


「用意できてるな」
「そんなすぐできると思ってんのか?あ?」


ジンにこんな態度を取れる人間なんてそれほど多くはないがこの男もまたその内の1人でありジンは気にする様子もなく周りの男たちもチラリと見ながら、そして男は大きな声で悪態を吐きながら歩き


「急ぎの分含めて払うもん払ってもらうからなあ!いいな!?」と。


つまり、用意はできているということだろうジンは満足そうに笑うと用意されている爆発物を確認しスーツケースに入って敷き詰められているそれを持ち


「おい、てめえらも手伝え」


と動く。男は「あ゛?」と声を上げ


「うちのもん使うなら手間賃割り増しだからな!!」


と怒鳴り、ジンは「うるせえ ジジイだ」
なんて言いつつも


「出すもんは出すから黙って運べて」


と指示を出す。
いつの間にか外には車が数台 止まっており、その車に別々に詰み込まれたスーツケースを横目にジンとウォッカ以外の車は発車してしまいジンは男に向かって言い放つ。


「今日中に払い込む、じゃあ あな」


と背を向けた。

「当たり前だろ!!あ゛?」


なんて怒鳴り声を無視し車に乗込み車を動かした。次に向かう場所はどこだろうかとしていれば「シェリーのところだ」と言い、ウォッカはアクセルを踏み込んだ。

中西の所属している組織や会社関連は潰すので今更 それを見届けなくても夕刊にはきっと記事として載るだろう。

ジンはタバコを口にくわえると火をつけつつ時計に視線を落とした。


「…1時間か」


すぐには理解できなかったがそれがリレと離れてからの時間だと気付き


「そうっすね」


そう頷いた。









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