この世界で迷子の僕を(全80話)
ジンとリレは散歩をしながら(主にリレが、だ)が周囲を見渡しながらご機嫌に歩いており、そんなリレを見下ろしながらもジンは小さく笑いタバコの煙を吐き出している。
優しいが少し冷たい風に顔が冷えていきリレは本の少しフルリと肩を揺らし
「どうした」
とジンに問いかけられた。そんなジンの言葉にリレは息を吐き出しながらジンを見上げ
「寒くなってきたね」
そう一言。
「寒いのか?」
ジンの呟きはきっと「今」寒いのかということだろう。
いや、そうでなくても最近は冷えてきて、もう少し暖かい 装いをしたいと言ってもずっと黒いズボンにシャツにコートだからこれ以上暖かい装いをするとしたら手袋とマフラー くらいだろう。耳当ては却下だが。
そうして二言三言と言葉を交わしながらジンがリレの手を引き歩いて行き、たどり着いたのはファッションセンター。
マンションからは近いような遠いようなその距離だが時間だって開店してからそれほどの間もない。迷わず店内へと行けば明るい光に陽気な音楽が流れている。歩くジンに引っぱられついていけばジンが立ち止まったのはメンズの上着コーナー。
「選べ」
いや、ジン。選べって、そんな簡単に。
例え選んだとしても普段休日 以外はジンとウォッカ……恐らくウォッカ だが、だろうが揃えてくれた黒服をまとうんだからあまり必要性を感じない。だけど僕の服は少ない。
そんなに服のレパートリーを増やしたいというわけでもないがと考えながらジンの手を離しそっとハンガーにかかっている服に手を伸ばして見つめる。
この組織はコナン君が黒の組織というようにどいつもこいつも黒い服を身にまとっているからだろうリレの目も自然 黒い服に目がいってしまう。けれど、なかなかリレの気に入るような服もなく 目に入ったのは真っ赤なネックシャツ。
真っ赤と言ってもワインレッドのような深い赤なのだがリレの手はそれに伸びその服を見つめるとリレの背後からジンの手が伸び服を取られてしまう。
「これはだめだ」
と言われてしまい、いまいち意味が分からずもジンの言うことは絶対なのでその服を元の位置に戻すことにした。
……もしかして赤井秀一の「赤」なのだろうか。
そういえば 古い記憶から赤井さんは赤い車に乗っていたような。あ、でも黒いジープ?のようなものにも乗っていたような……もしかしたらただのジンの好みの問題かもしれない。なら従おう。
別にそれが気に入ったわけ訳ではないし次に目に入ったのはいつもジンが来ているような藍色のネックシャツとモスグリーンのネックシャツ。
この服、ジンの瞳の色によく似ている。
それを手に取り眺めながらも 今度はジンの手が伸びてくることもなく
「他にも揃えておくか」
などと呟いているのでリレはジンを振り返り
「買うの、探す?」
そう問いかけた。
「そうだな」
ポツリとジンは呟き、何事かを思案したがすぐ決まったようで
「いくつか選んでろ」
と。
そうしてリレから離れて行きそうになったジンの手を慌てて掴んでしまいジンがリレを振り返った。
「……ジン……」
「選んでろ」
もう一度同じ言葉をもらし、ジンはどこかに行ってしまうこともないのだろうが店内のどこに行ってしまうのかもわからず不安になってしっまたが、ジンは少し考えリレの頭を優しく撫でると
「すぐ戻る」
どこが遠くへは行かねえよ、それでもリレはジンの手を掴んでジンを見上げてしまい、そっと唇を噛みしめた。
「耐えられるな?」
「…」
ジンの優しいような問いかけに答える余裕もないがそれでもジンの邪魔をしたくなんて ジンの手を掴んでいた手の力を抜き離した。
「すぐ戻る」
だからお前は全部揃えてろ。普段着と寝巻きに下着、そしてズボン。
離れて行ってしまったジンの背中を見送るとリレはすぐ“ジンが側にいない”ということをごまかすように服を選び手に抱えておく。
それにしても3ヶ月と少し、あんまり必要としなかったので今買わなくても問題ないような…あるか……。
ホテルにいた時もルームサービスやらクリーニングをしていたからそれ程の必要性は感じなかったが。そんなことをグルグルと考えながら赤以外の服を探す。
そういえばキールもベルモットもキャンティも黒いライダースを着ていたが、特注なのだろうか、まあどうでもいい。
シャツ3枚、ズボン2着、下着数枚などなどを揃えジンを探そうと首を巡らせればあの高い身長である。ジンはすぐに見つけられた。
腕の中の服を落とさないようにジンに近寄ればジンが見ていたのは薄手のコート。
それを見つめており近寄ってきたリレに気づくと、リレの腕の中の服を見つめ
「もういいな」
そう言われる。リレはそれに頷きたった今ジンが見つめていた黒いコートに視線を向ける。
「いるか?」
「……いる」
いらないと言ってもジンの家で過ごす間に羽織るものになるのだとしたら、ここは遠慮せず購入しよう。
選んでいる時間はそれ程経っていなかったのでジンは薄手のコートも手に取りレジで精算を済ませファッションセンターを後にした。
わりと購入したなと思いつつ 思いつつ重い袋を持ちジンのカーディガンの裾を掴んでしまった。
そう、癖だ。
ジンはチラリとリレを見下ろしリレに向かって左手を差し出してきて、リレもそれに笑いかけながら手を掴み握りしめる。
太陽はほぼ真上に位置しており暖かい日差しがジンやリレ、そして人々のことも照らしてくれている。
荷物は重いがジンと歩くのは嬉しいのでニコニコと笑いながらも周囲を見渡していればジンは薄く笑い
「覚えておけよ」
そう言われた。
「うん、覚える」
と答えたリレにジンは満足したようにもう一度 低く笑い
「いい子だ」と言われてしまえばリレも満面の笑みでジンを見上げてしまう。
朝ほどではないが、それでも冷たい風が二人の間をすり抜けて行きリレはフルリと肩を揺らした。
「帰るか?」
「んー……うん、荷物重い」
そう素直に答えればジンは「そうか」と返してきて、
「まあ、散策はいつでもできる」そのお言葉、もっともです。そ頷きながら人とすれ違いタワーマンションへと戻ってきた。
エレベーターに乗り込むとスルスル登っていくのを感じつつジンを見上げ、パネルを見つめあっという間に上階にたどり着き、ジンはさっさと歩いていく。
自宅の鍵を開けリレを振り返る。リレは荷物を持ち変えながらジンと共に扉をくぐり抜け室内へと入ればジンは欠伸をしながらソファーに腰を下ろしており、リレもそれに習うようにソファに腰を下ろしながら袋から服を取り出し札を切り外したたみ直していく 。
「クローゼットの中のタンス」
「?」
「好きに使え」
「うん!」
ありがとう、ジン!そう言いながらリレは買ったものを持ち寝室のクローゼットに歩み寄る。
好きに使えといったジンだがそこには本のわずかなリレの服が集められているのでそれを整理していれば背後から
「リレ」
と名を呼ばれ、すぐ振り返るとジンが服を脱ぎながら歩み寄ってきて、どこが不機嫌そうにを呟いたのは
「仕事が入った、用意しろ」
というもの。
ブラック企業。
そう呟きそうになったがリレは頷き同じように着替えることにした。
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