この世界で迷子の僕を(全80話)



とある日の朝、ジンが軽く咳きこむ音にリレは目を覚ました。


「ジン、おはよ」


リレはほんの少し目をしばたかせるとすでにベッドから出ているジンに目を向け欠伸を一つこぼし、リレも同じようにベッドから降りた。
ジンはそんなリレをチラリと見るが何も言わずもう一度、二度と咳き込んでいる。


「ジン大丈夫?」


リレは何度も続いて咳をし眉間に皺寄せているジンは酷く 機嫌が悪いのはよくわかる。

確か今日は少し出ることになってるが平気だろうかと顔色を伺い見ようとすればジンは背を向けコンコンとしている。
大丈夫だと思えないがジンは平気だなんて言って休みもしないだろうがリレの身としては休んでほしいし、寝て欲しい。 

ジンはそうして咳をしながら洗面台に行き水の音が聞こえてくる。顔でも洗っているのだろうか。
洗面台からもやはりコンコンという音は響き聞こえてきてリレはとてとてと歩きジンに近寄っていき、チラリとジンの背中まで歩くとジンはタオルで顔を拭いてリレのことを見下ろした。


「なんだ」


そう呟かれ、そう言いたいのは僕の方だと思いながらジンの額に手を触れれば中々に 暑い。


「ジン」
「あ?」
「もしかして」


なんて言葉は淀むこともなく
「昨日の雨」

そう、昨日はひどい雨だったが取引相手を待っている時に突然の土砂降りに全身を濡らしていき、ろくに体の水気を拭き払う間もなくすぐに別場所だと赴き歩きそしてホテルに帰宅(?)した。

ジンは雨で寝れそうになったリレにコートを頭から被せ濡れないようにと計らってくれたその優しさは紙面で見ていたジンのこの日常は知らぬもの、知るはずもないもの。

ジンは信頼を置いている相手には多少なりと優しいのだろう。そしてリレはそれほど濡れることはなかったが取引から戻ってきたジンは全身ずぶ濡れで、ウォッカもチラリと ジンに視線を向けつつも通りを越して駐車してある歩車に乗り込んだ。


「ジン、大丈夫?」
「ああ」


そう答えてくれながらもジンは帽子の水気を払うように取り、リレからコートを受けとるが羽織ることもなくホテルへとついてしまう。

雨は未だ激しく降り続いており地下駐車場からホテル内へと鍵を受けとると2人はさっさとエレベーターに乗り込み 明日の打ち合わせを始めるがその時数度くしゃみをして部屋の前でウォッカは離れて行ってしまいリレはジンの後を追いかける。

ジンは服を脱ぎ捨てながらシャワールームに消えていってしまいリレはルームサービスで服をクリーニングに出しておく。そうしていればシャワールームからジンの呼ぶ声が聞こえ、リレはそれに従うようにシャワールームに足を向けた。


「どうしたのジン?」
「お前も入れ」


そんな声にドキリとしながら全てクリーニングに出してるのでまあ仕方ないだろうなと言い聞かせ全てクリーニングに出してあるのでシャワールームに足を踏み入れた。

そこは軽く温かい空気が広がっておりジンも頭からシャワーを浴びている。
そしてリレが入ってきたのを確認したジンはリレの手を引きその手は微か冷たくありリレは握りしめ自身の手で温めようとした。
その行動にジンはほんの少しだけリレのことを引き寄せ熱いシャワーを頭から被せられてしまった。


「ぶわっ!?ちょ、ジン、ジン!熱いよ!!」


そう訴えかけるよう抗議したがジンは笑ったまま水ごりのようにリレの頭にシャワーを浴びせ、そして満足したようでリレから離し今度はジンが熱いシャワーを浴びている。

身体を洗い、すぐシャワールームを後にしてバスローブを羽織り暖房入れておくとほどなくしてジンは出てきて髪を荒々しく拭きつつリレと同じようにバスローブを羽織りくしゃみ1つ。


「ジン、服クリーニングに出しておいたよ」
「そうか」


ジンはポツリと答えリレがコートのポケットから出しておいた携帯を操作しながらタバコを口に咥え火をつけ煙を吐き出していく。その機嫌は少しだけ悪いもの。

携帯を置くとジンはさっさと ベッドに入り込みリレもすぐにジンと同じベッドに入り込み、ジンに抱きしめられ、ジンは熱い息を吐き出しながらそのまま眠ってしまった。
部屋もベッドも徐々に温かくなってきてリレはジンから漂ってくるシャンプーと煙草の香りにドキドキしてしまう。
それでもジンの規則正しい寝息に誘われリレもストンと眠りに落ちてしまった、。からの冒頭である。


「今日はどこに行くの?」
「ベルモットと会う」
「それは今日じゃなくちゃ駄目なの?」
「何でだ」


そんなジンの低い声にドキドキしながらそれでもジンの頬に手を当て呟いた。


「ジン、風邪ひいたでしょ」
「……」


無言のジンを見上げているリレを見下ろしたジンは小さく舌打ちをするがそれで引き下がるはずがない。身体は大事にしてほしい。確かに仕事も大切だろうけど身体があってのものだろう。

そう伝えていれば再び舌打ちもう一つ。そうして見つめ合っていれば部屋のドアがノックされ、リレはジンをソファーに座らせるとドアを開け、ホテルマンからクリーニングされた服を受け取り笑顔で頭下げた。

リレはその服をジンに渡しケトルで沸いたお湯でお茶を煎れジンに渡せば、やはり機嫌が悪いままコンコンと咳き込んでいながらお茶を飲んだ。

再び部屋の扉がノックされると今度はジンが立ち上がりコップをリレに渡すとドアを開けウォッカと顔を合わせていて


「アニキ、ベルモットと会った後なんですが 、」


そこまで続いた言葉にリレはコップをもったままジンとウォッカに早足で近寄り


「ウォッカ!ごめんね、今日はジンを休ませて欲しい」

と。
その言葉にウォッカは「え?」と呟き、ジンは眉間のシワを濃くしリレを見下ろし
「余計なこと抜かすんじゃねえ」そう 続きそうな言葉も 極度の緊張に胸をドキドキさせながらも引くことはせず


「ウォッカ、お願い」
「リレ!」


そんな荒いジンの声に肩を跳ねさせながらもジンのことをしっかりと見上げ唇を引き締めると


「ウォッカ、ジン、風邪引いてる」
「え、アニキがですかい?」


ウォッカは少し驚いたように視線を向けるとその顔を伺いつつ
「でしたら」

と、

「今日は俺一人で行ってきやしょうか?」
「いや、ウォッカ、行くぞ」


そう 続きそうな言葉は 一瞬止まりジンは咳を溢すとウォッカとリレは見つめあい、そして頷くと


「アニキは休んでいてください、早々に済ませますんで。リレ、頼むぜ」


と。そう言い残しウォッカは頭を下げ行ってしまった。


「リレ」
「……なに……」


のジンの声色は冷たく固いもの。まあそんな声を出される予想はしていたけれど、実際に聞くとなかなかに怖いものがある。
しかし今更なので、リレは心臓を速く脈打たせつつもジンの腕を引きソファーに座らせるともう一杯お茶を差出し


「今日は、寝ていてください」
埋め合わせはその内させてください。でも今は休む時間です。いいですね。コートを脱いで寝てください。

そう強く言いきったリレにジンは息を吐き出すとベッドに戻って布団の中に収まってくれた。









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