この世界で迷子の僕を(全80話)
咳き込むジンを見つめたリレはどうしようと考えたのは、ジンに薬を飲ませるべきか何なのか。
つい先ほど触れたジンはなかなかに熱く、風邪薬を用意してあげたい気持ちになりベッドで休んでいるジンを見つめつつホテルの受付に電話を入れる。
『はい、受付です』
どうなさいました、と続いた言葉にリレは少し間を置き
「風邪薬ってありますか?」
『はい、ございます』
その受付の女性の言葉にほっとすると
「もらうことは可能でしょうか」
そう尋ねかければ受付のお姉さんは『はい』と答えてくれて、会話しつつ
『お持ちいたします』
そう言ってくれた。
受話器を置き布団の中で目を閉じて眠りの態勢のジンを見やりほっとしてしまった。
ジンも人の子。ジンの親が一瞬どんな人物なのだろうかと考えてしまったが、その考えはすぐ消し去りルームサービスとして薬が届くのを待つ。
リレはソファーに投げ捨てられているコートと帽子はハンガーにかけ少しだけ空気を入れ替えていればピンポンとドアベルが鳴る。
チェーンをかけたままそっと覗けばそこにはボーイが立っていて、リレは扉を閉めすぐチェーンを外し扉を開けボーイと顔を見つめ合う。
「はい、お薬です」
あと氷嚢もお持ちしました、なんて言って渡してくれた。
なんて気のきくホテルなんだろうなんて思いながら受け取り、
「何かございましたら」
どうぞご連絡下さいと去っていき、リレは氷嚢をジンの頭の下に敷くと白湯と薬を口に含ませ再び横にさせる。
何もそこまで、そんなジンの呟きにリレはキッと見つめると
「風邪は初めのうちに休まないと悪化するんだよ」
「んなわけねえだろ」
「そんなわけあるの」
だからおやすみなさい。
リレがジンに対してこんな強気に攻めてくることなんて拾われてから一度もなく、なんとなく変に気分が悪くなってくる。なんというか、くすぐったい。
俺の人生の中でここまで尽くそうとしてる人間なんてウォッカ以外には存在しなかったしジンも相手に対し“あの方”と“ラム”以外には尽くそうともしなかった。
まあ若手の頃は従ったりもしてたがほぼ実力で今の地位についている。
そんなことを考えながらも白湯を飲み熱い息を吐き出した。
風邪なんていつぶりだろうか、 今まで こういったことには気を向けてはおらず、丈夫であろうと過ごしていたが リレはしっかりとジンに言い聞かせてきて「ああやっぱり、こいつは“外側の人間”だと思ってしまう」
再びリレがジンに近寄り額に触れてくるとひんやりとしたタオルを置かれ不覚にもそれが気持ちいいと感じてしまい ほんの少し小さく笑ってしまった。
そんなジンに気づくこともないリレ背中を見てしまう。
介抱なんてされることはなかったが、いいものだなと考えてしまう程度にジンは中々に頭が熱でやられてしまっているのだろうがしかし、暑い。でも寒い。
ジンはコンコンとした咳をし リレはパタパタとジンの側までくるジンの側に椅子を持ってくる。
そこに腰を下ろしてジンの様子を見ながら携帯を操作し何か打ち込んでいる。
しかし静かに目を閉じ眠っているジンは気づくこともなくリレはジンを見つめるとウォッカに
『ヨーグルトかゼリー、あとスポーツドリンクお願いできないかな』
そう問いかけ「了解」としたメールが届き携帯を置く。
昼までに戻ってくると言っていたので大人しくそれを待つことにしよう、そうして動いていてもジンが目を覚ますこともなく顔色こそ変わらないものの息は多少荒くあり思わず小さく笑ってしまった。
そんなことをしていながらおのずと眠くなってしまうもソファーに横になったところでジンが気になってしまい眠気がどこかへ行ってしまう。
テレビを見ようにもジンを静かに寝かせてあげたいという思いが心と頭の中で争いを起こし、結局は音量を絞ってテレビを見ることにした。
朝のニュース番組で目に入ったのはとある市議会議員が心臓発作で亡くなったそれ。
この議員、確か先日ジンとウォッカが取引をしていた相手ではないだろうか。
ではないだろうか、ではなく、 確実だったと言える。
だって僕に話しかけようとしてジンに諌められていたんだ、よく覚えている。
そんなことを考えながらニュースは天気予報に変わりそれを眺めると今日は晴れのようだ。そろそろ歩くとカーテンの隙間から外を見る。
やはりいい天気。
予報が当たっているなと雲ひとつない青い空が広がっておりこんな時に眠るなんてもったいないなあなんてぼんやりと考えていれば不意に布団から起き上がるジンの気配を感じ、そして掠れた声でジンに名前を呼ばれた。
「リレ、こい」
「え?」
「お前がいねぇと寝付きが悪い」
と。
その言葉にリレはほんの少し笑うとジンの側に近寄り
「そんなことしたら僕が風邪引いちゃうかもしれないよ」
ふふっと笑えばジンは息を吐き出しながらも何とも言えない凶悪な顔を見せ
「お前は誰のものだ」
その言葉にハッとするとリレは「ごめんなさい」と小さく 呟きジンの横へと身体を滑り込ませ横たわる。
そうしていればジンの手がリレの背に回り、リレはジンの首元に顔を埋める形となり、頬に、額に、熱い息が降りかかる。
ジンの額からずれたタオルを ジンの頭に乗せかけてやれば ほんの少しだけ笑いぐっと抱き寄せられてしまう。
「ジン、大丈夫?」
ジンは言葉を返してくれることもなく、それでもその代わりに回っている腕に力が入りジンの唇がリレの額に寄せられるといつも以上に熱い口付けが落とされる。
これでは本当にジンの風邪が移ってしまうであろがジンにはそんなことどうでもいいし構ったものではないのだろう。そのまま抱きしめられていればジンはストンと眠りにに落ちて行ってしまいそっとその 頬に手を触れ撫でていく。
ジンは一瞬目蓋をピクリと動きその手を離せば「リレ」 なんて声が言葉が耳に入り、ドキドキしながらもリレはジンを見つめる。
「ジン?」
そう問いかけるがジンは動きもせず本当に眠ってしまっているのが分かって頬が上がる。
今のが寝言だとしたらジンの夢の中には僕がいるらしい。
嬉しいやら恥ずかしいやら疑問に思っていながらも、けれどリレはそっと笑ったままもう一度頬に手を添えらると
「ジン、早く治ってね」
と頬に口づけを送った。
そんなリレの行動にジンは少し笑い
「可愛いことするんじゃねえ」
なんて 耳に響きドキッとしてしまった。
「お、おきてた……?」
「今はな」
つまり今の呟きも口付けも意識があったという事に違いない。
一気に顔に熱が集まっていき恐る恐るとジンの目を見つめればそこにはいつもリレを抱いてこようとする怪しげなもの。
もしかしてそんな気分なのだろうか。
そう問いかけたくとも何も言えずジンはリレの額に唇を寄せ頭をぐしゃって撫でながら
「そういうことを俺が起きてる間にしろ」
なんてずいぶん無茶なことを言われてしまえば何も言うことなんてできない。黙ってジンの行動に身を委ねることにした。
寝るけどな!!
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