この世界で迷子の僕を(全80話)



太陽はまだ傾いてはいないが人々が行き交う通りを少し横にそれた細道の奥にその女の子がいた。
黒いふわふわの髪を赤いリボンでくくり、明らかに上物と思える服を身にまとっていてそして座り込みうつむいてしまっている。

ジンとウォッカは通りの戻ったところで車を降り「すぐ戻る」と言って行ってしまい吐き気を覚えつつ車のそばで吐くことはできない、そう 一人で考えつつ車を降り近くの裏道へと入っていけばその少女を見つけたのだ。

胃液が込み上がってきそうだがその少女を見つけてしまった瞬間容赦なく襲いかかってきていた吐き気は徐に収まりリレは少女の前にしゃがみこむと視線を合わせた。


「こんにちは」
「…にち……は……」


返ってきた声は子供から感じ取ることのできる元気なものではなく、泣き疲れてどうしようもなくなってしまった、そういうことだろう。


「パパとママとはぐれちゃったの?」


そう努めて優しく問い掛ければ少女は小さく頷き


「ここへ来るのは初めてなのかな?…旅行?お出かけ?」


リレは少女の様子を伺いながらも問いかけていけば女の子の目には何も映っておらず、リレはそっと手を差し出した。


「ここは危ないから大通りに戻ろう」


そう 一言口にしてからその差し出した手に女の子はヒッと 涙を浮かべ身をよじる。

完全に警戒されている。

それもそうか。道もわからぬところで泣き疲れ座り込み孤独を感じていればこれくらい(恐らく5歳ほどだろうか)の子供ならきっとついてきたりその手を掴むことだって中々に勇気がいることに違いない。

リレは気づいていないけれど リレの金の瞳は有無を言わせぬような鋭さと、どこかほの暗い狂気を感じてしまうことを、そう、知るはずがない。


「どうしよう…警察呼んだ方がいいよな…」


でもその先で身分証を見せろなんて言われたら僕にはそれを提示することは叶わない。

そして悩んでいる間に女の子が
「パパ、ママ」
そう繰り返している。

リレのことを警戒している節はある女の子にリレが少し考え思ったのは、ジンだってこうして手を差し伸べてくれたという優しさ。
ジンに返すにはまだまだ足りないだろうとしながらもう一度女の子に声かけた。
ここで
「来る気がないならさようなら」

なんて言えるはずがなくそして女の子を見つめてからおよそ5分、不意に、リレの携帯が着信音を奏でておりリレは慌ててその電話に出た。


『どこにいる』


ほんの少し怒ったような、心配しているような声に思わず へにゃりと笑ってしまったが 『裏通りに繋がってる細道を通り過ぎた先にいる』そう答えれば当然だが何でそんなとこにいるんだと言われリレは 事の次第を話すことにした。

こうであーでこうしてそうしてここにいる

適当にかいつまんで話せばしばらくの沈黙があり
『そのガキも一緒に連れてこい』
その言葉にキョトンとしながらも女の子を見下ろし通話を終了させておく。


「ねえ、まだ明るいけど、この道は少し危ないんだ。だからもう少し戻った大通りに行こう?」

僕は君に触れないし無理に連れて行こうとはしないよ。でもね、やっぱり僕についてきて欲しいなぁ。

そうして急かすこともなくゆっくりゆっくり話しかけていけば女の子の瞳にはみるみるうちに涙が溜まっていき、声を出して泣きながらリレの身体に勢いよく抱きついてきたのはきっと心を少しは開いてくれたと思っても問題ないだろう。

リレは女の子の背中を軽くポンポンと撫でて抱き上げ立ち上がる。
そうして女の子は腕を回したまま泣き続けており、そして大通りに戻りつく。そこにはジンとウォッカが車の側に立っており、リレとリレの腕の中にいる女の子を見つめ、それはもう怪しさ全開の笑みを浮かべ近寄るが初見のジンなんて恐怖以外の何者でもないだろう女の子は小さく息をのみリレにぎゅっと抱きついてくる。

「さて、」

どうしようかと問いかけようとした瞬間その通りの向こう側からの上物の仕立てであろうスーツを着た男が顔を涙でてぐしゃぐしゃにしながら駆け寄ってくるその姿を確認して思わずジンに隠れるようにしてしまったのは防衛本能が勝ったため。
しかし腕の中の女の子はそんな男に気がつくと涙で濡れている顔にパァッとした笑顔を浮かべ


「パパッ!!!」


と叫んだ。
女の子の反応を見たリレは女の子をおろし男の人に何度も何度も頭を下げられてリレは笑って手を振った。


「で、リレ、」
「?」
「何で車にいなかった」


リレはハッとしてとりあえず、今度は説明を端折らずに全てを話すことにした。









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