この世界で迷子の僕を(全80話)
紅茶を飲むシェリーとリレを他の職員はチラチラと2人を、というよりもリレを見つめあまり近寄ろうとはしない。 不用意に近づいてジンの機嫌を損ねるようなことになったとしたらその先には「死」しかない。
いや、何かあったとしてもこのリレという少年は何も言わないのだろうがポロリと漏らされてしまえばきっと後はないだろう、なので、できれば シェリーに任せるしかないだろう。
それ以上関わるのはやめるべきだと他の職員たちは仕事に集中することにした。
いや、それが普通なのだが。
そうしていれば自然彼らはシェリーとリレから視線を背け色々とやっていくが2人の楽しげな話し声に気が向きそうにもなる。
2人の会話の内容まではわからないが来た時よりも少しは リラックスしたリレに笑みを浮かべ紅茶を口にしている。
リレとシェリーは他愛ない会話をしながら笑みを浮かべているがもうすぐ1時間。
前ならジンが行ってから耐えられる時間は約15分であったのだが大分、耐えられるようになったようだとシェリーは口にしようか悩んだがリレはその時間に気付く、というよりは気にもしていないようなので余計なことは言わずにしていこうと紅茶と共に出されクッキーを口にした。
「リレも食べたら?これ、なかなかに美味しいのよ」
と言う言葉にリレは笑って「いただきます」と口にした。
アールグレイだろうそのクッキーに手を伸ばし口に運べば サクッとした香ばしいそれに ふわりと口の中に広がる風味に美味しいとつぶやきリレはもぐもぐ咀嚼し紅茶と共に飲み込んだ。
「それにしてもリレ、あなたちゃんとご飯食べてるの?」
そんなシェリーの言葉にリレはキョトンとしながら
「食べてはいるけど、」
どうして?と首を傾げれば、シェリーはジットリとリレを見ながら
「だんだん、痩せている気がするの、私の気のせいかしら 」
と口にされる。それに対して少し考えるが栄養云々は置いといて一応食べてはいるつもりだ。
気にするなら僕のことよりジンのことだろう。だってジン、本当に毎日毎食口にはしていないし、食べずに過ごしていないというわけではないが声をかけなければジンは酒とそのつまみとして差し出されているナッツを口にするだけ。
そんなことまで考えながらも食事はちゃんと取っているのでと頷き答えシェリーの手が伸ばされ頬に触れてきた。
「本当に毎食食べてる?」
「……毎食は……」
そう淀むリレにシェリーは少し悩むと食堂にでも行く?と提案するがリレは首を振りそれは恐らく空腹は関係ないのだろう。
拐われたことに恐怖が残ってるだろうかとシェリーは考え
「そう」
と短く答えた。そのシェリーの考えは当たっているようで外れている。お腹が空いていないが今この場所から移動してる間にジンが来てしまったら、きっと何かを言われてしまったら、そういう疑問があるからであり、リレは紅茶を飲み干した。
ジンとウォッカが行ってからしばらく1時間半。
リレはそこでようやく腕時計に視線を移し時計を確認するとほんの少しだけ眉間にシワを刻みティーカップをテーブルの上に戻す。
シェリーもティーカップを置き話題を持ち出したのは
「明後日なんだけど」
リレは顔を上げ
「お姉ちゃんとお茶するの」
リレも来て、と。
来ない?ではなく「来て」である。リレはそれを耳に入れ 少し悩むと
「ジンが許してくれるなら」
ご一緒してみたいです。そう微笑んだ。
リレの微笑みというものを初めて見たような気がしたシェリーは少し驚いたようにしたがすぐ同じように微笑み
「私も尋ねるけど、お願いしてみて」
あなたが言えばきっと大丈夫でしょうからとシェリーはクッキーを口に含む。
シェリーがダメでも僕が聞けば大丈夫だろうってどういうことだろうか、そうしながらもハッとし
「無理かもしれない」
「なぜ?」
「ジンに、俺の側から離れるなって言われてるから」
そう、本当に、多分、無理。それについさっきのこともある。しばらくは何があってもジンは側から離してくれてないだろう。だから、ごめんなさい、シェリーさん、と。
シェリーは大きく息を吐き出しながらも
「それもそうね」
まあ組織の人間が見張っているこだから危険なことは早々にないと思うけど、それでも一応聞いてみてと。
そこで 研究室の扉が開きジンとウォッカが姿を見せてパッと笑うとジンに駆け寄り抱き付いた。
「ジン、お願いがあるんだ」
と、笑ったまま。
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