この世界で迷子の僕を(全80話)
ふわりとした浮遊感にリレはぼんやりと目を覚ませばそこはジンの腕の中であり、何とも言えない鉄臭い香りにリレは眉間に皺を寄せてしまう。
けれど意識を取り戻したリレは、なぜジンの腕の中にいて、 そしてなぜそんな状況になっているのかの理由もすぐ思い出したのは倒れる寸前までのそれ。
暗闇に光る黒い液体ともいえる赤い液体。それをモロに食らってしまったリレは、まあ恐らく恐怖のキャパシティを超え意識を失ってしまったのだろう。
「ジン……」
ポツリとそう呟けばジンはリレを見下ろし「起きたか」そう問いかけられた。
それに小さく頷きながらもここはどこだろうと考えていればその答えはジンが簡単に教えてくれた。
「家だ」
そしてここはエレベーターの中。
近くにウォッカがいないのはなぜだろうと考えていれば
「ウォッカは今はいない」
「今は……」
「シェリーの所に寄っていくように言ってある」
と。
つまりジンは僕を家に送るために別れたのだろう、申し訳なさすぎる。たかが人の血飛沫を受けそして目にしただけで意識を失ってしまうとは。
これではジンの役に立つ前に 邪魔だと思われる割合の方が増えてしまうしそれはリレの望むところでもない。
ポーンと高い音とともにエレベーターは停止しジンはエレベーターを降りた。
ジン、歩くよ、という意思を伝えようとすればジンは小さく笑い
「無理だな、お前はまだ歩けねえ」
そう言われキョトンとしてしまったが確かに足も腰も力が入らないしこの精神状態では色々と無理だろう。
ここはもうジンに抱き上げられたままで過ごすことにしようと、そっと息を吐き出したがジンと己から血の匂いが漂ってきて下唇を噛み締め吐き気を抑えようとする。
そんなリレに気付いてジンは低く笑い
「この服は捨てる。部屋に入ったらすぐシャワーだ」
なんて言われようやくリレは安心したように息を吐き出し ジンの肩に額を押し付け目を閉じてしまった。
「リレ」
「うん?」
ジンは何事かを言おうとしたが口を閉ざし眉間に皺寄せると
「お前には少し早かったな」
そんな言葉にリレはキョトンとしながらもヘラリと笑い
「ジン、ありがとう」
何とか慣れるように頑張るから、ジンも遠慮しないで何でも言って、と。
ジンは低く笑って
「そのつもりだ」
と言ってくれた。
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