この世界で迷子の僕を(全80話)



ジンの風邪が治ってからしばらくしたが喜ばしいことにその風邪がリレに移ることもなくジンの回復にリレもウォッカも喜んでいて。そうしてからジンとウォッカはジンが寝ていた時に1人で行った仕事についてちらほらと言葉を交わしウォッカの手がリレの頭をポンと撫でてきた。
それはまあ労りの行動であろう、くすぐったさを覚えながらもそっと笑っしまいジンも小さく笑いつつ「行くぞ」と部屋を出たのは3日前。

忙しくあちこち動き回っておりほとんど自宅にもホテルにも戻らず車内で過ごしている。
ジンもウォッカも交代で眠っていたがリレは一人後部座席でしっかりと眠っており、けれど2人が車から降りればいくら寝ていたと言っても気配と音で気付き目を覚まし後を追って行く。

よっぽどのことがない限りは2人と行動し歩いているがそれでも2度ほどリレを車の脇で待たせていたりもしていたがリレは吐いてしまう。

そう、けれど、そうしてリレを待たせて(置いてとも言うが)、 いってしまってもその時間がだんだんと長くなってきているのが喜ばしいことだろ。

今ここまで来て30分、1人で待てるようになっているリレは1人の時は携帯をいじりシェリーとのやり取りに気を向けていられる。
まあシェリーからの返答は早くはないがしっかりと返してくれるしシェリーもシェリーでリレとのやりとりを楽しんでいるらしい。

一度だけシェリーとジン、ウォッカが会話しているのを少し離れたところで見ていれば 研究員の人に

「最近とシェリーとメールしてるの君だよね?」
「はい、そうですけど」

男性職員はそっと笑うと

「メールを交わしてる時ひどく楽しそうにしていてね、」

いい息抜きになっててこちらとしても助かるんだ。
そう言われてしまった。
息抜きをされて助かるってどういうことなのかを考えてしまえばすぐ男性職員はリレの耳元で

「休憩してくれないとこっちも休めないんだ」

なんて苦笑気味に呟かれ、そして後の3日後のこと。
ジンとウォッカは夜道の路肩に車を寄せ停車すると2人とも車を降りそれについて行くようにリレも車から降りた。
しかしジンはチラリとリレを見下ろすと

「お前はここで待っていろ、 30分以内には戻る」


行くぞウォッカ、と歩いて横の裏道と去って行き暗い中、ネオン輝く世界で立ち尽くしていれば、酔っ払いや仕事帰りのサラリーマン、OLがリレのいる車の脇を歩いて過ぎ去って行きジンから受け取った ジッポを握りしめ車によりかかる。

チラチラと携帯で時間を確認していればすでに時刻は2人が行ってから20分は経過しており胸の中にムカムカしたものが持ち込みやがり口の中の唾液が溢れそうになる。

目をぎゅっときつくつむった リレは、気持ち悪いと車によりかかり座り込んでしまうとリレの前に影ができ、ハッとし「ジン」と呟きそうになりながら顔を上げれば、いかにも「ナンパ しますよ~」なんてオーラを出した金髪ピアスのお兄さんがリレを見下ろしておりついついリレの眉間にシワが寄ってしまったのは仕方あるまい。


「ねえ君、さっきからずっと1人だよね?暇なんだよね?良かったら俺と遊ばない?」


そんな軽い声を耳に入れつつもリレはそっと俯き息を吐き出してしまった。


「えー、人を見るなりため息なんてヒドイじゃないか~、オレ傷ついちゃった~」


なんてへらへらと笑いその表情と顔にも眉間のシワは濃くなり完全無視の態勢に入ることにした。

そうしていればナンパ野郎は悪態を吐いてでも去ってくれるだろうという思考は簡単に裏切られてしまう。

ナンパ野郎はリレの前に座り込み視線を絡ませてこようとしてリレは更に不快な気分になっていきジッポを握る手に力が入る。

ジン 早く戻ってきて。

視線は決して上げず口もしっかりと閉じるがこの男の出現により吐き気は増幅されており


「おい」


なんて、ものすごく低く冷たい声がリレとナンパ野郎の耳に入り込みリレはパッと顔を上げるとそのまま立ち上がりジンの腰にぎゅうと抱きついた。

ナンパ野郎は突然の介入者に、そのジンとウォッカの顔にビビったように立ち上がり


「俺のもんに何の用件だ」


そう低く低く。

「あ、いや、その、何でもないっすよ!」

ただその子が1人きりだと危ないかなあと思って、善意っすよ、善意!


リレはジンに抱きついたまま、そして男は焦ったように 道を走って行きリレはジンの

「俺のもん」

という単語にドキドキしながらもジンにジッポを渡し

「お疲れ様!」

そう笑い顔を上げた。









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