この世界で迷子の僕を(全80話)



リレの目の前で赤い花が散り 吹き上がる。それはほんの一瞬であったがリレからしたら途方もない時間にも思え呆然と固まってその場に立ち尽くしてしまった。
音、なんて鳴ったのかしなかったのかそれさえリレにはわからず、スローモーションのように人が倒れて花を広げている。

僕は一体どうしてしまったのだろうか。
どこかで遠くで人の声を、ジンの声を聞き足元がふらついてしまう。ぼんやりとした意識で目の前に倒れふした人をただただ見つめてしまい何も考えられない。

ことの発端はそう今日の取引に動いたジンとウォッカに当然のようについて行ってしまったが2人は少しも気にすることもなく、いつもならリレを車の中で待たせたりしていたが今日はどうしたのだろうか、その理由はすぐに理解した。

取引相手が少々厄介だったからだ。
ジンたちが何かを言うのも問題があるが相手がとある裏の世界の人間でありどこから広まったのか、リレの他言語理解能力があると広まっていってしまったためリレを一人で車の中に置いていくとは危険だろうと判断したためである。
取引場所に訪れれば人影はないが人の気配はするし暗い闇の中に立ってる人間も部下であろう人間がついておりジンとウォッカ、そしてリレを見つめると嫌に気持ちの悪い笑顔でジットリと見つめてきて、その視線から逃れるようにジンの背後に姿を隠し見ないように、見られないように動いてしまった。

そんなリレに気づいたジンと ウォッカは周囲を見渡しリレを己の背後に隠しておく。
そんな二人の行動に取引相手も目を細めつつも黙ったまま 3人を迎えてくれたがその男の視線はリレのことを捉えようと見ている。しかしジンも ウォッカも許さないでいる。

この空気の中ジンはタバコを咥えながらポケットから小箱を取り出した。


「金は用意できてるな」


そんなジンの低い声にしかし男はイヤらしく笑い「おい」と横に立ってる、おそらく部下であろう人間に声をかけ部下らしき男はスーツケースを持ち上げ中にある札束を確認させてきた。


「ウォッカ」
「ヘい」


皆まで言わずともウォッカが動きケースに敷き詰められている札束を1つ手に取り確認しそれに納得し確認し終えたウォッカはジンを振り返りそっと頷いた。つまりそういうこと。

ジンは小箱を見せつけるように手を上げウォッカを仲介のように物々交換を終わらせる 。取引相手の男は小箱を確認すると再びねっとりとした笑顔でジンの背後に隠れているリレを見ようと動くがリレはしっかりとジンのコートを掴んでいる。


「そこの君、顔を見せてくれないかな」


それはしっかりとリレの耳を揺るがすが、リレは無言でジンの背後から顔を出すことなく、男はさらに続けるのは


「何でも様々な言語を理解できるらしいじゃないか。私のところに来ないかな?今君はどんな待遇になってるか知らないけど、君の望むものは何でも揃えてあげる」


さあどうかな?

そんな粘っこい声にリレは不快気な表情を浮かべてしまうのだがジンの背後、背中に顔を押し付け黙っているので表情は誰も見ることはできない。
そして男は黙ってリレを視界に入れようとするがジンが許すこともなく、そんなリレの無言の抵抗に切れたように眉間にシワを入れるとジンとリレに手を伸ばしてきたがジンはその手を払いのけ


「てめえに見せてやるもんじゃねえ」


と吐き捨てた。そんなジンの態度に男は苛立たしげに舌を打ち

「いいじゃないか別に、私の役に立ってもらいたいんだよ」


なあ、リレ。
そう呟かれ、リレの喉から出たことはたったひとつの言葉 。


「僕の名前、気安く呼ばないでください」


僕はあんたに従うわけも相手になる気もジンの側を離れる気もありません。だから、もう、

「僕を見るな」


と。
それを聞いた瞬間ジンは愉快そうに、男は腹立たしさを顔に浮かべまた一歩ジンとリレに近寄ってきて再度手を伸ばしてきた。
その手を再び ジンは払い退け


「2度目の忠告は必要ねえだろう」

取引以外のことで構わないでもらおうか、と。
その言葉はジンの本の少しだけの優しさだが、ウォッカはそのジンの声色にさっと表情を変えすぐ笑みを浮かべた。
アニキの忠告を無視して突っ掛かる愚かな男。何も言わずにさっさと去ればいいものを、わざわざ逆撫でするようなその行動は


「バラされたくなけりゃとっとと失せろ」


そういうこと。
本当にそこで引き下がればいいというより男は三度目にしてジンに蹴り倒されてしまった。自業自得というものだろうが、男は声を荒げながら立ち上がり

「そっちがその気なら」
こっちにもやり方がある、と意味が分からないことを口にし、そして物陰に隠れていた数人の男たちが姿を現した。

これはもうら何て言うか逆ギレに近いのではと思いつつリレはジンのコートをぎゅっと掴みどうすることもできずにいるリレだが、僕が少しでも声を出して顔を見せれば、少しはこの 場の雰囲気が和らぐだろうか。無理だな。

早々に考えを放棄していれば皆が皆、手に物騒なモノを握りしめたりしており

「ほー、俺とヤル気か?」

そんなに消えてえか。
そう笑ったままジンは左手にベレッタを持ち構え、小声で
「キャンティ、用意はできてるか」
そんな声に気付きジンはいつの間にかワイヤレスのインカムを構えている。小声で指示を出し

「殺れ」


その一言に、次の瞬間、目の前にいた男の赤い血飛沫でが降り注いでくる。そしてジンもウォッカも動き、数多いる人間にほんのわずかも躊躇うこともなく銃弾を打ち込んでいき、およそ10人いた人間たちはあっという間に倒れこんでいく。
次の瞬間、リレが何者かに引き寄され

「動くんじゃねえ!」


そんな恫喝がその場に響き渡った。
ジンもウォッカも怪我はないが倒れている男たちの命はほぼないので小さな呻き声をあげている。そうその場。
リレのこめかみに銃を押し付けておりリレはただどうすることもできず固まってしまったがジンの目は見つめていればジンはそれはもう凶悪な表情を浮かべリレと男を睨み付けべレッタを構えている。

そうしてリレの背後に立つ男はジンは何事かをまくし立てるように叫び怒鳴り

「こいつがどうなってもいいのか!?」
てめえの命とこいつこ命、どっちを優先するんだ!死にてえか?死なせてえか?どうなんだ!

もはや意味がわからない。

首に腕を回しており銃がギリギリと押し当てられ男の生ぬるいに息に嫌悪感が込みあがってきてそんな状況だというより自分は随分呑気だと思い、そして乾いた音と共にリレの身体に血飛沫が舞い散りそしてふっと力が抜ける様にリレは膝から崩れ去ってしまいその意識を失ってしまった。
ド シャリ、ピシャリ、と水音が響いた。







 
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