この世界で迷子の僕を(全80話)


「どうしたリレ、こっちを見ろ」


そう耳元でで囁かれた声と言葉に背筋を震わせながら考えたのは、何がどうしてこうなった、その一言に尽きる。

ことの始まりは大したことではない。ジンとリレ、今日は2人でラボの施設に訪れればジンに集まる女性たちの顔、顔、顔。その視線はジン続いているが今更気にはならねえと言わんばかりの完全無視である。
そして次に女性たちの顔や視線が注がれてしまうのはリレである。

ジンが連れ歩いてるようであり、そしてジンのコートを少し掴んで ジンの後を歩いて行く姿に女性たちの心に湧き上がるのは嫉妬しかなく、リレはそんな冷たい視線から逃れるようにジンの影に身を隠す。


「どうした」
「……何でも…」


ジンに敬語を使わず話しているのはネーム持ちだけであり、リレがそうして敬語も使わずに接しているのさえも嫉妬の対象にしかならない。

何とも自分勝手な感情だ。

そうしてジンとリレは2人一緒に歩き言葉を交わしている。
その場所に落ち着きたいと思っている彼女たちは色目を使って近づこうとしても欲しいと思っている視線を向けてくれもしないしジンに「なぜ」という感情が生まれてしまう。
その自分勝手でジンが嫌う、馴れ馴れしく色目を使いジン の側に置いてもらおうとしているその感情が理解できるが、理解する気もなく、女性たちのその嫉妬と怒りの矛先 はリレへと向かってしまう。
しかしリレがジンのそばを離れ 一人きりにならない限り彼女たちにはどうすることもできない。ただただモヤモヤとした気持ちで心の中を荒だたせている。

そしてその時は案外簡単に訪れた。

ジンは大抵どこへでもリレを連れて歩いてるがどこかの要人と顔を合わせたり、リレに見せたくないことがある時は部屋の前などで待たせている。
そこに女性職員が休憩から戻ってきた時、扉を前にして廊下に腰を下ろし手を強く握りしめて俯くリレをとらえ見ることができた。

その女性社員は職員は事の他リレのことを嫌い、ジンの横に立とうとしている気が強すぎて、不用意にジンの話題を出せば

「あなた、ジンに気があるの?」
「 私からジンの情報を聞こうとしているんでしょう?」
「ジンを想っている人たちの中で私が一番ジンに好かれているのよ」
「あなた、ジンの何?」

そんな妄想めいた斜め上の言葉を出してくる女性職員が今、1人、互いに1人きりで顔を見合わせてしまった。
正確には 女性職員だけだが。


「あなた、確かリレよね」


疑問系ではあるが断定しているそのことにリレを顔を上げ首を傾げてしまう。
そんなリレの仕草に女性職員は苛立たし気に眉間にシワを寄せ

「あなた、何様のつもり?」
「え?」
「ジンの情けでこの場にいるんでしょう、けど邪魔に思われてるわよ。絶対に、ね」


そう何かしらの含みを持たせた女性職員の言葉にリレはハッして女性職員と顔を見合わせてしまい

「私、ジンと寝たことあるのよ」

と女は笑い、嫉妬に狂っているその瞳でリレを見下ろし


「男のあなたにはそんな こと できないでしょうし、ジンに邪魔に思われないうちに何処へでも行ってしまいなさい。所詮、遊びなんだから」


そう女はもう一度厭らしく笑うとリレの前を歩いていってしまった。


『あなたジンの邪魔なのよ』
『情けで側に置いてもらっている』


そんなこと重々承知だ。
僕はジンに拾われてジン助けてもらった。
僕は様々な言葉がわかるため、ジンに同時通訳だって任されたりもする。

その僕が邪魔。

まさか、いや、でもそんなことを言ってくる人(今の人も)がいるということはどこかでジンが何かを言ったのかもしれない。

火のない所に煙りはたたない。 そういうことだろう。

女性職員が去って行ってしまってから3分程が経ち、今の女性の言葉をしっかりと納得してジン本人の本音を知る必要もあるが、でもジンである。相手はジンある。

ジンが本当に邪魔だと思ってる人物がいるとしたらしっかりバッチリ言い捨て始末し海なり山なりに捨てられるに違いない。
もしかしてシェリーが作っている薬APTX4869を飲まされてどうなるかなどの実験台にされるに違いない。

姿を見せたジンに抱きつけば 低く笑い、冒頭に戻る。

ここは廊下。人はいないけど廊下。
ジンの熱い息を耳に感じ恐る恐るとジンの瞳を見つめてしまえば、やはり女性職員の言葉ハッタリなんだろうなと頷いてしまった。







 

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