この世界で迷子の僕を(全80話)
取引は滞りなく終え、リレは ジンのコートを少し掴みその背後に隠れるように立つ。
取引相手と話をするのは主に ウォッカであるがジンは視線をチラリと流し見、そしてリレの手をそっとつかみ握りしめてきた。これは一体どういったことなのだろうかと首を傾げてしまったがリレは黙ってジンの手に手を重ねほんの少し力を入れる。
ウォッカは相手からアタッシュケースを受け取りUSBメモリーを渡しているがジンは周囲を見つめるその視線を取引相手に移し
「おい、本当に一人なんだろうな」
そう低く低くつぶやいた。
それに対して取引相手の男は
「1人だ!1人だから!」
そう必死に口にしジンは少し黙り込むとウォッカに向かって「行くぞ」と。
そしてウォッカはジンの言葉に返事をしながら男に
「悪いことはするもんじゃねえぞ」
そう笑っている。
……ウォッカお前がそれを言うのか?なんて思いつつもリレは口を閉ざしジンの手をぎゅっと握りしめジンの手を引く。
ジンはどうしたと言わんばかりにリレを見下ろすとリレはどこか気分も悪そうに周囲をチラチラと見やり
「誰か…いる……」
そう呟いた。
海沿いにあるコンテナだらけのそこ、人の気配がしなくもない。
それをジンに伝えるわけでもなくただジンの手を掴むその手に力が入ってしまうのも仕方ない。
そんなリレに気づいたジンは男に向かって手を向け、その手にはいつの間にか拳銃が握りしめられてあり
「今なら言い訳を聞いてやる」
そうジンは呟いて男が顔色を悪くしながらもUSBを強く握り締め必死で首を横に振る。
そんな男を見つめる、というよりは睨みつける、が正しいのであろうが男は必死で自身 1人だと主張するとバタバタと走り去りジンとウォッカは拳銃に手を添えつつ息を潜めるが誰かぎ姿を現すこともなくジンはリレを見下ろし、リレはそっと息を吐き
「誰も、いなくなったみたい……」
そう呟いた。
恐らくだがそれはきっと本当のことなのだろう。ジンとウォッカは手の中のものを懐にしまいこみ足早にその場を離れた。
リレはジンの手を握りしめながらもキョロキョロしながら ジンに手を引かれるように動きコンテナの影という影に視線を移しつつも3人は止めてある車に乗り込んだ。
そして動きそうになった車にリレはふと顔を上げると耳をすまし
「ジン」
と。
「どうした」
「変な音しない?」
「音?」
聞き返してきたジンとリレの言葉に首を傾げたウォッカも耳をを澄ませるが、特に何がしかの音はしないけれどリレは不快気な顔をしながら車から降りると車の脇にしゃがみ込んだ。
「……」
リレ、ジン、ウォッカは黙りこみらそしてリレを見つめればリレは車の脇に寝転がるようにすると車体の下を覗き込みその手で何かを剥がすように手に取った。
これはおそらく、
「発信機」
そうジンはポツリと呟き、それはもう邪悪に笑うと
「随分と、いい度胸してるじゃねえか」
そう呟き
「リレ、何でわかった?」
そう問いかけられる。
キーンという小さくも細く高い音は今まだ響いているのだが2人は聞こえていないらしい。
もしかして モスキート音というものなのだろうか。
そう思い至ったリレはジンにそのままを伝え、そしてジンはリレの手にある発信機であるそれを手に取ると割り壊した。
すごい力だ。もしくは脆いのであろう。だが、どっちにしても素手で壊すのはちょっと凄すぎないかと思いつつも、ただ黙ってジンを見つめウォッカは車から何かの機械を取り出した。
もうモスキート音らしき音ははジンが破壊した瞬間に途絶えている。
そのことをジンにポツリと呟けば、ジン少し考えると
「連れてきて良かったようだな」
そう呟いた。
確かにこうしてジンの車に発信機をつけるほどに命知らずならばリレを拐うことだって していたかもしれない。
どっちにしろそういうことだろう。
ほんの5分してウォッカは車から離れ
「もう何もないようですぜ」
とジンに伝え、ジンは誰かへと電話をし
「内田のあいつらは全部始末しておけ、ブツは回収しろ」
そう指示を出し携帯を閉じ、もう一度リレの頭をぐしゃりと撫でた。
「よくやった」
そう笑ってくれる。
ここに来るまでジンはずっと機嫌が悪そうにリレに接していたがどうやら今ので機嫌は直ったようだ。
そっと息を吐き出し微笑みそしてリレの携帯が鳴り響きすぐ止まる。
メールのようだとリレは片手はジンの手を握りしめたままだが携帯を開き目を通すと、どうやらベルモットからのようでありジンに声をかけメール画面をジンに見せればジンは眉間のシワを濃くすると大きく息を吐き出し
「ウォッカ、行くぞ」
そうして車に乗り込んだ。
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