この世界で迷子の僕を(全80話)



ジンが言葉を聞いてくれなくなってから暗い暗い月の光を 窓越しに浴びつつ時刻はまもなく夜の9時を指し示す。

リレそんなジンの横顔をチラリチラリと見つめるが視線さえも与えてくれずリレは俯き手を握りしめてしまう。
ウォッカは車を路肩に停めるとジンと共に車を降り、リレはドアを開けるか悩み、黙って座り込むことにした。
だって朝ジンに1人で待っていられるな?と言われていたし僕も頑張る旨を伝えようともした。だから車から降りない。

そしてうつむき足先を見つめているリレをチラリと見たジンはほんの少し笑い、しかし、リレに声をかけることもなくウォッカは何とも言えずジンの横顔をほんの一瞬だけ見つめ直ぐ前を向くが気になるのは、四六時中一緒にいる「リレ」という存在に絆されてしまっていることであり二人の仲を取り持ってあげるべきだろうか、と。
けれどジンの言葉や動作、表情を見ていても小さく笑っているジンは中々にいい性格をしているようだ。

結論、危ない橋は渡らないことに限る。

ウォッカは早々にリレとジンの間にあるやり取りを気にもせず歩いて行くのは駅横にあるコインロッカー。

その影に立ち、すぐ現れたのは一人の男、そう取引相手だ。

男はジンウォッカを見つめると手に持っているスーツケースを差出しジンとウォッカは会話を二言三言かわし、スーツケースを受け取り小箱を渡していく。
それはシェリーから受け取ったもの。
再び言葉をかけあうと男は小走りで行ってしまい


「随分あっさりしてやしたね、アニキ」


そうウォッカがジンを見つめるとジンが低く笑い携帯を取り出すと何処かへと電話をかけ


「古山の後をつけろ。薬を飲んで逝っちまったらすぐ回収、いいな」

そう低く低く。
ジンの電話からそれに対する言葉が少し聞こえてきたがジンは携帯をしまい込むと


「行くぞ」


と歩き出す。
リレを置いて行ってからおよそ15分。しかもリレに言葉をかけることなく、路肩に泊まっている。そしてスモークガラスから中の様子は伺い見れずジンとウォッカは車に乗り込みほんの少しリレを見ようと振り返ればリレは後部座席のドアに体を預け真っ青な顔で意識をなくしてしまっている。
それにはさすがのジンも驚いてしまっておりジンはリレの名を呼びながらも片側のドアを開けリレの頬に手を触れる。 そこでリレの目蓋が揺れ、そして金の瞳がジンのモスグリーンの瞳と見つめ合ってしまった。

そうしてぼんやりと見つめ合っていればリレはすぐハッとして頬に触れてきているジンの手を掴んでしまう。
そんなリレにジンはそっと息を吐きリレは肩を跳ねさせるがジンは低く笑って離れていく。
しかし意識を取り戻せば車の外では相も変わらず強い雨が 叩きつけるように降ってるのを感じる。
ウォッカは運転席に座りジンは上半身は車内に入っているがしかし強い雨に打たれていてリレは慌てて


「濡れてるよ」


と口にした。
ジンはそんなリレの言葉にやはり少しだけ笑った後リレの頭をぐしゃりと撫で後部座席から立ち上がり助手席へと身を滑らせた。
しかしたった数秒であったのだがジンの服はびしょ濡れであり腰を下ろしたジンは軽く帽子の水気を取り払い被り直している。

ジンは許してくれたのだろうか。

さっきはジンもウォッカも黙って行ってしまったがリレは車に乗って待っているので戻ってこないということにはないだろうが、それでもいつものように一言

「待っていろ、すぐ戻る」
なんて言葉もくれなかったそれに対してだんだんと気持ち悪くなってくる。そういえば ジンはジッポを渡してくれなかった。それに気づくと肩が震え口の中に唾液が溢れていく。

吐いちゃダメ、外に出ちゃダメ、二人の後を追いかけるのはもっとダメ。

そんなことをぐるぐると考えていれば吐き気が遠退いていき激しい目眩に襲われてしまい、10分待っていても戻ってこない。

あ、もう無理だ。

そしてリレは己の意思で意識を俗世から飛ばすことに成功した。それから5分ほどでジンとウォッカが戻ってきて後部座席で目を閉じて深く眠っているようにも思えるリレを見つけてしまった。
それにはさすがにジンも驚いたようだが直ぐ意識を取り戻し目を覚ましたリレを見て安堵したのは誰も知らないところであり、そして先ほどのジンの行動である。

今のリレへの行動を思いかければジンはもうあまり怒ってはいないようでありリレはそっと息を吐き出しそうになるがそれでも笑って2人に

「お疲れ様」

という言葉を投げ掛けた。
ウォッカは「おう」頷き、ジンはタバコに火をつけミラー越しに


「まだ許してねえからな」


そう言われてしまった。その言葉に一瞬で気分が下がってしまい落ち込んでもいればジンは「リレ」と呼び掛け、リレはすぐ顔を上げた。


「何もなかったな?」
「多分、途中から、その…寝てたけど……多分誰も来なかったし、何もなかったと思うよ」


そのリレの言葉にジンは小さく笑うと

「ウォッカ、家だ」


そう呟いた。









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