この世界で迷子の僕を(全80話)


長くはないが、何と言うか、濃い仕事内容にリレヘロヘロ だし心なしかウォッカも疲れているようでリレはそっとジンの顔を伺い見る。
だがジン何ともないような、事実、何でもないのだろう特にこれといった表情を変えることもなくジンは背を向けつつタバコを口にくわえ火をつける。

ジッポからカシュッという音がしジンはその煙を吐き出した。ジンはいたくご機嫌であり夜道を歩き続けると


「ウォッカ、飲むぞ」
「へい!喜んで!」


と笑ってくれているウォッカとジン2人からの視線を感じたリレだが特に言いたいことも無いので何も言わず夜空に煙が漂っていき小さく笑うとジンがリレの頭をぐしゃりと撫でた。

そうしてジンと訪れたのは駅にほど近く、そして人が入らないような暗い裏道を歩いた先のこじんまりとしたカクテルバー。

リレはジンのコートの裾を掴みながら(それにしても)と考えたのは、この裏道というか裏路地はどことなく見覚えのあるようなないような何だろうこの既視感と言うもので。

そんなことを考えながらもジンに続き暗闇に佇んでる小さな小さなカクテルバーにウォッカも当然のように扉をくぐり抜ける、が未成年である僕が入っていいのかわからないが今更である。
保護者同伴とも言えないが同伴であろうそれに、ちょっとだけ笑い従い歩く。

ジンもウォッカもカウンターに座りいつものようにウイスキーを飲みリレには柚子蜜スカッシュをお願いしている。

マスターはそっと笑いつつグラスにお酒を注ぎ3人の前にコトリとおいた。

今この店内には人がいない。もしかしたら2人の行きつけであり、そして人の来ぬ時間帯に来ているのだろうかと1人考えつつもストローを口にしジュースを飲み込んでいく。

マスターはそんなジンとウォッカに声をかけリレをチラリと見つめてきたがその視線は優しいものであり


「ジン、君がウォッカ以外の人を連れてきたのは初めてですね」


そう微笑みながらグラスを拭き小皿にチョコ を置き差し出してきてくれた。
リレは笑い、置かれたチョコに手を伸ばし口の中に放り込むと幸せな甘さに頬が緩んでしまう。
そんなリレを見たジンは同じく己の前にも置かれているチョコの乗った小皿を前にスッとおきグラスの中身を口に含んでいる。
ジンのこういうさりげない優しい行動にも頬が緩んでしまう。もう一度言うが、頬が緩んでしまうのも仕方がないだろう。

そうしながら今度はマスター とジンとウォッカが話し始めており、そんな3人のポツリポツリと囁くような会話を聞いているような聞いていないような姿勢だその内容をぼんやりと聞きながらもう一つ、さらにもう1つとチョコをつまんでおく。

マスターと目が合い微笑まれてしまった。
よくわからないがリレもヘラリと笑いリレの頭をぐしゃりと撫でてくれたのはジンでありマスターに

「君の名前を聞いてもいいかな?」

と問いかけられる。
リレはどうしたものかと考えてしまったがジンの軽い視線は好きにしろということだろう、


「リレ」
「リレ?」
「うん、リレ」


名もないカクテル、キナ・リレ。
マスターはそっと笑い


「私は“神風”と申します」
「神風さん」
「ふふ…お好きに呼んでくださいね」


そう神風さんは笑い、ジンのグラスが空になっているのを確認した神風さんはウイスキーを持ちつつジンに
「おかわりは?」
と問いかけてきた。

ジンは少し悩むがグラスを差し出し神風さんはグラスに注ぎ入れ同じようにウォッカもグラスを空けている。

明日はオフだったと言っていたので今日はめちゃくちゃ飲む気らしい。
ウォッカがグラスを空けるスピードが速くなっていきリレはそんなウォッカをジン越しに見つめてしまえば薄く明かりを絞った光の中でもウォッカの頬が少し赤くなってきているような。
そうしていながらもリレのグラスは空になり飲み干していく。


「もう一杯いかがですか?」


その言葉にリレは悩み、ウイスキーをショットで飲んでいるジンを見上げ、ジンも同じように少し悩むと


「グレープスカッシュを」と。
「かしこまりました」


神風さんはリレの前のグラスを取り新しいグラスにジュースを注いでくれた。
そして新たに目の前に置かれたグラスの中身をすするとブドウの濃い味としゅわしゅわとするそれに笑っていれば神風さんもリレを見つめてくるがリレが気づくこともなくストローからジュースを吸っていく。

店内は相変わらず静かな音楽が響いておりいつの間にかウォッカはテーブルに突っ伏して眠りにつきそうになっている。

ウォッカ、そのまま寝たらサングラスが割れてしまうよ、と言いそうになるがジンも神風さんも気にもせず、本当に明日はオフなんだなぁなんて考えてしまいジュースを飲む。
次の瞬間、突然ウォッカが顔を上げ


「アニキ!どこまでもついて行きやす!」


と。そして再びテーブルに突っ伏してしまい思わず神風とリレは小さく笑ってしまった。

ところで僕、いやウォッカとジンはどうやって帰るのかな。









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