この世界で迷子の僕を(全80話)



「ベルモットが日本入りした」


その言葉を聞いたリレは

「本当?嬉しい」

そう素直に喜びの感情を伝えジンは本の少し苦い表情を浮かべるが、特に何事かを言うこともなく車を運転している 。

ベルモットともシェリー同様 よくメールのやり取りをしていたが、ベルモットと顔を合わせるのは2度目であり、ついつい心がわくわくと弾んでしまう。

ところで、どこでベルモットと合流するのだろうとしていれば、ジンはタバコを勢いよく吸い込みパチパチと火が爆ぜる音が耳に入る。そうしてしばらくジンもウォッカもリレも黙り込んでしまうが別にジンの機嫌が悪いわけでもなく僕が声をかけるのを躊躇っているわけでもなくリレは携帯に視線を落としている。

ベルモット、僕に日本入りするなんて教えてくれなかったけど、どうしてだろう?とふと考えてしまうがまあいいだろうとして頷きメール画面を閉じ携帯はコートの内ポケットにしまい込むと顔を上げた。

ミラー 越しにウォッカと目が合い、リレはジンの斜め後ろからジンの顔を眺めていき、そんなリレに気づいたらしくジンもチラリとリレを見やりほんの少し口端を吊り上げた。

滞りなく、なんてことはない 道路だがそれでも別段混み合っているわけでもない。

ジンはタバコを1本吸い終えるとそれに合わせたようにジンの携帯が着信を告げ、ジンは車を脇に寄せ視線を携帯に向けた。


「俺だ」


ジン、逆詐欺?

いや、違うだろうけど、何事かの会話を聞く気にもなれず また窓越しに外を見つめていれば歩道を歩いてる一人の人影に一瞬息を飲んでしまうのは、あれって、もしかしてもしかしなくても工藤新一その人ではないだろうか。

毛利蘭の姿は無いし時間的にもきっと登校しているところなのだろう、見なかったことにした。
そのうちにジンは通話を終え 一瞬見えたその表情が酷く不機嫌なものであり


「リレ」
「何?」
「これから行く先で、俺とウォッカ以外の人間と口をきくな、答えるな、話すな」


と。
そして俺の側を離れるな。


「うん、わかった!」


そんなの、大歓迎に決まってる。そう言わんばかりに答えれば最初の不機嫌な顔は治まっていないものの少なくとも、 リレやウォッカに八つ当たり紛いのことはしないだろうし、ジンは大きく息を吐き出すと車を発信させた。

リレの脳内ではジンは苦労人 という言葉が浮かび上がってしまう。言わないけど。

そうして車を走らせていれば 街のほぼ中心にあると思われる大きなホテルにたどり着き ジン、ウォッカ、リレは車から降りるとジンはリレを見つめリレは小さく頷いておく。

何も言わない、答えない、話さない。

歩き始めた二人の背中を追いかける。歩き出しつつジンのコートを少し掴んでしまうがもうすでに当然のような行動には愚問であり、エントランスへと進んでいく。

白い床に白い壁 エントランスの正面には受付嬢が座っており、黒ずくめのガタイのいい大きい二人に対してもここは プロ根性が叩き込まれているらしくそれはもうにこやかに言葉を投げかけてくれた。

ジンはそんな受付嬢の言葉に

「泊まりじゃねぇ、知り合いに会いに来た」

そう告げ、受付嬢はかしこまりましたと笑ってくれる。そうしてエレベーターへと足を進めたジンの背中に引っ付いているリレを見つめると、さすがに驚いたようではあるが 特に何も言わずエレベーターに乗り込みジンは最上階のボタンを押す。

スルスルと3人を乗せた箱は動き出し特にどの階で停止することもなく最上階にたどり着く。
そういえば このホテル、初めて出会った時に連れてこられたホテルによく似ているが、如何せん、あの時は 辺りを見渡すほどの余裕もなかったし 行動はほとんど夜だった。
あ、いや、昼間も外出はしたけれど、まあいいか。

エレベーターはポーンと高い音を出しながらピタリと止まり扉が開いている、そこはカクテルバーである。
まだ昼の12時を回るか回らないかの時間であるが、いる人間はいるもんだ。

たった今来たジンとウォッカ とリレしかり、ベルモットしかり。

ジンは歩きウォッカもその後に続きリレも後を追いかけた。


「 早かったじゃない」


ベルモットの横に座ったジンにベルモットが笑顔で声をか け、ジンは無言のままバーテンが置いた水の入ったグラスを傾けた。


『それで、何の用だ』


英語で話しかけたってことはあまり聞かれたくない内容だということだろう、ウォッカはジンの横に座りリレは多少悩みながらもベルモットの横に腰を下ろす。

3人、というか2人の会話に耳を傾るも、そうしてベルモットが話してる内容というのがちょっとリレが聞くのは宜しく無いモノだと察するとリレはすぐ顔を背け、目の前の棚に並んでいるお酒の名前を眺めることにした。

僕は無関係。僕は無関係。









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