この世界で迷子の僕を(全80話)


ジンの言った話すことがある、とは一体何なのだろうかと考えるも、リレはジンの腰から離れジンの愛車に乗り込んだ。因みにキャンティもコルンも別の車で撤退してしまっているので今リレと共にいるのは当然のようにジンとウォッカのみ。

走る車はどこに向かっているのだろうかと考えるも、ジンとウォッカはリレに話しかけることもなくウォッカは運転しジンは色々な所へ電話をかけている。
まあ恐らく、つい先ほどの漁船のあったあの場所にある人間『だったもの』の始末というか掃除であろう。そうしている2人を後部座席から見つめていれば、そこでようやくジンは携帯を離しポケットにしまうとタバコを口にくわえ火をつけた。それをゆっくり吸い込み煙を吐き出すとチラリとリレのことを振り返った。

本の一瞬だけ交わった視線にリレは背筋を正すとジンの瞳を見つめそっと息を飲む。


「…ジン……」


思わずポツリと呟けばしかし ジンは何も言わず視線を前に戻すとウォッカに声をかけ
「ホテルだ」
と口にする。
いや、その前にも行くべきところはあるのだろうがリレを連れて行くのは少し躊躇うこともあるらしい、さっきの今だ、当然だろう。まあ多分「リレ」お前はホテルで待っていろとでも言うのだろうかと、とりあえず今更でもないがジンに従おう。

そういえばさっき僕はジンと眠っていたにせよしばらくの時間離れていたのに具合が悪くもなく、どうして自分よりも 大柄で逞しい男たちを投げ飛ばす事が出来たのだろうか。

話し込む2人を見てそのことを考えていれば再びジンはチラリとリレを見やりタバコの煙を吐き出すとジンの口から出てきたのは


「お前をホテルの一室に置いていくが、耐えれるな?」


というそれ。
さっきはなぜだか平気だったけどジンが来てくれた安心とジンと共にいたいという僕の心情に気づいたようであり、それでも口にしたのは


「それともシェリーのとこにいるか?」と。


ホテルで一人できるよりシェリーといた方が僕にとっては嬉しすぎる。シェリーなら平気かもしれない。
ほんの少し悩む素振りを見せたがすぐリレは視線をジンに向けると

「シェリーのところがいい」
1人は少し怖い、そう呟いてしまった。

リレの言葉の最後の囁く言葉を少し吟味するがすぐ

「シェリーの所へ迎え」

とジンはウォッカに伝え、ウォッカは了承の返事をしている。
僕がシェリーさんと一緒にいる間に2人は、いや、正確にはジンがどこかへ行ってしまうのだろうことは今の少しのやり取りと流れでわかってしまいそれだけで気持ち悪くなってしまった。が、けれど、それほどまでには気持ち悪くない。

しばらく走る車内は、ただとにかくジンとウォッカの2人だけの会話が支配しており、リレは手を握り合わせ視線を落とす。
ほどなくして昼真っ只中の道を走り 一つのラボへとたどり着きジンはリレを伴い歩き出す。ウォッカは来ないらしい 、それがリレのことをシェリーのところで一人で待たせることを物語っている。
そしていつものようにジンは厳重な扉を抜けるとシェリーのことを見つけ呼びかけている。

シェリーや他の研究員がジンを見るがすぐ視線をずらしリレのことも見ないようにしている。


「さっきの電話はどういうことよ」


ジンに何事かを伝えられる前にシェリーは眉間にシワを寄せ問いかけるがジンは


「そのままだ」


ここにリレを置いていくから 何があっても1人にするんじゃねえ。
そうジンは口にし、シェリーはため息を吐き出しながらジンの後ろからそっと顔を覗かせたリレと視線を合わせて再びため息1つ。


「リレ、久しぶり」


そんなシェリーの言葉に
「お久しぶりです」
と答えジンはリレを見下ろすと「待っていろ」と。

「どれくらい?」


ジンは少し黙り込むがすぐ

「3時間ってところだ」
「3時間……」


リレは繰り返し、ジンはリレの頭をぐしゃりと撫でると


「それ以内には戻るから、耐えていろ」と。

そしてジンは長い銀髪をなびかせながら去って行ってしまった。
あまりにもすぐ行ってしまったため思わず声をかけることができず、ポツリと佇んでいればシェリーがのリレの肩をポンと叩きリレはビクリと身体を跳ねさせシェリーを振り返る。


「詳しいこと、教えてちょうだい?」


シェリーはそう言葉を紡ぎ研究室内にあるソファー腰を下ろさせるように手を引いてきた。リレはそれに従いソファーに腰を下ろすとフワリと沈み込みシェリーは向かいに腰を下ろしリレと視線を合わせてきて尋ねてきた。


「ジンからはどう伝えられたんですか?」
「厄介ごとに巻き込まれたそうね」


つまりは、本当に、詳しく教えられていないらしい。
どう話すべきかとリレは少し考え込むが、シェリーの目を見つめ口を開いたのは

「1時間と少し前に、」

取引場所へとついて、そしてジンとウォッカから距離を置いてしまったその時に、僕は多分麻酔だろうか、眠らされ連れ去られたのはどこかの漁港。
大きな船の前で目を覚ました僕は、ジンとウォッカを待ちながらも、どうしてかその場にいる奴らを投げ飛ばし、そして男たちの死体から吹き出る血はキャンティさんとコルンさんが遠くから止めをさしてくれたらしい。その後すぐにジンとウォッカがリレのいる場所へと来てくれて合流した、と。そうして1人だけ殺さず残した中西という男にジンは最高に機嫌が悪い状態で笑いかけ少し言葉を交わし、そしてキャンティさんとコルンさんと別れ今に至る。
と説明した。

シェリーはそれを黙って聞いていたが全てを聞き終えると眉間のしわを濃くしたまま目をキツク閉じ長いため息を吐き出した。
その全てからリレを置いて行ってしまったということは中西関連で動きに行ったということだろう、リレに、見せる、必要もないし、連れていったらまた拐われたりするかもしれないと危惧してのこと。

ホテルの一室で待つかシェリーところにいるか、どちらがいいかと問われたそれに僕は

「シェリーさんのところにいたい」

と言ってしまったためにここへ来たと、そう呟けばシェリーはちょっとだけ困った表情を浮かべ、リレは咄嗟に謝ってしまった。


「ごめんなさい……」

1人が、怖くて、と。
そんなリレにシェリーは
「そうじゃないわ、迷惑とかじゃないの」
「?」


リレは不安な表情でシェリーを見つめるとしかしシェリーはそっと笑いながら口にするのは


「リレを使っているそれに対する危機管理がなっていないってことでしょ?側にいれば 大丈夫なんて思い込んでいたからそんな事が起こったのよ。まあ、恐らくでしょうけど、中西とかいうやつのそこに踏み込むんでしょうね」


リレ、あなたが行く必要はないのよ。だからここにいるの。

リレはシェリーのその言葉に小さく頷くと手を膝の上で握りしめそっと息を吐き出した。


「 シェリー、リレさん、紅茶でも飲んでください」


そんな第三者の声にリレが顔を上げれば20代半ば ほどの男が紅茶をテーブルに置き少し笑いかけると


「シェリーはそのまま休憩していてくださいよ」


と。
シェリーはその言葉を耳にすると少し悩み
「そうするわ」
なんて。









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