この世界で迷子の僕を(全80話)



組織の中で今話題になっている人物がいる。
コードネームをもらっているわけでもないのにジンが名付けたそれは「キナ・リレ」というもの。
名もないカクテル、 それを名付けたその意味は「リレ」という存在がこの世界のどこにも存在していないものだから名付けられたのだろうか。裏に通じる情報やネット、個人情報、とにかく様々な面で探ったりもしていたのにこの金の瞳を持つ人間を誰も見つけることができなかった。

そう怪しすぎる。

ジンは何を持って この男リレをそばに置いているのだろう と噂になっている。
興味本位でリレに声をかけようとするも、ジンの視線で牽制されていて今のところリレと会話しているのはシェリーのみ。
会話していると言ってもジンが近くにいる間だけだけど。それでも組織のコードも持ってない研究員たちはシェリーにリレについて尋ねているがシェリーは小さく笑って

「秘密」

と軽くあしなわれてしまう。
本当にリレは一体何なのか。

まあリレが誰なのかわからない中にあるのは出生届さえ届けれていなかったそれにあるのだが、けれどそう悩んで考える組織の末端たち。
彼らはリレに悪い気は持っていなかったが、それでもリレのことを疎ましく思ってる人間だって存在するのは確かだ。 特に女性たち。

背が高くら帽子と前髪の隙間から覗いている冷たく鋭い視線がいいというもの。
決してマゾヒストではなくジンがリレにだけ見せるほんの少し和らいだその視線を私にも向けて欲しい、そんな子供よりも私の方をふさわしい、そんな嫉妬心がリレとジン、ウォッカが訪れるたびに思われているのをリレたちは知ることもなく。
まあジンやウォッカなら多少は気づいているのだろうが完全無視である。

その油断が事件を引き起こした。

今日も今日とてシェリーの元へと訪れたジン、ウォッカ、リレはシェリーと話し食事でもしましょうとリレはシェリーに誘われジンとウォッカに視線を投げかけると、ジンは少し考えると


「食ったらすぐ戻る、いいな」


そう言われリレは「分かった」と笑顔でうなずいている。時刻は昼の12時を少し回ったところ。

リレがシェリーたちと歩いていくそちらを見届けた研究員の一人の女がリレの背中を睨みつけつつ携帯に指を置いて


「今あのリレとか言う奴が行ったからお願いするわ、よろしくね」


二言と言葉を交わしたら携女は携帯からを耳から離し、ふ、と不適に笑い

「お別れよ、いい気味」


なんて。
その言葉は誰かの耳に届くこともない、ホールに入りジンとウォッカはコーヒーだけを頼むとリレとシェリーからそれほど離れてはいないが2人の会話が聞こえるほど近くはない場所に座り、リレとシェリーはパスタ食べようとした。


「そこの、」


そんな声がリレとシェリーの耳に入り、リレは顔を向け声をかけてきた女の手には何かの道具。

なんだろうと思っていればその人は料理を作って配膳してくれたお姉さんであり


「チーズかけ忘れちゃった、いるでしょう?」


そう食い気味に声をかけられてしまえばリレは驚きつつも 小さくうなずきシェリーはそんなお姉さんのことを見上げ どこか訝しげにしている。

お姉さんはリレのパスタにチーズをかけ
「シェリーもいる?」
「いらないわ」

あらそうなの?ごゆっくり

そう口にして笑う女の顔は何かを企んでいると言っても過言ではない。そういやらしい笑顔と言葉を残して去っていき女の背中を睨みつけるように見ていたシェリーはパスタを食べようとしたリレの手を掴み

「リレ、少し待ってくれる?」


というもの。

「え?うん、分かりました」


何だろうとフォークを置いて 椅子から立ち上がったシェリーはリレのパスタを持って今先ほどリレを呼びかけた女のもとに行くとパスタの皿を置き


「ねえ、これ、味見してくれない?チーズがかかっているところ」


女の表情は一瞬引きつるがそれでも「なんで?私の作ったものは食べたくないって言ったのかしら、あの子」と返ってきて

「そうね、今のは食べさせる気にはならないのよ」


だってあなた、チーズ以外のものも一緒にかけてたでしょ?

知らない振りをしたり卑しい理由がなければ食べられるわよね?もちろん、何も入ってなく食べることができるなら 私はあなたに謝るわ。

そう淡々と口にしてその言葉が聞こえていないリレはきょとんとしながらもシェリーの背中を見つめどうしたものかとジンにも視線を向けて一体何なのだろうと眉を下げてしまった。
そうしていればジンは立ち上がりシェリーに近寄ると2人は女と話をし、そして女の表情がだんだんと悪くなっていきジンは携帯を取り出しどこかへと指示し、そして女は程なくして連れていかれた。

リレはただただポカンとして2人のことを見つめるだけでウォッカが笑ったまま、リレの頭を軽く撫でるだけで何事かは教えてはくれなかった。









次へ
47/81ページ
スキ