この世界で迷子の僕を(全80話)
ここ最近、リレがベルモットと電話している回数が増えている。
ベルモットはアメリカ、リレはジンの側の日本にいるのだがアメリカと日本の時差、必然的にリレが昼に電話を受ければベルモットはナイトキャップ中の電話である。
別に問題はない。ないのだが、ジンは、笑ってベルモットと電話してるリレを見るのは面白くない。
それはもちろんジンの勝手な考えでもあるのだがジンが相手だ。仕方ないだろう。
だがリレがベルモットと電話をしている間にリレを置いて取引が可能になっているのだから、本当に何も言えない。
と言ってもずっと会話をしているわけではないしリレのジンが側にいないことへの耐久ができ始めてもいる。今なら20分行ける。
短いとも思うが長いと思えない時間でもあるけれど、だがそれくらいであれば取引なんてすぐ終えてしまうのでそう 本当に問題ない。
「リレ」
「何?」
「持てるか?」
「うん、どれくらい?」
そう 尋ねるリレに、ジンは時計を見ながら「15分くらいだ」そう呟きウォッカも同じように時計を見つめながらも車を運転し走らせていき
「最近リレも待てるようになったな」
とほんの少し笑いかけリレも嬉しそうに笑うと
「ベルモットが気は紛らわせてくれるから、」
時差がすごいけど、こっちの動きを知っているようにベルモットが電話をくれるのがなんとなくエスパーを感じてしまうけれどそれのおかげだと笑いかければウォッカも笑いジンはタバコを口にくわえている。
ジンは無言だがリレはウォッカと話しながら、そしてジンがどこが不機嫌そうに煙を吐き出し早々にタバコを吸い終えるとシガレットケースに押し付けている。
そんなジンの様子に気づいたリレとウォッカはジンを見つめどうしたのだろうとミラー越しに見つめ合いつつも、リレはそっとジンの名を呼んだのは
「ジン、どうかしたの?」
というもの。しかしジンはリレのことをチラリと見ただけで何がしかのことは言いもせず再びジンはタバコをくわえ火をつける。
一体どうしたんだろうか。
としていても今一よくわからないので余計なことは言わないでおこうとリレとウォッカは口を閉ざした。
あまりいい雰囲気じゃないのは確かなのでけれど、その理由を知りたいのは人の性というものだろ。
ジンに対してほぼ恐れを持っていないリレはジンの髪に手を触れながら
「ジン、何かあったの?」
と。
ウォッカはそんなリレに、相変わらずすごい人間だ、と感心してしまう。そんなリレの問いかけにジンは何事かを答える様子もなくリレと共にウォッカも黙り込み一体何なんだろうと、どうしたのだろうとグルグル考えてしまう。
ジンは煙を吐き出し不意にリレの携帯が響き渡ったのは誰からの連絡だろうか。
と言っても番号を知っているのはジン、ウォッカ含め4人だけ。残りの2人はもちろんシェリーとベルモットのただ2人。
ポロンと鳴りすぐ黙り込んだということはメールだろうか。
ジンの機嫌も気になるが特に答えてくれる雰囲気は無いのでリレはジンを置いておくとしようとジンの髪から手を離しコートから携帯を取り出した。
「ベルモットだ」
特に2人に伝えたいわけではないがポロリともれたリレの言葉に暇なんすかねなんてウォッカが答えてくれて、そして ジンの眉間ににシワがよるが 2人は気づきもせず、リレはたった今着信があった携帯のメール画面を開きメールに視線を落とし携帯を操作する。
『 今大丈夫?』
そんな内容にリレは少し考えると
『今は移動中です』
と送信しすぐベルモットから
『なら、これから取引でもあるのね』
そう問われ、そうですと送り返す。
まあベルモットも組織の人間だから取引があるという情報は流しても問題ないだろう、そう判断した返答である。
『また2人が行っている間に電話でもする?』
そんなメールの内容に少し悩み
「ジンら僕は待っていればいいの?」
「……何でだ」
そんな低い声にリレは首を傾げながらもたった今きたベルモットからの内容を伝えればジンは少し黙り込み
「ついてこい」
と答えてくれた。
「いいの?」
まさかそんな返事が来るとは思わず驚きと喜びに声が上擦ってしまいジンに訝しげに見つめられた。
それに対しリレは笑顔のままジンの横顔を見つめつつ、ベルモットに取り引きはあるけどジンとウォッカについて行くから今日は電話できません、 そちらも遅い時間ですよね?お休みください。
そう送り返した。
メールを見たベルモットは小さく笑い
『ジンによろしくね、×××』
と送信した。そのメールを受け取ったリレはメール最後の『×××』に目を置き、確かこれは「ちゅ、ちゅ、ちゅ」というものだろう。ベルモットからのキスであろう。それを見たリレはちょっとだけ笑うと
「ジン、ベルモットから」
そうメール画面の下を見せればジンは眉間にシワを入れたままため息を吐き出し、仕打ち1つ。
ジン、本当はベルモットとは仲が良くないのだろうかと考えつつ、いや、もしかしたら最後にあった「×××」に何とも言えないものを感じたからなのだろうか。
それでもジンの本心なんてわかるはずもなくリレは携帯を閉じ椅子に深く座り直した。
そうしていてもジンの機嫌が良くなることもなく、むしろ 先ほどよりも悪くなってる気がしなくもない。
ウォッカは黙って運転し、リレは少し考えながらもジンの背中を見つめ考えると、リレはジンに視線を向けたまま
「今日はどんな人と取引があるの?」
そう問いかけてしまった。
そんななんてことない疑問であったが眉間にしわを深く刻みながらミラー越しにリレを見つめ
「どうしてだ」
そう問いかけてくるその声は とてつもなく低く冷たいものでありリレはジンの瞳をミラー越しで見つめてから
「何でもない」、と。
ただちょっとした沈黙という空間に耐えられなかったというそれだけでリレは視線を膝に移し口を閉ざす。
そんなリレをジンはチラリと見やりタバコを深く吸い込んだ。
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