この世界で迷子の僕を(全80話)
ジンとウォッカの車を降りてあとを追いかけようとした瞬間、リレは首筋にチクリとしたものを感じそこで意識を失ってしまったが、一体どれくらいしてたのか体が浮き上がる感触にふと目を覚ました。
鼻先を香る知らぬそれに眉間にシワを寄せながら目を開き ぼんやりとしつつも今の状況を整理しようとする。が、すぐには理解できず、それでも軽い頭痛に身動げば
「ボス、起きたみたいです」
と不快な音が耳に響いた。
下ろされた地面はコンクリートであり、目の前には大きな船と広い海原が視界に入り、そしておよそ10人ほどの男たちがリレのことを見下ろし見つめている。
そうか、僕は拐われたのか。
そのことを一瞬で理解したリレは立ち上がり手足が拘束されていないことを確認するが 今それは意味があるのだろうか。僕は一人。無力だがジンとウォッカは来てるくれるのだろうか。
考えたいことは色々あるが今はこのよくわからない、というか分かりたくない状況に頭痛がしてくる。
「目を覚ますのがずいぶん早いな」
恐らくこの場で一番の力を持っているのだろう男の声が耳にし
「もう少し寝てるはずなんですが、」
麻酔の量は正しかったのか、そんな会話をリレを中心にかわしている。
手足を縛ったりしてはいないとは随分と良識を持っているんだなあなんて思ったりもしのんきにもそう考えてしまった。
「リレ、君ならもう気づいているだろうけど、今から君は 私たちの組織で働いてもらうよ」
男は笑い、リレ無言でそちらを見るとリレに声をかけた男を見つめて息を吐く。
「君の望むものは何でも与えよう、さあ来るんだ」
リレ?
そう言われた瞬間、リレは舌打ち1つ
「気安く僕の名前を呼ばないでください」
そう苦々しく呟いた。
そんなリレの呟きに、しかし男はニヤニヤと笑ったままリレに近づき
「いいだろう?君はもう、」
こちら側の人間になってもらうのだから
と、そう手を伸ばされ、リレの頭を撫でようとした瞬間、リレが身を屈め動いた。
男の手を掴み、リレは男の指を1本へし折るとその痛みに声を上げた男のこと勢いよく突き飛ばした。
男は車にぶち当たりに鈍い音と呻き声、そして臨戦態勢となり、リレに近寄ってきた男どもをリレは、次々と、投げ飛ばしそして倒れた男たちの額から血飛沫が散る。
リレがそれを無感情に見つめていれば指をへし折られた最初の男以外は全員がその場に沈んでおり、リレは残された男に近寄ると一言
「僕をどうするつもりだったの」
なんて、聞く必要もないけど一応聞いてみるね。どうなの?
そんなリレの抑揚のない声に男は怯えたようにそして折られた指を庇うように後ずさりしておりリレはそれを淡々と 見つめる。
男はもう何もできないようでありそれはもう情けない表情でリレを見つめリレは携帯を取り出した。
ほんの数コールしてすぐジンの声が聞こえ
「ジン、僕のいるところ、わかる?」
そう呟いた。
ジンは低く笑うと「すぐ」向かう、そこにいろ。キャンティとコルンがすぐそこに行くから一緒にいろ、と。
そうして言葉を交わすと通話状態であるが携帯を耳から話しいつの間にか腰を抜かすように座り込む男を見下ろした。
「ねぇおじさん、名前教えてよ。お話ししよう?」
僕ばっかり名前知られるの、嫌なんだよね、おじさん。
リレはそっと目を細め笑いかければ男は真っ青になり口をパクパクすると豹変したようなリレに言葉を無くしている。 そんな男の前にしゃがみ込むと顔を覗きこみ
「お名前、何?」
「なっ、なか、にし」
「中西さん?」
男、いや、中西は必死に頷きリレは中西に手を伸ばし胸の前で握りしめているその手を乱雑に引き寄せ、たった今さっきへし折った指をさらに折り曲げる。
その場に絶叫が、響き渡った。
「う·る·さ·い」
リレは言葉を区切るように囁き、金の瞳をそっと細め立ち上がる。
「アタイとコルン、必要だった?」
そんな声がリレの耳に入り込みリレは顔を上げ声のする方を向けば、そこにはライダースーツのキャンティと帽子とゴーグルをつけ、そしてライフルを持っているコルンが目に入る。
「初めまして、リレです」
2人のことはずっと前から知ってるけれど、こうして顔を合わせるのは初めてでありリレの自己紹介にキャンティは笑いながらもリレの足元で踞っている中西と言う男を見やり
「ショボい野郎だねえあんた」
少しの役にも立っていないなんて、本当に役立たず。
そうキャンティは笑い、コルンもそれに同意するように頷き
「役に立たないやつは、いる意味がない」
そう呟いた。
中西は顔を真っ青にさせると
「俺を、どうするつもりだ」
そんな震える声と同時にポルシェ特有の音が近寄ってきて ピタ、と止まるとジンとウォッカが姿を現した。
「ジン!ウォッカ!」
リレはそう声を上げると走りより、その腰に抱きついてしまったがジンは気にすることもなく
「懐かれてるじゃないか」
なんて言われている。
「とどめを刺したのはキャンティとコルンらしいが、」
その前にリレがある程度片付けたんだってな、という言葉にリレは少し頷き、それでもジンの腰に回した手は緩めず、ジンは笑い、低く低く囁いた。
「なあ、中西。教えてもらおうじゃねえか」準備はいいな?
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