この世界で迷子の僕を(全80話)



ある日の夕暮れ時、車を動かすジンとウォッカにいつものようにリレが同乗し、赤い夕陽と流れる景色を見ているが それはもう機嫌がいいようでありジンの髪に触れていた手を放し歌い出す。

この歌はきっとこの世界にはないのだろうかわからないが思い出すように口ずさむ。

ふんふんふん

そうしてればジンとウォッカが信号が赤に変わった時、2人は揃ってリレを見たがリレ気づいておらず己の手先を見つめそれでも歌うことは終わらない。ほんの少しだが2人はジッとリレを見つめるがすぐ視線を進行方向へと向け小声で話しだす。
その内容はわからないものだしリレは興味や仕草を見せてだからまあそういうことだろうな。

赤い世界に走り出す車。陽の光はリレ達の顔を照らしだし 一旦リレは歌を口ずさむのをやめた。そんなリレにジンとウォッカは黙り込みそして

「リレ」

とジンがつぶやいた。


「何?」


とリレは首を傾げながらそっと身を寄せ問いかければ


「今の歌、」
「うん」
「お前が考えたのか?」
「え?」


思わずポカンとしてしまったがその内容をしっかり理解すればリレは困ったような表情を浮かべるほかなく、下手なことは言えないなと心を決める。


「そうかもしれない、けど、違うかもしれない」


そんな曖昧な答えにジンは眉間にシワを寄せ、リレをほんの少し気まずそうになり、そして思いついたのは今の僕には文明の利器があるではないか、と、携帯があるではないか!と。

ミラー越しにジンの視線を感じながら携帯からネットに繋ぎたった今自分が口ずさんでいた曲のタイトルを打ち込み検索すれば画面に出てきたのは一件のヒットもないという それ。
もしかして僕が知っている歌は全てこの世界のないのだろうかと考えてしまい、今度は 別の曲名を打ち込み検索。
その結果やはり一件のヒットもなしというそれ。

つまりこの曲は自分で歌う以外に街中やデパート、どこかしらに流れることはないということに考えいたり、リレは息を吐き出してしまった。


「そうかもしれない、でも違うかもしれない」


その言葉をジンは呟き返しリレは少し考えると「昔なんとなく聞いていたのを覚えているが」でもきっとこの世界では誰も知らない歌なんだろうな。どう答えれば一番疑われないのかということを懸命に 悩み考えていても思い浮かぶこともなく、リレはチラリとジンの視線に視線を絡め


「この歌は、僕以外に知ってる人はいないよ」
「つまり?」
「僕の、なんとなく浮かんだ 歌」


それ以外の言葉は見つからず 改めて自分のポンコツ脳では考えられないでいる。
それでもジンは探るようにリレを見つめ眉間にシワを寄せたが、すぐ、まあいいだろうと思ったようでジンは視線をそらし煙草に火をつけ吸い込んだ。

そのことにほっとしたリレは携帯を閉じ窓の外の流れる景色に意識を向けてしまうとまた再び歌を口ずさんでしまい、ジンとウォッカはリレを見たがリレは気づくこともなく、ウォッカは
「ご機嫌だな、リレは」

なんて呟いている。その言葉はリレには届かなかったようでリレはチラリとも目を向けず歌うとジンも小さく笑いリレの鼻歌に耳を傾け車を走り続けている。

ところでジンとウォッカはどこへ向かっているだろうか、と不意に思い立ったリレは歌うのやめジンとウォッカの背に問いかける。


「どこへ行くの?」


そんなリレの言葉には煙草の煙を吐き出しながらほんの少し思案するがすぐミラー越しにリレを見つめると一言。


「とあるビルの要人と顔を合わせる」


お前は部屋の外で待ってもらう、時間はかかるかもしれねまあ、待てるな?

そう問われるとリレは本の少し息を飲むとそっと視線を落とすが、すぐ顔を上げしっかりとジンを見つめ頷いた。


「いい子だ」


そんなジンの言葉の頬がゆるんでしまい、リレはハミングに切り替える。

そうしていれば夕陽が沈み街灯が道を明るく照らし始めリレは椅子に思い切り背中を預けると静かな室内にはリレの歌が響き、自然ウォッカもその歌に耳を傾けてしまう。
騒がしいものではないが静かなそこには心地よく流れておりジンは煙草をシガレットケースに押し付けそっと口端を吊り上げた。

そしてどれほど経ったのだろうか、辺りはすでに暗闇に覆われており3人を乗せた車は街中のほぼ中心にあると言っても過言ではないくらい高く高くそびえ立つビルの前にスーッと停車した。

ビルからは明かりが漏れておりまだ働く人間がいること教えてくれている。
3人は車を降り迷うこともなくビルへ足を踏み入れた。


「望月に、8時」


受付嬢はそのジンの言葉に
「伺っております」、どうぞ、とエレベーターへ案内され3人はエレベーターに乗り込み最上階のボタンを押す。そうすればエレベーターの扉はスルスルと閉まり静かに上昇する。

ジンとウォッカはボソボソと話し合いリレはそれに気を向けることもなく再び邪魔にならない程度に歌を歌い始め階数のパネルを見上げそしてジンの手がリレの頭をポンと撫でる。

リレは驚いたように肩を跳ねさせながらジンを見上げてしまう。もしかして、うるさかったのでは、と考えたそれはどうやらそうではないらしく

「その歌、」


後で歌って聞かせろであり、それに対し「うん」と頷いてしまった。
いや待って、全部ちゃんと歌えるのか?そう悩んでしまっていても頷いてしまったのだから歌うしかない。

ジンは満足そうに笑うとエレベーターは調度よく最上階に止まりその箱を降り、理事長室と書かれたプレートを見てからウォッカが扉をノックする。

ジンはチラリとリレを見下ろしリレは心得たと言わんばかりに頷き扉の脇に立ち、すぐ室内から男の声でどうぞ、と。
ウォッカは扉を開けジンと共に室内へと入っていく。リレはそんな二人を見つめ扉の脇に腰を下ろし座り込むと、ぼんやりとしながらもここで歌を歌っていく。
そうしていれば少しは気が紛れるだろうからというその自身の考えはうまくはまってくれているらしく、いつもよりは気分が悪くなってこない。

静かにハミングしていれば室内か ほんの少し慌ただしい音がが耳に入ってきたがすぐその音は消え去りリレはそっと 立ち上がり扉は多分もうすぐ開き出てくるのだろう、と。

そうして待っていればその予想は当たったようであり、ガチャリとジンとウォッカが部屋から出てきてリレの頭ポンと撫でてきた。


「今日はずいぶんと機嫌がいいようだが、」


そこで言葉を途切れさせ


「気分はどうだ?」
「うん。いつもより全然平気」
「そうか」


そうジンは笑ってリレの頭をぐしゃりと撫で回し


「行くぞ」

と歩きだす。
ウォッカが扉を閉めるその僅かな隙間から室内が見えたが理事長であろう男は大切そうに何かを持っており、こちらに向かって頭を下げている。
そういえばウォッカの手にアタッシュケースがあり、何かの情報を渡したのだろうか。

リレは視線を戻しながらまあ、いいかと頷くことにした。
僕は何も知らない、見ていない。









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