この世界で迷子の僕を(全80話)



昼間のホテル。ここのところ 忙しすぎたジンとウォッカ。
家へ帰る目処も立っていないのでまた1週間ほどのホテル暮らしになり、いくら組織の息がかかっているというマンションでもあまり帰らないのであればいらないのではないだろうか。そんなことを考えながら太陽が周囲を照らし出す朝の9時。

最近は夜に活動しているのでリレの体内時計は狂いかかっているが、ジンとウォッカは慣れたものなのであろう改めてすごいなと思ってしまう。

ジンとリレはウォッカに
「また今夜」
と言って別れたがジンはチラリとした視線を送るだけ。それに何かを言うわけでもなく

「ウォッカ、お休み」

と声をかけウォッカも少し笑ってくれた。そうしてジンの後を追いホテルの一室へと入ればやはりそこは豪華な部屋であり、寝るだけならこんな 豪華な部屋じゃなくてもいいのではないかと思ったりもするがまあいいだろう。

ベッドもダブルなので、2人狭く縮まる必要もないだろう 。
というかジン。
ジンって何で男(というか僕なんだけど)を抱きしめて寝るのだろう。僕のことを抱いたことでジンの完全ヘテロという考えは消えてしまってるけど、でもジンが男に対して労るような表情も態度も向けず、そういえば 女性にもそんな感じだ。

つまりジンは僕のことを少なからずとも思ってくれているのであろう、そうでなければジンが僕のことを側に置く意味はないと思う。

それを感じながらもリレはご機嫌にジンの後を歩き、いつものようにジンはコートも帽子も脱ぎさっていて空いているカーテンから差し込む太陽の光にほんの少しだけ不快気な表情を浮かべているのは、つまりとても疲れておりそして昼の光が嫌なのであろう。

ジンはカーテンを完全に閉め切り外の明かりを遮断させるとジンはリレの頭をぐしゃりと撫で

「シャワーを浴びろ」


と。その一言にもしやと思っていればしかしジンはそんなリレの心を読んだように低く 笑うと

「今日はしねぇよ」


と。その言葉に安堵のような 残念のようなそんな複雑な感情でいてもジンの呼びかけには応じようではないか。

リレはうんと笑いかけシャワールームに向かい服を脱ぐ。
そこには当然なのだがジンも裸でシャワーを流している。

2人同時だとしたら浴室は狭いのであろうと思っていたが そこはこのスイートルーム(?)である。
浴室もしっかり程よく広いので2人でシャワーを浴びるのにも邪魔にはならない。

いやでもシャワーは1つしかないのだから2人一緒に入る意味はあまり、というかほぼ完全にないと言っても過言ではない。

それでも、しかしジンがリレを風呂に誘いその行為をしないでのただのシャワーなんて初めてかもしれない。

そのことに気分を上昇させていればジンは訝しんリレを見下ろしてきたがすぐ洗い始め 2人してシャワーを浴び終えるとシャワールームから去りジンもリレもドライヤーは使わずタオルで髪を荒々しく拭いていきらリレはバスローブを身にまとった。

ジンは相変わらず下着(もちろん新しい)も着て服をまとうと煙草を咥えソファに座り煙を吐き出している。
リレはトテトテと歩きジンの横に腰を下ろせばジンはリレのことをチラリと見つめてくると低く笑いながらも頭を撫で

「先に寝ていろ」

と言われてしまう。
その言葉にリレは少しだけ考えるとジンを見上げて頷き大きなベッドに潜り込むが、ジンが側に来るまで眠気なんて 訪れては来ない。

目を閉じているが神経はジンに向け静かに待機する。
そうして5分ほどでギシリとソファーが軋む音がしてジンがゆっくりとベッドに乗り入り体を横たえるとリレの腰に手を回し抱き寄せ眠りの態勢に入っている。

僕を抱きしめるジンから同じシャンプーを使ったので当然だが僕と同じ香りが漂い、そしてたった今ジンが吸っていた煙草の匂いが鼻先をくすぐり入ってくる。

煙草はあまり好きではないけれどジンが吸っている煙草の香りはどこか微かに甘い香り も混ざっていて、なぜかひどく落ち着いてしまうのはなぜなのか。

瞳は開かずに、けれどジンの香りを吸い込めば腰に回っているジンの手に力が入り


「起きてるのか」


そう静かに囁かれてしまえば リレは本の少し身動ぎそっと目蓋を持ち上げた。その目の前にはジンのモスグリーンの瞳が僕のことを見つめており その静かな視線に心臓の鼓動を高めてしまう。

そうすればジンは低く笑い目をを細めると腰に回っていた手が片方持ち上がリレの頬をそっと撫でると至近距離にあった瞳に吸い込まれてしまいそうになる。


「ジン……」


ポツリと呟いたリレにジンはもう一度低く笑いそっと唇がリレの頬に寄せられると口づけられてしまった。
そのジンの行動にドキドキしてしまえばジンの唇が今度は唇へと近寄り、触れるだけの口付けを一つ。


「もう寝ろ」


そのジンの言葉にリレはジンの腕の中、赤くなっているであろう頬を見られないようにと潜り込むとジンの心臓の音を耳にしながら眠りに落ちていった。









次へ
46/81ページ
スキ