この世界で迷子の僕を(全80話)
今日も今日とてベルモットと通話しているのだがリレの居所を知ろうと発信機をつけた内田にはすでに制裁が下っている、と言っても、ベルモットからジンに取り成すように言われていたのでさすがに殺されるようなことはなかったけど内田という人間やその下で動く人たちは
「二度とあんな真似はしない」
と真っ青な顔で言っていた。もししたら"あの"取引はなかったことにしてあの情報を流すからなと脅しており、内田は何度も何度も必死で了承した旨を伝えてきてリレがそっと息を吐き出した。
僕という存在は役に立ってるけどその反対に少し迷惑にもなっているのだからジンとウォッカの苦労は計り知れないものであろう、改めて感謝を伝えたい。
そうしていれば電話の向こうでベルモットが笑いながら
『あなたは特に何もしなくていいのよ、ジンがそばに置いているんだもの』
でも、あの時はごめんなさい
そう言われリレは曖昧に笑いつつ「僕は平気ですよ」あれからジンには僕に側を離れないようにと言われてるし僕もジンの側を離れませんから、何もありませんよ、と。
なんだか自分でフラグを立ててしまったことに気付きもせずリレはベルモットとの通話を終え携帯はコートにしまい込む。
ジンとウォッカはボソボソと話し込み車はレンガ倉庫まで動き停車した。
ジンはタバコをくわえ車を降りつつウォッカは周囲は見渡しながら動きリレも2人にならって車を降りた。
ジンは煙を吐き出しウォッカと肩を並べ歩きだし、リレもなんとなく人の気配を感じながらも慌ててジンの背中を追おうとした瞬間、小さな破裂音とともにリレの首にチクリとした痛みが走るもその場に崩れるように倒れてしまった。
リレの意識は、ない。
そんな破裂音にジンとウォッカが振り返れば黒い服をまとった人物が数人おり、そのうちの1人はリレのことを抱き上げジンとウォッカに拳銃を向けながら
「動くな」
と牽制しリレのことを連れ去ろうとしている。
ジンは舌打ちしたとしながらも同じように懐から愛用のベレッタを取り出しリレを連れ去ろうとした男の1人に何の躊躇いもなく発砲した。
その銃弾は男の一人の頭を貫き赤い血飛沫とともに倒れ込んだが他のやつらは黒い車に乗り込み素早く去っていく。
「っクソ…」
ジンは悪態を吐きつつ、ウォッカは慌て車へと走りジンは携帯を取り出しながら誰かへと連絡を入れた。
その僅かな時間でリレを拐った車は猛スピードで走り去りジンも勢いよくアクセルを踏み込んだ。ジンがたった一つ思うそれは
『しくじった』
というもの。
リレから少しでも距離を作ってしまうそれと前の取引での内田のやろうとしていた事柄。
リレを使うつもりなのは当然すぎるそれを警戒していたが まさかこんなすぐに他の人間も動くとは失念していた。
それにしてもリレはどこまで 他の人間やそちら側の人間たちに知れ渡ってるだろうかというもの。
ジンはもう一度舌打ちをしながらもはるか前方を行く車を追いかけるが車のナンバーは隠されているため、車の乗用車という以外の情報が全く持っていい程にない。
リレを拐った車は何がしかの手を加えてるのだろう、距離はどんどん離されていく。
「あ、アニキ、一体……!!」
「あいつらに見覚えはないが今何をしているかの覚悟はしているんだろうな」
全員バラス。
その低い呟きにウォッカも同じようにダッシュボードから何かの道具を取り出した。それはまるで盗聴器を起動させるようなそれ。
ウォッカはスイッチを入れるとザーザーとした音が走り、ほんのかすかに人の声が聞こえてきたのは
『うまくいきましたね、これでこっちが有利に立てる』
それだけはハッキリと聞こえたがすぐ雑音が混じり他の会話は途切れ途切れに聞こえそこから入った情報は、リレを囮にしてあっちの組織から出せるだけの情報を提示させようというもの。
ずいぶんと舐めた真似をするじゃねえか。
そうジンは低く笑うがその瞳は殺気だったものであり離されていく車間距離に、ジンもウォッカも苛立ちが勝っていく。
そうしてリレを拐って行った車はほどなくして見失ってしまった。主に信号で。そして盗聴器からは何も聞こえなくなり、闇雲に追いかけてもすでに意味はないだろう。
ジンは路肩に車を止めウォッカは盗聴器しまい、そしてジンはパソコンを取り出したのは
「今、奴らは南下している」
と。
そう、リレに取り付けてあるGPSの発信機。それは組織が開発した末端につけるような それ。
リレが誰かと会ったり、ジンから離れたりしてもすぐに居所がわかるようにというそれ、 腕時計。
パソコンにはここいら一帯の地図が表示されており発信機は点滅し動いているがそうして15分ほど見つめながらも携帯で誰かに連絡を入れそしてリレの発信機がとある場所で停止した。それは漁港。
「あいつら、リレを……」
そう呟いたウォッカは眉間にしわを寄せ車を発進させた。
空ではパスポートが必要なので漁船ならある一定のところまで行けばあとは大した問題にもならずその漁港近くにいるであろう仲間に指示を出す。
「 全員殺せ。ただしリレを傷つけるな。少しの慈悲も見せるな。だが、リレを盾にしてきたらその場になるべく長い間留めておけ」
色々と無理があるのだがそれはジンの焦りである。しかし リレを使うために拐ったのだからリレを傷つけることはないだろう。しかしそうしてジンは車を動かし、ウォッカは発信器の動きとリレの場所を伝えていき
「兄貴、キャンティとコルンがついたみたいですぜ」
と口端を吊り上げた。
それを耳にしたジンも同じように笑うとジンの携帯が鳴り響きジンがインカムを着けながら
「俺だ」と。
『ジン、なんだかガキの様子がオカシイけど、どうかしたのかい?』
様子がおかしい?どういうことだとジンは問いかけるように呟き
『アタイとコルンが手を出さなくても平気みたいだよ?』
あのガキ、目を覚ましたみたいだけど、男たちを投げ飛ばしている。アタイらは必要かい?と。
リレが目を覚まして男たちを投げ飛ばしているとは、一体どういうことだろうと思いつつも
「リレ以外は1人残して全員殺れ」
『こっちで決めてもいいのかい?』
キャンティは楽し気に笑い
『コルン、あんたはどいつを殺る?』
そんな2人の会話を耳にしながらのジンはアクセルを踏み込み、携帯の向こうからライフルの音が響きわたる。
『アタイは右』
『じゃあ俺は左』
そして複数の音を立てそれにウォッカは笑い、ジンは信号を無視すると漁港に向け、とにかく車を走らせた。
続く